マラケシュ条約の批准で何が期待されるか
マラケシュ条約については、これまで自分のtwitterでフォローしている方を見ているとウェブアクセシビリティ界隈よりも、どちらかというと図書館関係のかたの方が反応を示していましたが、一昨日批准についてのツイートを再び今度はウェブアクセシビリティ界隈から流れてきたこともあり、これを機に自分の整理もかねてまとめてみました。
マラケシュ条約とは
マラケシュ条約批准に向けてのこれまでの動き等は、kzakzaさんのblogが図書館の障がい者サービスや著作権などとにかく詳しく正確で、私が書くまでもないのだけれど自分の勉強がてらまとめ‥というかあちこち拾ってみる。
マラケシュ条約は正式には「盲人、視覚障害者その他の印刷物の判読に障害のある者が発行された著作物を利用する機会を促進するためのマラケシュ条約」と言うが長いため「マラケシュ条約」と言えばこれを指す。なおモロッコのマラケシュで2013年6月18日から28日にかけて条約採択のための外交会議の開催されたので当地の名前がついている。
英語ではMarrakesh Treaty to Facilitate Access to Published Works by Visually Impaired Persons and Persons with Print Disabilitiesで通称MVTとなる。
今第196回国会の会期中だが、3月29日に衆議院本会議を全会一致で通過し、参議院審議も4月25日に終了、承認となった。なお国会での進捗は衆議院の第196回国会議案の一覧ページの「条約」の部分等で確認できる。
(余談ですが、衆議院のこのページの表はtableタグのsummaryに「この表は、横6列、縦10行の表です。」と言った説明がちゃんと入ってます。頑張ってますね。)
背景には印刷物利用に障がいがある人が得られる出版物の少なさが
国境を越えて知的財産問題を緩和する一連の規則だ。条約は著作権法に例外を設け、点字、オーディオブック、電子書籍等のアクセシビリティー形式による作品の複製を認め、こうした作品の国際流通の制約を緩和する。
- TechCrunch Japan "マラケシュ条約、著作権を制限して視覚障害者の書籍利用を容易に"より引用
(PDF形式)2013年WIPO総会事務局長報告書によると、出版物のうち、視覚障害者がアクセスできる形式で提供され、然るべき時間内に入手できるものは5%程度しかない(推定)のだそうだ。(9ページ参照のこと)
さらに別の調査、世界盲人連合の推計では、点字・録音・電子書籍・拡大文字等、印刷物利用に障がいのある人たちが利用できる形式になっている出版物は、途上国で1%以下、先進国でも7%とも言われている。(国連開発計画(UNDP)駐日代表事務所のウェブサイトより)
こういった得られるテキスト情報の格差を埋める必要があるが、各国それぞれ定められている著作権が関わってくる。マラケシュ条約では、加盟国には著作権に制限規定または例外規定を設けることを求めている。
そこで日本政府は今年の2018年2月23日にマラケシュ条約を国会での承認を求める閣議案件を決定、また著作権法の管轄である文部科学省がその一部を改正する法律案「著作権法の一部を改正する法律案」を今期の国会に提出している。
(マラケシュのフナ広場 撮影: クリエイター Mitturさん)
批准することでどんなメリットがあるか
この条約の対象となる著作物は書籍や雑誌といったもののテキスト形式がそれにあたる。点字図書やDAISY図書等が条約締結国の間で行き来しやすくなる。
本条約は,視覚障害者又はその他の読字障害者による著作物へのアクセスと利用の促進を目的とするものです。本条約の成立は,これらの方々が著作物にアクセスする環境を向上させ,また,これらの方々にとって利用しやすい形式となった著作物の複製物の国境を越えた利用につながるものです。
-文化庁 連載「著作権トピックス」「視覚障害者等の発行された著作物へのアクセスを促進するためのマラケシュ条約」(仮称)の採択について
国境を越えて知的財産問題を緩和する一連の規則だ。条約は著作権法に例外を設け、点字、オーディオブック、電子書籍等のアクセシビリティー形式による作品の複製を認め、こうした作品の国際流通の制約を緩和する。
- TechCrunch Japan "マラケシュ条約、著作権を制限して視覚障害者の書籍利用を容易に"より引用
なお条約文に
盲人、視覚障害者その他の印刷物の判読に障害のある者
とある通り、読字障害者も含まれている。先に書いた著作権法の改正案でも、この部分が盛り込まれているのが見て取れる。
私たちができること
国会で成立をしたとして施行は来年の1月1日だ。既に2016年4月には障害者差別解消法(「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」)の施行もあり、晴眼者と視覚障がい者間で発生する情報格差の解消が表だって強く求められてきている。この条約でわかるように日本国内だけではなく世界横断的に対応が求められている。2020年の東京オリンピック・パラリンピックでは世界からの目が日本に注がれるが、その時にどこまで日本が対応できるか。
昨日公開した「トイレとアクセシブルデザイン」では、海外からの観光客にもやさしいトイレということでトイレ操作パネルの標準ピクトグラムを紹介したが、こういった改善は一朝一夕には完成しない。しようとすれば金銭的・人的負荷も大きくなる。
例えば自社製品のマニュアルは障がい者がアクセスしやすい状態になっているか。障がいの有無だけではなく例えば「単語の合間にスペースを入れた時の機械翻訳問題」で書いたように日本語を母国語としていない人が翻訳サービスを使ってその国の言葉に翻訳したらおかしな意味に変換されていないだろうか。
自分が読み込めていないこともあって、今日は内容がかたくて恐縮です。なんか変わってきているんだな、ウチは何か関係しそうなことあるかな、みんなが欲しいときに欲しい情報に触れるようになれるといいな、などと思って頂けると紹介した私としても嬉しいです。
(了)
ヘッダー写真 撮影地 ニュージーランド クライストチャーチ空港 ©moya