ムーミン本 読み方のすすめ③『ムーミン谷の彗星』
ムーミンの本を初めて読む人に向けておすすめする文章を作品ごとに書いてみようを決めてからしばらくたってしまいましたが、前回は項目を決めました。
今回は、9冊あるムーミンの本(文章で書かれているもの)のうち、2作目の『ムーミン谷の彗星』(1946)の紹介と個人的なおすすめポイントを書きます。
1. ページ数(講談社文庫の新装版参照)、章の数や構成の特徴
240ページ(短くはないが、長すぎもしない分量)
第1章~第10章
巻頭にムーミン谷の地図あり
2. 主な登場人物
ムーミントロール、ムーミンママ、ムーミンパパ、スニフ、スナフキン、じゃこうねずみ、スナフキン、スノークのおじょうさん、スノーク(スノークのおじょうさんの兄)
3. 内容の簡単な紹介
彗星が地球に衝突するとじゃこうねずみから聞いたムーミンとスニフはとても不安になります。不安なのは彗星が何なのか知らないからではないか、ということで、ムーミンとスニフが彗星を調査する天文台に行き、ムーミン谷に帰るまでの冒険の物語です。冒険の途中でスナフキンやスノーク兄妹と出会います。
4. 挿絵の雰囲気
ムーミンたちのシルエットはあまりふっくらしておらず、目は小さめです。描画線は細く、背景は点描のように短い線で繊細に表現されています。スニフが洞窟を覗く挿絵(P.21)が少し不気味で美しく、また小さなスニフがかわいらしくて大好きです。
5. 小林は「ここが好き」
彗星が地球に向かってくるという怖い設定にも関わらず、少しおとぼけなムーミンたちのおかげで怖くなりすぎず、ときどき笑って楽しみながら読めるところが好きです。めちゃくちゃなお金の計算、出会う前から恋に落ちるムーミンなど。個人的には『ムーミンパパ海へいく』が一番怖いです。短編集の『ムーミン谷の仲間たち』もお話によっては怖いです。
作品のなかで好きな場面は、スノークのおじょうさんがムーミントロールを「怪物の大だこ」から助けるところです。ムーミントロールが大だこから逃れようと四苦八苦していた時、ちょうどスノークのおじょうさんが持っている鏡に反射する光が差し、大だこは驚いて動きを止めました。
「きみは、ぼくの命を助けてくれたよ。とってもかしこい方法で」
と、ムーミントロールは、スノークのおじょうさんにいいました。
「あれは、もののはずみよ。でも、あんたを大だこから、毎日でも助けてあげたいわ」
「いやだよ、そんなの。きみは、欲が深すぎるよ。おいでよ。ここからでよう」(pp. 173-174、太字は本記事著者による)
ふたりとも素直で可愛いです。ムーミントロールはもうちょっとスノークのおじょうさんとの会話を楽しんでもいいのではないかと思いますが、うまく返せないくらい怖かったのでしょう。
上の項目と重複しますが、洞窟の内壁や木々など、背景の細かな描写も見どころです!
6. 小林は「こんな時に読みたくなる」
読み方のすすめ①で書いた、トーベ・ヤンソンが考える「子どもの世界」の表現がばっちり表れているのがこの作品です。かたい言い方をすると「災難」と「安全」の黄金比を感じたい時はこの作品に戻ってきたいと思います。
1作目『小さなトロールと大きな洪水』の洪水は物語の中盤で生じるものですが、『ムーミン谷の彗星』の彗星は冒頭から登場し、最後の最後までどうなるかわからない存在です。物語の外にいる私は、ヤンソンの言うとおり、助かるとわかっているからこそ思う存分怖がることができます。このハラハラ感がたまらないのです。
①の記事↓
結び
とても端的に、ムーミンたちの冒険のお話を読みたい方(時)にお勧めの本です。
ここでは触れていませんが、第二次世界大戦直後に刊行された作品なので、社会的背景を考えながら読むのも興味深い作品です。
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