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エッセイ

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今までの日々や、ささやかな僕の奮闘を書いていければと思います。
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#記憶

「泡のような夜の思い出」

「泡のような夜の思い出」

「なんか炭酸が飲みたいなぁ…」

 これは僕が子供の頃に時々聞いた、母親の口癖のような言葉だ。
 家にスナック菓子やチョコレートなどは基本的に置いておらず、小学校の二年になるまでは駄菓子屋にも行ったことがなかった。
 お菓子や甘い物を食べたい時は、いつだって母親の手作りが当たり前だった。
 駄菓子屋で買ったお菓子をビニール袋に入れて公園を走り回る光景に憧れはあったものの、子供のためを想い、

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「霊感体質な家族」

「霊感体質な家族」

 夏を迎え、昔ほどではないが心霊番組なども放送する季節になって来た。
 僕の知り合いには幽霊が見えるという男がいて、今ではほとんど会うことはないが、心霊番組などを見るとふと彼のことを思い出すことがある。

 彼と一緒にいる時など、いきなり「ワーッ!」と叫び声を上げることがあり、どうしたのかと訊ねると、黒い人影が後ろに立っていたのだと怯えて答えたりするのだった。
 ただ通常と違うのがそういった反応の

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僕だけの記憶

僕だけの記憶

いつまでも頭の中にこびりついて剥がれない記憶がある。

それは初めて恋をした瞬間の高鳴りや、酷く打ちのめされた瞬間の痛みではない。
そのほとんどが自分とは直接関係のない、ぼんやりと浮かんだ月のような記憶だ。
普段から意識しているわけではないが、ふと見上げればそこにある記憶。

保育園に通っていた僕は四階建ての団地に住んでいた。団地の前には住人用の駐輪場や駐車場が広がっており、団地の入り口か

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