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イケメン巨根おじさんについて11〜営業編〜はじめて契約をゲットした時。
翌日も、その翌日も、私はチンピラさんと外回りをした。
相変わらずでくのぼうさんの車はスピーディーに消えていく。
いつも置いていかれる私と、面の怖い男。
しかし、彼は嫌な顔一つせずに私に指導してくれるのだ。なんて健気…。
その後、自社工場で商品説明を受けた際にも、作業員からあれこれ手伝ってと言われ、何故か検品作業をさせられていたし、
外回りを終えて社に戻ると、何故か後輩が使うはずの資料を準備していた。
この男はなんてよく働くんだ…。なんて健気なんだ!この顔で!
そんな彼が熱心に指導してくれたおかげで、私は着々と営業方法を身につけていった。
私は「ナメた若者」だと思われるのが嫌で、必死に仕事を覚えた。
できる限り指示通りに動いた。
他の男性職員に負けないように働いた。
「女」という理由でも、ナメられたくなかったのだ。
何故なら、当時の私は「フェミニスト」だったのだから。
そしてある日、その努力が功を成した。
なんと、新規の契約が取れたのだ。
最終契約にはでくのぼうさんの同席が必要なのだが、この契約はでくのぼうさんの最後の一押しが決め手だった。
ゴーーーーーーーール!!!
チンピラさんが何度も私にパスをし、私はゴールの前まで全力疾走。
なんとか受け取ったボールをやみくもに蹴り、それを受け取ったでくのぼうさんが、華麗なシュートを決めたのだった。
契約書に判が押される時。
それは最高に気持ちが良い瞬間だった。
高ぶる気持ちを押さえて、冷静を装いながら新しい取引先に挨拶をし、外に出てから、でくのぼうさんとチンピラさんに礼を言った。
外に出てからの私は、アラサー女性にしては珍しいほどの浮かれ具合だった。
私の浮かれ具合を見て若干引いていた2人だったが、同様に喜んでくれていたと思う。
でくのぼうさんが見事なシュートを決めた姿を見て、やはり仕事の面では尊敬するべき存在だと思った。
それでも、人間性には問題があると思う。
その日の夜、初契約のお祝いと称して飲み会が開催される事になった。
正直、行きたくはなかった。
『頼む。少しだけお前の事を見直しているんだから、しばらく、そのままにしておいてくれ。
私は今、お前の本当の姿を見たくないんだ。』
と思ったのだが、直属の上司が私の為に飲み会を開いてくれると言っているのだ。
断れる勇気など、私にはない。
飲み会には、何故かメンヘラちゃんも来るとの事。
なにやら不穏な空気を感じざるを得なかった。
地獄の門が開いた音がしたのだ。