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自由律俳句#29 「不評な映画が面白くて不安」



 みんなで酒を飲んでいると最近観たドラマや映画の話になったりする。
 サブスクで視聴できる話題のドラマから始まり、最後に映画館で観た映画は何かという感じで移行していくのだが、「先週○○を観に行ったで」と答えた時に「俺も観に行った、あれ全然おもんなかったよな」と返されることがある。

 自ら先陣を切って答えたのだから、勿論面白いと思って発言したはずなのに、「そうやなぁ…ちょっと内容が薄かったよなぁ…」などと取り繕って答えてしまう。
「俺は観てないけど、俺の知り合いも期待外れやったて言うてたな」なんて言う三人目が出てくると、面白いと感じた自分が恥ずかしくなってきて「ちょっと待って、俺ってめちゃくちゃセンスないんちゃうんかなぁ」と不安になってしまう。
 この時点ですでに心が傷ついたカッコ悪い状態なのに、さらに追い討ちをかけられることもある。

「いや、俺はあれはあれでちゃんと面白い映画やと思ったけどな」

 自分の感覚を信じて疑わない四人目の登場である。
 これほど情けないことはない。もはや僕は存在する意義のない透明人間のようである。
 嘘をつく僕を含めると、その場にいる三人が面白くなかったと言っているのに、全く怯むことなく自分を貫くその姿に拍手を贈りたい。最初に恥ずかしいと思ってしまった自分が一番恥ずかしい。
 そこからその映画についての議論が交わされるのだが、もう最初に嘘をついた僕には発言する権利などなく黙って聞くことしか出来ない。
 いや、黙って聞いてるならまだしも、たまに「なるほどなぁ〜」などと全て理解している雰囲気の相槌を挟んでしまっている。

 家で一人で映画を観ている時も似たようなことがあり、レビューの星の数が少ない映画が予想していたよりも面白かったら、途中でまた不安になって一旦停止をしてしまう。
 別に面白ければそれでいいのに、「あれ、これ星二つ半くらいしかなかったよな」と星の数を確認してしまったりする。
 よく見ると星の数だけではなくレビューつけてる人数もかなり多く、大多数の人間が低評価だと感じている作品だと思うと、レビュー投稿者全員からセンスを疑われてる気持ちになる。
 もうそこからは面白ければ面白いほど不安になって、途中からは作品の粗を少しでも探すような訳の分からない状態になっていく。
 最終的には、うどんマップサタデーを見て心を安定を保っている。

 いつかはここに僕の激推し映画5選の紹介と作品レビューを、胸を張って載せれる男になりたいものである。



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