毎週ショートショートお題 「誤字審査」
家に帰ると夕食の用意はなく、テーブルの上には妻のスマホだけが置かれていた。
「ただいま….どうしたんだよ椅子に座ったままで。今日は外に飯でも行こうか?」
「いいからあなたも座って、これを見て」
妻がテーブルのスマホをタップすると、先日妻が交通事故に遭った時に僕がお義母さんへ送ったメールが表示された。
「これが何だよ、変に不安にさせないように配慮したつもりだけど…」
「そうね、もの凄く的確に伝えてるわ。
じゃあこれを見て、これは私の友達が倒れた時に、旦那がお義母さんに送ったメールよ。動揺して誤字は多いし、慌てて全く要領を得ていない。
そりゃそうよね!だって自分の大切な人を失うかもしれないんだから!」
妻は怒りの表情を浮かべている。
「それに比べてあなたは何よっ!愛する妻が交通事故に遭った直後に、状況の分かる的確な文章と文字数で、よくも冷静に誤字なく送信出来たもんね!
ご丁寧に改行と字下げまで使ってメールを読みやすくして、救命士の台詞に「」を使ってんじゃねーよ!」
妻のあまりの激情ぶりに言葉を失う。きっと今なら誤字だらけのメールを作れそうだ。