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『許さない』と言われた日、愛を知った

社会人になりたての頃、私は心のバランスを崩し、仕事も人間関係も上手くいかなくなっていた。

ある日、過呼吸を起こし、病院に運ばれたことをきっかけに、双極性障害と診断された。

発作が起きて、少し点滴を打って、家に帰らされて、数日間は動けなかった。これが鬱かな、と精神科へ向かった。何度か問診があって、双極性障害と診断された。

双極性障害と私

診断の結果を聞いた時、複雑な気持ちだった。

ようやく自分の状態が理解できた安堵感と同時に、これからの生活への不安が頭をよぎった。

特に、過去の出来事を振り返り、初めて勤めた会社を辞めた時の複雑な心境を思い出したのだ。

未来に対する不安とともに、どこかホッとする自分もいたあの頃。

不安な未来と、出会い

精神と向き合う長い休みの期間を経て、少しずつ自分を取り戻してきた頃、出会ったのが彼だった。

初めて会った時、私たちは小さな喫茶店でおしゃべりをした。
彼はタバコをスパスパ吸って、お会計も「昨日パチンコ買ったからいいよ!」と払ってくれた。
どこか頼りない印象を持ちながらも、面白い人だなと思ったのを覚えている。

そこからの彼との日々は、私にとって心の支えだった。

特に外出すると、普段引きこもりなばかりに具合が悪くなってしまうことがあるのだが、彼はそんな私をいつも冷静に見守る。
「またかよ笑」と軽い口調で言っては、静かな場所に連れて行ってくれたり、飲み物を持ってきてくれたり。

彼の自然な対応に、安心を感じることができた。いつの間にか彼の存在が、私にとっての心のオアシスになっていた。

裏切り

しかし、私はそんな彼を裏切る出来事を起こした。私が他の男に浮気をした。私は恋愛に不義理なところがあった。

それ以外の友達との関係や、恋愛においては、私はいつも後れを取っているように感じた。「勉強、だるーい」と言いながらいつも前髪ばかり気にしているあの子だちには、圧倒的に負けているという自覚があった。

もう、人と比べないって、本当にそれでいいの?

こと人間関係において、近づきすぎるとダメになってしまう。

私の根本的な自信の無さの現れで、本当に良くないところだ。そしてこれは初めてではない。以前付き合っていたパートナーとは、同じ理由で別れている。

私は恋がすごく下手だ。愛も下手だ。

彼には、前の彼と別れた原因を以前に話していた。

発覚したのは電話越しだった。彼は驚愕して一瞬声を失った。
そして、動揺した声でごめんね、電話切るね、と。

ああ、また終わらせてしまった。
自分が招いてしまったこと、やってしまったことは変えられない。一生、これを繰り返すのかもしれない。人を愛することができないのかもしれない。まーでも仕方ないのかあ。性格?障害のせい?などと、どこか他人事だった。

裏切りと愛、どちらが重いのか?

「好きだから一緒にいたいんだけどそっちはどう?」

少し時間が経ったある日、彼にそう告げられた。
私は拍子抜けした。こうも簡単に裏切る人間を、簡単に許す人間が存在していたんだ。
実は私、悪くないのかも?

私は平静を装って「いいの?それなら私も一緒にいたいけど」と抜かした。こんな簡単なことってあるんだ、と正直思ってしまった。

無性の愛ってこれなんだ!
何しても許されるんだ!

私は大きな大きな勘違いをしていた。

しかし、そのあと彼は
「絶対に許さない、けど一緒にいる」と言った。

その時の彼は、いつもと違ってひんやりとしていた。えぐりつけるように、その言葉を告げたのだ。

私は初めて、彼の心の奥底に触れたような気がした。私は、自分の行動のあさましさを思い知り、自分ごととして考えていなかった事、まるで別人格が行ってしまったのだと逃避していたことを痛感した。

あの一件から彼の心の傷は暫く癒えることなく、「許さない」というワードが事あるごとに口から漏れた。

つらい道をわざわざ選んだ彼のことを思うと、なんと答えたらいいかわからず、小さな声で「ごめんなさい…」と言うしかなかった。

遊んでしまった男友達との関わりはもちろん断った。

たくさんの話し合いを重ね、結果彼が私と別れることを選ばず、「一緒にいながら許さない」ことを選んだおかげで、私たちは関係を修復することができている。

今は彼もさっぱりとして(その様に見せているだけかもしれないが)付き合いを続けてくれている。

障害を超える

彼の「許さない」という言葉は、私の心に深く突き刺さり、同時に、彼の心の奥底にある深い愛情を感じた。

その瞬間、私は初めて、自分の行動の重さを理解した。私は、彼を傷つけ、裏切った。

そして、その責任は、私が抱えなければならない。

彼は、私の障害を特別視せず、一人の人間として私と向き合ってくれる。
彼の言葉は、私に「私は病気ではなく、一人の人間なんだ」という確信を与えてくれた。

以前は、些細なことで感情の起伏が激しく、色んな人を困らせてしまうことが多かった。

しかし、彼との出会い、そして彼の「許せない」という言葉を通して、私は自分の感情と向き合い、少しずつコントロールできるようになってきた。

彼のサポートもあり、私は少しずつだが、自分自身と向き合い、成長することができた。

双極性障害は、私の一部であり、決して私を定義するものではないということに気づいた。

介助者として愛する人に尽くそうとする人へ

あなたは愛する人と共に、困難な道のりを歩んでいるのかもしれない。

あるいは、これからその道へ足を踏み出そうとしているのかもしれない。

精神疾患を抱える人と共に生きることは、決して平坦な道ではない。喜びもあれば、悲しみも、不安も、そして葛藤もたくさんあるだろう。

しかし、同時に、言葉では言い表せないほどの愛や喜び、そして成長の機会もたくさんあるはずだ。

あなたのパートナーは、きっとあなたを愛し、あなたと未来を共にしたいと思っているはず。

だからこそ、あなたは第一に自分の気持ちを大切にし、無理のない範囲でサポートをして欲しい。

時には、自分のことを後回しにしてしまうかもしれないが、あなたも大切な存在であること。無理をしてまで一緒にいる必要もないのだということを念頭に入れてほしい。

双極性障害を抱える方、そしてパートナーの方へ

厚生労働省の調査によると、双極性障害の生涯有病率は人口の約1%とされている。

決して珍しい病気ではない。しかし、まだまだ社会的な理解は進んでいないのが現状だ。

私たちの関係は、決して平坦なものではなかったが、お互いを深く理解し、支え合うことで、より強固な絆を築くことができた。

私たちが証明したかったのは、心の病を抱えながらも、共存できるということ。

そして、そこに生まれる愛は決して特別なことではなく、誰にでも起こりうる普遍的な感情なのだという事だ。

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