🅂12 プランを考えてみる(完)
「A little dough」 第2章 プランを考えてみる 🅂12
➤プランを考えることが最初の一歩になる
この章では、私たちの認知力の限界を自覚しこれに対処するための「メタ認知活動」として、二つのプランニングを示しました。
(1)ライフデザイン・シートを作成する
ポイントは、最初にラフなものを作り、継続的に更新することです。自分の価値観、意思決定や行動などを振り返り、手元のライフデザイン・シートと比較します。何回か継続するうちに、自分の価値観がどういうものか少しづつ明らかになり、きっといくつものベクトルが存在していることに気づきます。それらを否定せずにメモとして書き留めておくと、やがて優先順位が見えてきます。ライフデザインがゆっくりと姿を現してくるという感じかもしれません。またその一方で、メインのビジョンに向かって、しっかりとマイルストンをこなしていくことが大切です。
(2)ファイナンシャル・プランを作成する
ファイナンシャル・プランはライフ・デザインに沿って作るものですが、ライフデザインの概要が見えてくるには、ある程度時間がかかります。そこで、結婚や子育て、住宅購入といったものを人生のオプションと考え、これらを取捨選択したモデルプランを前提に考えていきます。次に、すでに社会人の方なら、まず月単位の収入と支出を整理することから始めてみます。半年くらいで、財務フローの詳細や課題が見えてきます。次に年間バージョンをつくっていきます。2~3年の実績ができるころには、自分自身でシミュレーションが可能になっていきます。
➤二つのプランをラフにつくって継続する
繰り返しになりますが、これら二つのプランに共通して言えるポイントは、最初から精緻なものをつくらず、できるだけ全体を俯瞰しながらラフにつくることです。そして次に大事なことは、これを継続し修正していくことです。こうした過程で、自然に自分の価値観に気づきが生まれますし、結果的にプランが現実味を帯びてきます。
中長期的な視点では肩の力を抜いてリラックスして考えることが大事です。例えばデスクチェアーで姿勢を正しく保ち、視線をあげて大きく深呼吸すると、日常見えなくなっていることが、見えてきたりします。日常は厳しく、どうしてもタスクに追われがちになります。そうした時こそ時にはリラックスして自分のライフデザインと向き合う時間が必要です。
仕事納めのあと、家の片付けの合間にふと抜けたような時間ができることがあります。コーヒーと好きな音楽と一緒に、ぜひそういう時間を少しでも持っていただきたいと思います。
➤人生を価値観に委ねる
さて12回に渡ってプランニングについて考えてきました。第1章でみてきたように私たちの日常的な認知能力に限界がある以上、これをやみくもに信じるのではなく、少しでも補うような行動をとるのが賢明だと思います。計画とは、ガイドや道しるべの役割を果たしてくれます。私たちの人生は私たち自身で予想してみるしかありません。街頭の占い師に訊いて良いプランができるのならそれも一手ですが、きっとそう巧くはいかないでしょう。人生を運命と考えるのか、それとも個人の意思と行動の結果(=確率)と考えるのか、私は便宜上、後者だと考えることにしています。運命と考えたところで、占い師のように予測できないのであれば、意味がありません。その点自分の意思と行動であれば、私の価値観をベースにして、ある程度予測可能なのです。
➤私たちを導いてくれる価値観
ライフ・デザインにしてもファイナンシャル・プランにしても、プラニングは変化します。それは私たちの価値観自体が変化しているからです。そうであるなら、変わることを前向きに捉えるべきです。プロ野球選手を目指した方が、子供たちに野球を教えていたとしても、その根底に価値観の変化が伴っているなら、それによって生み出された結果なのです。何らかの環境要因でビジョンが実現できなかった時、価値観の変化をポジティブに受け容れて行動を変えていく勇気が、人生の飛躍に繋がることも多いはずです。
もし運命という要素があるとするなら、それは私たちの価値観を決定づける何か(遺伝子?)が与えられている、という部分かもしれません。でも、仮にそうだとしても、私たちを導いてくれるのは運命ではなく、価値観のほうだと思います。私たちが受け継いだ遺伝子に、私たちの出逢う人生の環境要因まで組み込まれているとは、考えにくいからです。言い換えれば、価値観とは、個々の遺伝子を持つ人間の脳が、その成長過程で環境とぶつかり合いながら形成されていくもの、と考えられるからです。
➤シンプルなことを繰り返し行う
🅂11では、プランを更新していくことで、いろいろな力が身についていくと述べました。単にライフデザインやファイナンシャル・プランを継続更新していくことでこうしたことが可能になるのは、よく企業で使われるPDCAの実践と同じような効果によるものだと思います。ただ、ライフ・デザインは個人的なものですから、企業で行われるようなレベルで入念な検証や対策を行うものでもありません。あまり窮屈にしてしまうと、形骸化してなんのためにやっているのかわからなくなってしまいます。ただ、何事にも共通して言えるのは、シンプルなことを繰り返し行うことが、とても大きな力を生むということです。ライフデザインやファイナンシャルプランについても、これを意識して繰り返しやってみることで、必ず自分のパターンや簡略化した方法が見つかります。その結果、更に継続が容易になり、自分の価値観の充足度を高めることが可能になっていきます。
➤必要なものは、勇気と想像力、そして…
自分自身の人生の未来と向き合うためには、「勇気と想像力」が必要です。自分のライフ・デザインを描くということは、自分の未来と向き合うことです。チャップリンはこの勇気と想像力には制限をつけていません。無限に使ってもいいのです。ただ、勇気も想像力も初めは少し、一歩進める分だけで十分だと思います。あとは「自分の選択」が自然に転がり始めるまで、辛抱強く諦めずに使い続ける(勇気と想像力を投入し続ける)ことです。続けるなかで、意識的に一杯に使うタイミングが訪れるかもしれません。あるいは、ほとんどの場合は、何時ものような時間の流れの中で、無意識にできるようになっているかもしれません。いずれにせよ努力を続ければ、それによって生まれた変化を、必ず実感できる時が訪れます。
ライフデザインは、自分を信じて継続していく辛抱強さと、これをサポートするファイナンシャル・プランが適切に機能することで、より実現可能性が高まっていく、ということができると思います。(了)
※ 第2章 「プランを考えてみる」は今回で終了します。第3章では、パーソナル・ファイナンスの基礎ともいえる「働いて自立する」を考えていきたいと思います。
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