会話よりも鮮明だ
いや~~~王舞祭(おうぶさい)楽しかった~~!
”王舞学園という架空の学校の学園祭”というテーマだけ聞くと、なかなかエッジの効いた変化球のファンミーティングに映るが、学生(というよりツッパリやヤンキー)っぽいグッズや衣装、セットはまさに”ファンが見たかったOWV”そのものだった。しかも似合うし。
内容も最高だった。
カラオケ大会、日替わりの客席と交流する企画、合唱コン、女装ミスコン、パートスイッチチャレンジ、平成ダンスチャレンジ30連発、バク転チャレンジ、Rap God、アンチ論破…
オタクが見たい企画ランキングトップ20に食い込んでくるであろうものしかなかった。…かもしれない。
語りたいことはたくさんあるが、ここではカラオケ大会のあることを話そうと思う。
東京公演、始まって10分で私は号泣していた。
しゅたかつが歌う「怪獣の花唄」で。
失礼を承知で言うが、私はVaundyさんのファンではない。
それどころか、「怪獣の花唄」もちゃんと聴いたことがなく、サビの一節と、カラオケでめちゃめちゃ歌われていることしか知らなかった。
それでも、スクリーンにでかでかと映ったタイトルの文字と、「思い出すのは君の歌」という秀太の歌い出しは、私の涙腺を刺激するのに十分だった。
「思い出すのは君の歌 歌い笑う顔が鮮明だ
君に似合うんだよ ずっと見ていたいよ」
あまりにも、浦野秀太さんすぎないだろうか。
たとえこの先、何十年も経ってOWVのことをすっかり忘れてしまっても、ある日ふとOWVの曲を思い出す。こずえの葉が擦れてかすかな音を立てるように、遠くで水滴が岩穿つ音が聞こえてくるように。
その時真っ先に思い出すのは、浦野秀太さんの声だろう。
OWVを象徴するかのような、ユニークな声のメインボーカル。思い出すのは君の歌。
記憶は段々と詳細になる。
にこやかに歌い踊る彼は、私たちが最もよく知る姿で、彼の覚悟の強さによく似合う完璧なアイドルの全うっぷりだ。ずっと見ていたい。
だからだと思う。私はよく知りもしない曲で号泣していた。
いつか忘れてしまう四人のことを、それでも引き出された記憶のなかで一番に聴こえてくるのが秀太の歌声だと思うと、幸せだったから。
ここまで自分の考えを成文化できたのは、何もかも終わって翌日になってからだ。
聴いている当時の私は、サビ前の「もっと」でボルテージが上がり切り、「騒げ怪獣の歌」でわけもわからず拳を握り、唯一知っている歌詞を口パクしながら、ボロボロ大粒の涙をこぼしていた。
それから、「怪獣の花唄」を延々と聴いている。4年も前の曲だというのに。
これは、愛しい歌うたいの人間を失った怪獣の歌だ。
怪獣は人間より長命で、どうあがいても人間と共に生きることはできない。
私とOWVは今同じ時間を共にしているが、お互い自分の人生があり、どうしたって”OWVとしての生”のほうが先に終わりを迎えてしまう。
それでも、君の歌は、4人の姿は、私のなかに染みついて、いつか記憶の水面に浮かび上がる。
会話よりも鮮明に。