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本を読んだら 『手紙を書くよ』

『手紙を書くよ』橋本亮二/赤阪泰志/鎌田裕樹/佐藤裕美/佐藤友理/中田幸乃
十七時退勤社刊

1.note、サボってしまった

本を買うのが毎日の楽しみ。でも、読める量以上に買うことを続けると、積読の山がじっとりと腐臭を放つような気がしてくる。
それをさらに超えると、本が暴力的に自己増殖しているような錯覚にまで陥る。

あればあるほど幸せというのも分かる。
移動中に読む本を忘れたら、必ず補充する。
でも、積読の山脈を前に、「一生かかっても読めないなあ」とうっとりするだけの肝はない。

そんなわけで、積読の増殖に一定の抑制をかけつつ、確実に減らしていく方法をあれこれ模索している。
今は、年間に読む本の量を決めることと、持っている本を把握することが中心。
noteにも定期的に、長めの感想を残したいと思いつつ、前回からかなり間が空いてサボってしまった。
でもそれは、本当に書きたい!という気持ちが固まるだけの時間やきっかけが必要だということのあらわれであり、
noteに書かなかった本も、読みながら次の本につながっていくのだから、
悪いことではないのだと思う。

2.『手紙を書くよ』

十七時退勤社は、

社長(出版社の営業)と副社長(製本屋)と顧問(中央線某書店員)とインターン(いか文庫店主)と後援会会長(どむか主宰)による個人出版レーベル

十七時退勤社Xプロフィールより

で、橋本さんはつまり社長。
この本に「勤め先」として出てくる出版社の営業として、各地の書店を訪ねている。
そうして出会った書店員(当時)の方を中心に、往復書簡を交わす。往復書簡の前には橋本さんの、後には相手の方のエッセイが挟み込まれている。
思えばほとんどが「元」書店員の方だ。出版社に転職したひと、文化財団に勤めているひと、農家をしながら文章を書いているひと…書店で本を売る(橋本さん)、本を仕入れる(書店員さん)という関係で出会ったのだから、書店員さんがその場からいなくなったら、そこで関係が切れるのが仕事の人間関係かなと思う。
ところが切れるどころか、こうして個人的な出来事や思いをしたためた手紙を交わし、その外でも関係性が続いていることが読み取れる。

Podcastで一度聞いただけの橋本さんの声は静かでゆっくりとしていて、書店を回って新刊や既刊を案内し、フェアを提案し、注文を取り付けるという営業の仕事とはただちに結び付かなかった。
ただ、エッセイや手紙を読んでいると、橋本さんは本当によく歩いている。大阪で何軒もの書店の訪問予定を組み、効率よく回っているのだろうけれど、ご本人も「灰になりかけている」(10頁より)と認めるくらいだから、読んでいる方は目が回りそう。
それが出版社の書店営業という仕事なんだな、とつくづく思う。
とはいえ同じように書店を回って、同じように営業をしても、たとえ仕事という直接の接点がなくなっても心のこもったやりとりが続くような関係性を、複数の書店員さんと築けるとは思わない。
そこに、橋本さんにしかない魅力があるのではないかと想像する。

十七時退勤社の本にはISBNコードがなく、どこでも買えるわけではない。ただ、個人出版というにはあまりにも洗練された美しい本ばかりだ。
本よりも手紙のようで、手紙よりも本のような、少し小さく少し大きな範囲に届けられる本。
これからも、この版元の本を見かけたら、そっと手に取ることだろう。