二人の”インド総督”の死
ショッキングなタイトルですみません。今日映画「RRR」を観て、ちょうど思い出した「インド総督」について書き残してみようと思いました。(映画についてのストーリーに触れています。閲覧にはご注意ください)
映画「RRR」は日本では2022年10月に公開され、大ヒットを記録した映画でもあり今年の米アカデミー賞で主題歌賞を獲ったので、ご存じの方も多いと思います。私も映画の存在は知っていたものの、昨日友人に勧められるまでは重い腰が動かなかった。インド映画好きの別の友人に「RRR」のイベントが近日中にある、とお知らせしたばかりだったのでなんとなく流れで映画を見に行くことに。
映画の内容は全く知らず、主人公二人が敵対している、ぐらいのイメージしかなかったので、映画の最初で「おお、そう来たか!」、所謂インドvs英国なんだと理解した。私個人的にはイギリスが第2の故郷ぐらいに愛しているので、敵役は辛いんだが映画が進むにつれて、英国側のキャラクター(特に総督の奥方役が上手すぎて、自分が殴りたいぐらいに憎かった、苦笑)の非業さが徹底していて、本当にストーリーが上手いなと思った。
そして亡きレイ・スティーヴンソン。今年5月に急逝した彼の死を知ってから映画を見に行ったので、彼が演じた「インド提督」のキャラクターの印象がものすごい引き立っていた。悪役たるもの、これぐらい強烈な印象を残したほうが映画的にはおいしい。彼の演技も相まって、映画を見終わった後どうしても「インド総督」が気になってしまった。映画では1920年代、イギリスではジョージ5世の時代だ。
前に「英国総督 最後の家(2017)」という映画があった。私は未見だがヒュー・ボネヴィルとジリアン・アンダーソンが主演で、それぞれ総督と奥様を演じていた。約300年にわたる英国のインド支配の終焉と、インドとパキスタンの分離独立に関わったのが、実在の最後の「インド総督」ルイス・マウントバッテン卿だった。この映画の時代は第2次大戦後の1947~1948年の話。その頃の英国王はジョージ6世。(ジョージ5世の次男でエリザベス2世の父)
ルイス・マウントバッテン卿はエリザベス2世の夫フィリップ殿下の叔父であり、現英国王チャールズ3世の大叔父。wikiを読むと王族ではないが親戚であるが故に本当にいろんな噂や醜聞も出てくる。なお、マウントバッテン卿は1979年にアイルランドでの休暇中に亡くなっている。しかも死因は…爆死である。
実は今年3-4月にかけてUK、アイルランドを旅している途中で、ガイドさんの勧めで思いがけず立ち寄ったマラックモアの小さな港。アイルランドいち旨いソフトクリームがある、とのことでこの港を見渡すベンチで絶品のアイスクリームを食べていた時、ガイドさんがこの海でルイス・マウントバッテン卿がIRA暫定派が船に仕掛けた爆弾によって亡くなった、と教えてくれた。つい先ほど彼が住んでいた城を通り過ぎたばかりだった。
この牧歌的な風景、素朴なアイルランドの片田舎の海辺で、なぜそんな過激ことが起こるのか。4月の肌寒い潮風に吹かれながら、40年以上前に起こった事件の話と、平和な漁村と美味しいアイスクリームは全く結びつかないが、ガイドさんが話した事実が頭にこびりついていた。そして今日の映画の後、再びあの4月のアイルランドの海を思い出していた。「インド提督」が引き金になったのは間違いない。
マラックモアを後にして、半島の反対側にある元マウントバッテン卿が夏の住処としてたお城を眺める場所にガイドさんが連れて行ってくれた。遥か向こうに見えるお城と早春を迎えた瑞々しい草原に群れる羊たち、そして強風によって荒々しい波が打ち付ける海岸。美しい光景だが、私の心に影を落とす。誰も何も知らなければ、ただの風景。でも知ってしまった以上、どうしてもそのことについて考えずにはいられない。
ある映画がきっかけで、旅の想い出に繋がる。点と点が繋がる。誰かを思い出す。そして失われた時間と与えられた時間も。