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抱きしめたくなる涙

思春期の何者でもない自分に、
誰かにタグをつけて欲しいと願っても、
通りすがりの人ですら、なんのことやら分からないから、
いつも小さく微笑んで試してみてる。

だけど、セルフで付けるタグだって持っていないから、
目の前を行き交う人達を、ただ眺めているだけ。

ひきもきらない嘘くさい陽気と、
顔をゆがめただけの、笑顔の固まりを両足を抱えて眺めてる。

ふたり連れの年上の女性がキャンディひとつ握らせてくれる。

車道との境界ブロックに、足を投げ出して座り直して口に入れる。

小さな子供がこちらを指さして、ママに話しかけてる。

そうだ、私の髪は制服に似合わないザンギリ頭だ。

夕べ、ヒステリックに切ってしまったから。

それに寝ていないからきっと、みっともない顔。

朝どこで顔を洗ったっけ?

バッグの中の、しょぼいポーチを取り出して鏡を見る。

ついでに、色付きリップを取り出して唇にすべらす。

あまりにも惨めな顔つきで、涙が出てきた。

だけど、みんな楽しそうに通り過ぎる。

そりゃそうだ、遊びに出かけてきたんだから。

ひとりになりたくなくて。

こんな人混みの中じゃ、さらにひとりを抱え込んでしまうのに。

イチゴ味のキャンディを、カリカリかじりながら腰をあげる。

駅前の人だまりは永遠に止まらない時計のように、
誰かや何かが動いている。

私だけを仲間外れにして。

大きな桜の木の、足元を囲んだベンチに腰をおろす。



陽ざしと私の作る日陰が、風に揺れるたびに交互に優しく撫でる。

真っ黒で、生き生きとした絹糸のような黒髪の女の子。

少し離れて座る男性が、視線をうごかさず見つめている。

電車が走っていく音に顔をあげると、白くて頼りない肌。

この娘を中心に、景色がらせん状に回っている。

私の意識が入り込んでみたいと願っている。

まだ、何者か知らないこの娘の、
光りに続くその苦しみを分かち合わなければ。

呟きが聞こえたように、私を見上げる可愛らしい潤んだ瞳。

その瞳に答えるように、いっそう梢を揺らしてみる。












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