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毎週ショートショートお題 「決闘年越しそば」
幸男は決意の表情を湛えていた。
もうこれ以上、当たり前のように年越しそばを食べさせられるのが我慢ならなかったのだ。
「お母さん、今日の夜はピザが食べたい」
突然の幸男の言葉に母親は狼狽える。
「何言ってんのあんた、大晦日は年越しそばに決まってるの」
「せっかくの大晦日にそばて地味すぎるやろ」
「それにはちゃんと謂れがあってな、そばってのは麺の中でも切れやすく一年の厄災を切り捨てて、翌年に持ち越さへんて意味があるんよ」
「それやったら尚更ピザの方がいいやんか、最初に何等分にも切り離すんやから。実際そばは噛み切らんと啜って食べるし、それなら一年の厄災も苦労もピザカッターで完全に切り捨てれるよ」
「それだけじゃないの!そばは細く長いやろ。家族の寿命や縁が長く続くようにって願いも込められてるのよ」
「ピザのチーズの方が長く伸びるやん!そばは伸ばしたらすぐに切れるで、その点チーズはどんなに細なっても伸び続けるから」
「へりくつばっかり言いな!」
「そもそも年越しそばの由来がへりくつで出来てんねん!」
決闘年越しそばへの幸男の決意は、沸騰した蕎麦つゆのように熱く、ピザの具材のように様々な状況を想定していた。