「記憶冷凍」

 脳が人体に与える影響は不思議なものである。

 近年の冷凍食品のクオリティーは飛躍的に上がり、今ではレストランの味をレンジでチンするだけで楽しめるようになった。さらにはその手軽さからダイエットブームとの相性も良く、進化を続けた結果ついには食事の記憶だけを冷凍させることにまで成功した。

 オムライスの記憶冷凍食品をスーパーで買えば、オムライスを食べた記憶だけを脳に刻むことが出来る。これによって脳は食事を済ませたと勘違いをして、体は空腹を感じなくなるのだ。

 女は酷く疲れていた。仕事でわざと多くの業務を任せられた挙句、無理だと伝えると上司は嫌味を浴びせ続けた。
 こんな時はやけ食いでもしたい気分だが今はダイエット中である。女は帰りに駅前のスーパーで、ピザやスイーツなど好きなだけ記憶冷凍食品を買い込んだ。

 女は病院のベッドで目を覚ました。
 頻繁に記憶冷凍食品による暴食を繰り返していたことで、血糖値スパイクを起こし意識を失って女は倒れたのだ。

 脳が人体に与える影響は本当に不思議なものである。