原口健飛さんの試合を見て青木メレンデス戦を思い出しました。正しく堕ちて、歩を進めてほしいの巻
原口健飛さんとペットパノムルンの試合を見ての感想は「一番苦しい負け方をした」でした。戦前から敗戦は予想できていた(勝ってほしかったよ)のですが負け方も含めて苦しい試合でした。僕は打撃競技の選手ではないので細かいところまではわからないのですが、試合をしている選手からすると縮まらない差を感じたような気がします。まさに絶望だと思いました。
コロナ渦と格闘技市場が全世界で広がって世界市場との差が開いた今、絶望を感じられる試合が国内で開催できたこと、大会関係者の地を這うような努力を感じます。ペットパノムルン戦の実現には希望を感じるのですが、試合結果に対しては絶望を感じます。もしかしたら見なくても良かったのかもしれないし、見ない方法はいくらでもあったのに、それでも試合を組んだRISEの思想信念主義主張に価値と共感を感じます。おつかれさまでした&また期待しています。
ノックアウト負けはわかりやすく次に繋がります。ノックアウト負けすらさせて貰えない。ただただ実力差を見せつけられる試合。これは選手としては堪える。相当に堪える。まるで自分のことのように感じていました。自分の試合で言えばギルバートメレンデスとアメリカでやった試合がまさにこれで、25分間殴られ続けた試合で思い出したくもないのだけれど、自分を成長させてくれた試合を思い出しました。
原口さんの試合と僕の試合を同列に語るのは時代も背景も競技も違うから、原口さんからしたら気分を害するかもしれないし、僕も昔はどうだったみたいな話をしたい訳でもないのですが、今の格闘技シーンの何かのお役に立てるのではないかと思って書くことにします。
2010年4月17日にアメリカ合衆国テネシー州ナッシュビルで当時のストライクフォース王者ギルバートメレンデスに挑戦しました。当時の状況を雑に説明するとプライド崩壊後MMAの主軸が日本からアメリカに移った中、ファンも団体も選手も最後の希望を持って挑んだ闘いでした。(後は各自調べてくださいな)
試合は5分5R完封負け。50−45のスコアカードが表すように何も出来なかった。歯が立たなかったとの表現がこれほど適したこともないほどの完封負けでした。MMAに対する考え方、技術、市場と全てにおいて差を感じました。再戦したとしてもまったく勝てる気がしませんでした。まさに絶望です。これまた絶望という言葉がこれほどハマることがないほどです。
「このままじゃ胃の中の蛙で終わる」「帰れるかな。日本。」
まさに絶望。ここで正しく墜ちることができたことが僕の格闘技人生にとってプラスに働いています。ここで敗戦をごまかしてしまったとしたら、その後の頑張りはできなかっただろうし今の僕も存在しません。実は絶望せずに諦めてごまかしにかかる選手が大半です。それが引退であったり、切り口を変えて選手を続けることであるのですが、僕はそこに逃げずに正しく堕ちることでまた歩めました。
坂口安吾の堕落論の中の一節の通りです。人間は堕ちぬくには弱すぎるし、堕ちきれるほど強くもないのです。絶望したとしても絶望を結論とせずに前に進んでいくことが大切です。坂口安吾は「絶望は愚か者の結論である」とも言っていて、生きる上での大事なことは坂口安吾が大体教えてくれています。
ここからアメリカを見て2年間やりました。スタイルも今までの下から攻めるスタイルから、テイクダウンと上から攻めるアメリカ流のスタイルにチェンジしました。翌年のストライクフォースでは勝利して手ごたえを感じます。シンガポールのEVOLVE MMAでムエタイ流の打撃を強化して挑んだ2012年のベラトールではエディアルバレスにノックアウト負け。またダメどころか差は広まっていました。これまた絶望して堕ちて次に進んでいくの繰り返しではあるので割愛させてください。
あの2年間の取り組みを無駄だったとはまったく思いません。
あの2年間があったからこそ今の自分があるし、ギルバートメレンデス戦があったからこそ今の自分があって感謝しています。あの試合があって良かったと思っています。あの敗戦は自分の財産です。
結果は変えられないけれども解釈は変えることができます。
あの試合のせいでと思うか、あの試合があったからと思うかは雲泥の差です。日々目の前にあることに懸命に生きていれば解釈は常に前向きなものでしょう。結果は変えられないけれども解釈は変えられるのだから正しく堕ちて歩んでいくことが大事だと僕は思うのです。そのためにも正しく墜ちることが大切であって、とことん曝け出して恥をかけばいいのです。
選手によっては恥をかくことを嫌う選手もいます。それが賢いとも思うし、人としては正しい部分があるのも十分に理解しているのですが、格闘技選手として芸ごとをして生きているのであれば、とことん曝け出して恥を晒して生きてなんぼです。賢くなるな。自分を守るな。自分の芯の部分を曝け出したところがスタートラインだと思っています。がんばってね。
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