ルナレインボー 前編
満点の星空の下、大瀑布にかかる月光の虹。幻の絶景ルナレインボー
僕がはじめてその話をきいたのは2005年、ビクトリアフォールズでの撮影を企画している時だった。
「南雲さん、ルナレインボーってしってますか?」
「なにそれ、どっかの銘菓?うまいの」
「違いますよ、月明かりで出る虹です。ビクトリアフォールズで夜撮影できるんですよ」
「お、なんかちょっと良さそうじゃないですか、」
アフリカ専門の撮影コーディネーターとの打ち合わせの中の話である。
以前撮影したという写真を見せてもらった。たしかにあんまり見たことない無い写真だが、いまいちパッとしないかなあ、でも悪くない、希少価値的にはイケてる。
「季節的にはどうなの?」
「あんまり良くないですけどね、まあ、原理的には満月前後3日間、晴れれば撮れるかもしれません。けど、どうかなあ、」
煮え切らない。でも昼間の滝の写真だけでも凄いのが撮れそうだし、サファリで動物とか、民族衣装着てダンスとか、喜望峰とかあるし。あわよくばルナレインボーだ!!アフリカ挑戦だ!
かくして我々はザンビア、ジンバブエ、南アフリカロケを決定した。
ヨハネスブルグを経由してジンバブエから入国。空港に着陸する直前、ジャングルの切れ目から巨大な煙が出ているのがみえる。「ん、なんだ火事か」よくみると、煙ではなく水しぶきがもうもうと舞い上がっているのだ。
「、、そうか、あれが、ビクトリアフォールズ」
巨大だ、だが、ジャングルに覆われていて滝の姿は全く見えない。
未知の姿に心が躍る。
空港に降り立ち、さて入国だと思ったら税関で僕とアシスタントだけ止められた、先に出たコーディネーターが戻ってきてなにやら揉め初めている。
僕らがもってきた撮影機材のカルネ
(ATA条約に基づき物品を他国へ一時的に持ち込む際に一時輸入通関を簡易に行うための制度。また、そのための通関手帳)
を税関に出した途端に難癖をつけ始めたのだ。南アフリカのヨハネスブルグを経由するのにこれが必要で取得してきたのだが、
「我が国ジンバブエはカルネに対応していない」
のだそうだ、えーっ!!!
でもさあ、じゃあだからなんだっていうのさ!散々やりあった挙句機材を没収され、デポジットを約300万円分持ってきたら返してやる。という事になった。Ai meu deus!!さらにワイロも求められるだろう、、
コーディネーターはカンカンに怒っている。だが、ジンバブエとはそういう国らしい。ムガベの独裁政権、ハイパーインフレ、汚職、人種差別、その反動による歪んだ政策、
意地悪そうな税関のスタッフが絶対だめだ。みたいに顎を上げて腕を組んで見ている。
同じ飛行機に乗っていたミュージシャン達は楽器をまるまる没収されていた、、おそらく彼らもデポジットを要求されているはずだ。
ビクトリアフォールズみたいな滝を有し、自然は素晴らしい国なのだが政治は本当に腐っている。
かくして、我々はビクトリアフォールズを目の前にして、カメラ無しで入国するという、マヌケな集団になってしまったのである。
300万用意するのに時間がかかり、その間は色々とロケハンしてまわったが、なにせカメラがないのでまともなロケハンにもならず、天気が良いと余計にくやしかった。
ホテルのロビーにボーっと佇む。
壁に巨大なカミキリムシがとまり、木にはヒヒがぶら下がっている。
アフリカまできてこれかあ、、、
3日後、カメラを返してもらえた。
ビクトリアフォールズは、撮影するにはかなり手強い地形をしていた。
ルナレインボーを狙える場所は二箇所、僕らは国境を越えザンビア側に陣をとった。
しかし、カメラのない3日間がおしい、満月も過ぎてしまったし、天候も悪くなってきている。
とりあえずチャレンジはしたが、結局馬鹿みたいに何日も嵐の夜に出ない月を待ち、危険な目にも会い、疲れ果ててルナレインボー撮影は惨敗した。
煮え切らなかったコーディネーターの表情が浮かぶ。
「甘かった」
「いつの日か、ぜったいリベンジする」
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ルナレインボー 後編へ続く