巨乳。
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倦ねるよう鋏を刺した封書。苛まれ事があるワケではないのだけれど、毎度訪れる健康診断の結末を覗くのはイヤなものなのだと傾げる僕に、カウンター越しの雪乃さんが “ ふわり ” 紫煙を揺らした。
「そのまま “ ロジャー・バニスター効果 " って言われるのだけれどね」
ーー雪乃さんから聞いた話だ。
イギリスのロジャー・バニスターと言う陸上選手が由来の事らしい。
1950年代。当時の医師や生理学者、科学者までもが人類が4分以内で1マイルを走る事は物理的に不可能で、仮に4分を切ったのならそれは “ 死 ” を意味するとの見解だった。
だけれど、ロジャー・バニスターが壁を打ち破った途端、あれよあれよとそこからたった3年間で15人ものランナーが3分台を記録したのだという。
この不思議な現象は、不可能という思い込みが人間の限界を作り、可能だという信念が限界を押し広げるという意味で “ ロジャー・バニスター効果 ” と名付けられたようだ。
「一匹のノミを瓶に詰入れて蓋をするとね、瓶から出してあげても瓶の高さまでしか飛べなくなるんだよ。ヤツったら本来は人間で言うなら300メートルは飛べるのにさ」
能力の限界、そして寿命までもが “ 思い込み ” なのだと雪乃さんは言った。
「環境による負荷が減っただとか医療の進歩がとかじゃないんだよ。誰かが300歳まで生きたなら、いづれ人類の寿命は300歳になるのさ。古代に存在したと言われている “ 巨人族 ” なんてのもあながちその類いなんだ」
ーー迷い無く信じ切るというのは難しいモンだと自分の胸元のシャツを引いて覗き込む雪乃さん……大きくなれと自分の胸に暗示でもかけているのか? それはややも困るものだけれど、しかしそろそろブラジャーを付けてほしいものだ。
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