海沿いの街 汐まねきと息子に10句
息子が2才の時に転勤で引っ越した。
自衛隊のラッパも聞こえる海沿いの街。
静かな夕焼けの手前からラッパが響いてくる。
海と川の境にある街なので音は日によって違い、風や天気にも左右される。
大きく聞こえたり小さかったり、響いたりぼやけたりと色々のラッパがある。
でも、もっとも違うのがラッパの吹き手。
「あら~、え~?なに今日の人」
「あら~、ほんまやね。まだ新しい人やろか?新人さんやろか」
いつもよりずいぶんと下手なラッパが鳴り始め、私と妻の批評も始まるところ。が…、
「そうかもねー。行こ、父さん」
と息子が関係なく言う。
「行こ。父さん、カニ行こう」
口をとがらせながら言う。
いつだったかラッパが鳴った時、なんで行ったか覚えてないが2才の息子と近くの河口に行きカニを発見したのだ。そのカニは体が2センチ位で、小さいくせに右の爪が体くらいに大きく、砂浜の穴から出て手を振るように動かし続ける。たくさんいるのだ。
初めてカニなど見た息子はその動きが面白く、えらく喜んでいた。
また、行きたいのであろう。ラッパの音で思い出したのだ。
「よーし、行こか」
「うん」
父と息子のお散歩である。10分で着くのだが…。
潮の香り混じる堤防の階段を手をつないで下りると…。小さな小さな砂浜に…デカい爪の小さなカニ。右だけがえらくデカいのである。
穴から出ては爪を動かしている。
頭痒いか? 顔洗ってんのか? なんか食べてんのか? おいでおいでしてんのか? 砂掘ってんのか???
疑問符だらけのカニがいる。
近寄るとシュルシュルっと巣穴に戻り、しばらくすると顔を出す。
後で調べるとシオマネキの一種と分かった。納得の名前だ。
ラッパ鳴る二歳のお散歩汐まねき
音程外してソレがドうした
汐まねき吾子の瞳においでする
ここ居るよ吾子の瞳に汐まねき
汐まねき笑い手が出る吾子の夕
汐まねき目ん玉向ける吾子の声
汐まねきどっちが早いと吾子も追い
汐まねき坊さんも転ぶ吾子の靴
おったおったと吾子の手伸びる
汐まねきおった笑った吾子転けた
汐まねき吾子の瞳に日が暮れる
帰ると…
「どしたん?転けたん?」
「待って入るな!!」
ガシッと抱きかかえられた息子は風呂場に直行。
季語 汐まねき
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?