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プレスリリース

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 Euphoric Games社のファウンダー&CEOであるジェイコブ・ハリス氏が行方不明になったというニュースは、全世界で報じられた。

 報道によると、7月28日の夜を最後にハリス氏の消息が関係者にもわからなくなったという。複数の報道機関が本件についてEG社に問い合わせたが、同社から回答は得られていない。なお、地元当局が調査を開始しているが、ハリス氏が犯罪に巻き込まれたという証拠はいまのところ見つかっていない。

 米国カリフォルニア州ロサンゼルスでEG社をローンチしたハリス氏は、設立して20年でEG社の推定会社評価額を800億ドルにまで高め、ITやゲーム業界のみならず世界のエンターテイメント市場においても注目される存在となった。だが、その姿は一部の関係者を除き謎に包まれている。

 EG社は非上場企業であり、その詳細な財務情報が外部に漏れたことがないのと同様、ハリス氏の生活についてもそれを知る者はごくわずかだ。ハリス氏はInstagramのアカウントもFacebookのページも開設しておらず、自分の私生活の様子をネット上にアップしていない。毎年サンフランシスコで開催されるゲーム・デベロッパーズ・カンファレンスにも、姿を見せるのは同社COOでありEG社のコファウンダーでもあるダニエル・バークリー氏であり、会場でハリス氏の姿を目にすることはない。

 報道から数日後、ハリス氏と大学時代からの付き合いであるバークリー氏は、ロサンゼルス・ポスト紙の取材にこう答えた。「ジェイクは有給休暇を取ってバカンスに出かけたと聞いている。彼はずっと働き詰めだったからね。行き先はわからないが、リフレッシュしたら戻ってくるだろう。彼はゲーム世界を愛しているから」

 ハリス氏の失踪が大騒ぎになったのは、EG社が展開する世界規模のオンラインゲームの開発・運営にハリス氏が深く関わっていたことと無関係ではない。

 全世界でアクティブプレイヤーが4億人を超えるこのゲームは、すでにオンラインゲームという既存の枠組みを超え、Eコマースやウェビナーといったネットを通じて行われる「あらゆる人間の行為」を包摂する巨大プラットフォームとして形成されつつある。

 EG社の公式サイトには、「究極のゲーム体験を通じて、ユーザーを新しい次元へと誘う」というミッションが掲げられている。

 新しい次元。それはよくある決まり文句のようにも聞こえる。だがハリス氏は文字どおりの意味で、ユーザーを新しい次元へ誘うと決意したのだった。それが明らかになったのは、ハリス氏が姿を消してから一週間経った8月4日にYoutubeにアップされた動画によってだった。

 ハリス氏本人と思われる人物は、えんじ色のTシャツ姿でカメラに向かって語りかけていた。その表情は健康そうで、しゃべり方も落ち着いており、犯罪に巻き込まれた形跡はなさそうだった。

『このたびは、多くの人に心配をかけてしまったようだ。僕は元気にしている。どこにいるかは明かせないが、もうしばらくここにいようと思っている。僕が不在の間、会社のことはダニーがうまくやってくれるだろう。仕事を増やしてしまってすまないな、ダニー。

 僕がいまここにいるのは、これまで取り組んできたプロジェクトにめどがついたからだ。

 僕がダニーとともにEG社を立ち上げて以来、あのゲームのなかの世界は少しずつ広がっていった。冒険を楽しむ人たちの数も増えていった。それはとても喜ばしく、光栄なことだ。

 僕は20年間あのゲームの開発を続けてきた。ゲームのなかの世界を少しでも広く、楽しく、より良いものとするよう取り組んできた。それは誰かのためじゃない。自分の楽しみと喜びのためにやってきたことだ。他人のために何かを創造するのは素晴らしいことだが、人は自分自身のために表現したり創造する方が健全ではないか、というのが僕の考えだ。

 だが、あのゲームは当初の想定をはるかに超えた巨大なものとなってしまった。もちろんそれは僕が望んだことではあるのだけど、少々大きくなりすぎた。ゲーム内の世界がエキサイティングで、クリエイティブであり続けるためには、僕をはじめとする大勢のスタッフがつきっきりで世話をしなければならなくなってしまった。僕は可能な限りいつまでもあの世界に関わり続けるつもりだが、非常に厄介な重荷を抱えてしまったという気持ちになるのもまた事実だ。

 僕はビジネスのことは気にしない。だがあのゲーム内の世界を楽しんでくれる世界中のプレイヤーたちに対しては責任を感じる。

 そこで僕は以前からあたためていたプロジェクトを実行に移すことにした。それはゲーム内の世界が人の手を介さず、自律的に成長し、発展していくという機能を持たせることだ。

 ゲーム内世界の地形やNPCキャラクターだけでなく、そこで提供される各種サービスから、新しいルールまで、ゲーム世界そのものが自分で考え、生み出し、改善して、プレイヤーたちに提供することができれば、僕たちスタッフの負荷が減るだけでなく、人間がまったく思いつかなかった新しい世界を体験できるのではないか。僕はずっとそう考えていたんだ。

 現実の僕らは、決して理想的な世界に住んでいるとはいえない。世界的な気候変動による自然災害、恐ろしいまでの経済格差、貧困、そしてウイルス。紛争や暴力もあちこちで続いている。はっきり言って、僕たちの世界は調和を欠いていると思うし、僕たち自身の意識のレベルも高度に知的というには程遠い。

 これはメタバースを使った一つの実験だ。世界とは何なのか、発展とは何なのか。世界に真善美は本当に存在するのか、存在するとしたらそれは誰から見たものなのか。

 僕はこの世界に種を蒔いた。だがそれは勝手に育つものじゃない。水をやり、肥料を与え、光を当てるのは、4億人のプレイヤーたちだ。

 これからは、このゲーム内世界は自律してアップデートを続けていく。もちろんEコマースやウェビナー、ゲーム内課金など、現実世界のお金に関するサービスについては、EG社の承認がなければ変更は加えられないようになっている。このゲームに投資し、このゲーム内で経済活動を行うすべての人たちに、EG社は最後までその責任を果たすつもりだ。

 だがそれ以外はすべてプレイヤーと世界との関わり合いによって変化が生まれていくだろう。アイテムやマップ、ゲーム内のルールさえも、EG社のスタッフではなくゲーム内世界自身が判断してアップデートしていくことになる。当然ながら、僕たちはゲーム内のすべての変化をモニターし続けるし、ゲームのクオリティーは今までどおりEG社がその責任を負う。

 さっきも言ったけど、これは一つの巨大な実験だ。だが4億人が参加するだけの価値はあると思う。だれかが傷つくわけではないし、おそらく不幸にもならない。おまけに僕たちは興味深い示唆をこの実験から得られるだろう。

 世界中のみんなとともに、何が起こるか見てみよう。楽しんでもらえるといいね。では、チャオ』

(つづく)


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