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【TikTok】コメント欄のユーザー同士で協力!ストーリー制作企画 2024年 台風10号 迷える少女「サンサン」その理由とは。



概要

最終更新日 2024年9月1日(日)

はじめに、この物語は
TikTokアカウント
「TikTokニュース情報局【ニュース速報】」
さんが投稿した動画
「台風10号が誰からも相手にされなくなってる」より、コメント欄で開催した企画です。

元動画はこちらをご覧ください。

https://vt.tiktok.com/ZS2ku9vn9/


ストーリーのきっかけ

2024年8月、九州南部付近で
気象機関の予報や国民の予想とは裏腹に
停滞し続けていた台風10号。
発生は2024年8月22日、日本のはるか南

先へ進む予想が時間の経つごとに
遅れていき進路も変わったりと
日常生活を混乱させていました。

この台風、別の名を、
香港が少女の名前を由来にして付けた
「サンサン」と呼びます。

執筆開始時点で、台風の勢力は非常に強く
中心位置は九州付近にあり、
中心気圧が935hPaで最大風速は50m/s、
最大瞬間風速は70m/s で
ほぼ停滞しているか、わずかに北上している。

気象庁と国土交通省は合同で記者会見を開き
警戒を呼びかけるなどしました。
九州南部では波浪、高潮、暴風の特別警報が
出され、今まで経験のないような条件が揃う。

線状降水帯や竜巻被害なども起こり、
遠く離れた街では土砂崩れなど自然災害が
同時多発的に続く凄惨な状況である。

当初の予報とは大きく異なる動きを
見せるこの台風。

いや、"少女のサンサン"

「彼女が停滞したり進路に迷っているのには
 なにか理由があるのかもしれない」

そう思った私はこの動画に
コメントを残しました。

TikTokの当該動画のコメント欄より

「サンサン」が先に進めない理由を
TikTokの他のユーザーと共に
ストーリー仕立てで考えてみました。
ぜひ、最後までご覧ください。


※ご案内です。
いただいたコメントの返信を基に
記述していきますが、
コメントが大きく趣旨とズレている場合や、
強い表現は削除したり付け加えたり
書き換えをしています。
コメントのほとんどを引用していますが、
誰でも読めるように難しい言葉や
わかりにくい文法は避けています。
「てにをは」や接続詞など不自然な部分が
ありますが見つけ次第 書き換えます。
登場人物に違和感があるのはコメント由来
あるいは無理矢理設定したものです。
また、読める物語となるように、
コメントを編集し再構築しています。
返信してくれたユーザー名は物語の最後に
引用元のクレジットとして表記します。
物語の内容はフィクションです。
実在する人名や団体とは関係ありません。


第一章 サンサンの生い立ちと暮らし

時はさかのぼり…
ここは南シナ海に面した
中国南部にある特別行政区。

東京、ロンドン、ニューヨーク、シンガポールと並ぶ世界都市の一つである香港の街。

かつてこの地はイギリスの植民地として
多くの戦争の影響を受けてきた。

1997年に中国へと返還されて以降、
イギリスとの中継貿易を発展させ
自由経済の街として大きな成長を遂げた。

そんな街からはずっと離れた穏やかな
海域でこの少女「サンサン」は産まれた。

時は経ち、サンサンは
いつものように鳥のさえずりと
近所のおばあさんの叫び声で目を覚ます。

さて、今日も頑張るかと起き上がり、
大きく大きく背伸びをする。
すると腰の骨がポキポキっと
綺麗な音色を奏でる。

サンサンはとても貧しい暮らしをしていて
日常的に窃盗をしては売って食料を得る
暮らしをしていた。

でもサンサンはそんな暮らしに満足していた。
優しい父、優しい母、可愛い妹。
この3人が居るだけでサンサンは幸せだった。


いつものように朝を過ごしていると
台所の方から「グシャグシャ」と
何かを潰すような音が聞こえた。

サンサンは体を震わせながら
恐る恐る台所に向かう。
すると。。。

そこに広がる光景はサンサンが
生きてきた中で
最大のトラウマを生むものだった。

第二章 ケモノと石

普段 優しいはずの父と母、そして妹が
あろうことか「何かの姿」を喰っていた。

信じられない。信じたくない。

「どんなに悪い事をしても"アレ"だけは
殺めるな」と教えてくれたのは父だったのに。
なのになんで、どうしてだ、
なぜ母は止めなかった...?

パニックになったサンサンは
それを見て悲鳴を上げた、
そうして悪夢から目が覚めた。

「嫌な夢を見た...」とXにポストした。

この「朝」は夢だったのだ。

ふと時計に目をやると、お昼を指していた。

サンサンはこの夢を見た理由ついて、
考えるものがあった。

普段からサンサンよりも妹を可愛がり
自分に見向きもしてくれない両親。

そんな嫉妬からか、
「妹がいなくなってしまえばいいんだ!って
思っていたからこんな夢を見てしまったんだ。
でも、あの3人が食べていたものは
なんだったんだろう」と目を擦った。

サンサンにとってのこの日は、
自分自身のこの先について
どうしたら良いのか
わからなくなって考え込み、
迷いに迷ってしまうという
悪循環を繰り返していた。

あっという間に1日が終わり、眠りにつく。

「もうあんな悪夢は見たくない」と
心に思い目を閉じる。

そして翌朝、鳥のさえずりと
近所のおばあさんの叫び声で目を覚ます。

「良かった。」
今日は悪夢を見なかったと、ホッとした。

表情でいつものように大きく背伸びをする。
腰からいつものようにポキポキっと
綺麗な音色が奏でられる。


いつものように鳴らしていると
部屋の向こうから、その音とは別の
『グシャグシャ』という
不気味な音が聞こえた。


サンサンは「まさか...」と思い、
震えながら台所の方に向かってみた。

ガチャ。…ギィィィ

台所につながる扉を開けると、
母がこう言った。

「あら?おはようサンサン♪よく眠れたぁ?
 ねぇ見てぇ!この大きな丸鶏!
 パパが今朝早く持ってきたのよ?
 また市場から盗ってきたのかしら?
 うふふ…今日(8月22日)はアナタの誕生日、
 いつか食べてみたいって言っていた
 脆皮炸子鶏を作るから楽しみにしててね♪
 んしょっと!
 あとはこの足をもぎ取って…」

母はグシャグシャと事をこなす。

脆皮炸子鶏は「チョイペイジャーガイ」
いわゆるローストした鶏の姿揚げである。

ここでサンサンには気づいたことがある。
あの時、夢に出てきた「何かの姿」とは
この鶏肉だったのだ。

サンサンの不安な気持ちは、一気に安心を
通り越して幸福感に満ち溢れた。

夢の中で父が言っていた「アレ」とは
「鶏肉」を指していたことがわかった。
「殺めるな」と言った理由までは
わからないが夢の中の父は
きっとヴィーガンだったのだろう。


そんな気持ちになっている矢先、
目線の先にある窓から獣たちが覗いていた。

よく見ると、2頭のアライグマだった。


サンサンは「ねえ、お母さん!
このアライグマ、親子かな?
首輪に名札がついてるよ」と訊いた。

母は「たぶんお肉が欲しくて来ただけよ」と
言葉少なに答えた。

サンサンは、心の中で
この親子達も一生懸命生きてるんだ、
悪いのは私たちなのにと思うと切なくなり、
「いいんだよ、いつでもお腹空いたら来てね」
と言って、近くにあった脆皮炸子鶏の
一部分をアライグマに差し出すと
2頭はそそくさと去っていった。

両親はその様子を静かに見ていた。

サンサンは見られていたことに気がつき、
「ごめんなさい。私寝ぼけてたかも!
アライグマに集中して散らかしちゃった、
片付けるね」と言って

両親を横目にテキパキと片付けを終わらせて
いつもの1日に戻っていった。

すると、その日の深夜
これから眠りにつこうとしていた頃
サンサンは自室で横になっていた。

すると向こうから「ガサガサ」という
音が鳴った。
サンサンは気になって立ち上がり、
聞こえた方へとゆっくり向かった。

すると、そこには今朝出会った
アライグマがちょこんと座っていました。

「どうしたの?」と尋ねると、
アライグマは顔を何度も頷くようにして
手に持っていた「綺麗な石」を
サンサンに渡したのです。

「わあ、ありがとう!なんて綺麗な石!」
と喜んだ。本当に輝いていた。

アライグマにこう言った。

「きっとあの朝はお腹が空いていたんだよね。
怖かったはずなのに、よく来てくれたね」
と気遣うと、2頭はすぐに姿を消した。

でもどこか罪悪感を持っていたサンサン。

それもそのはず、先に言ったように
自分たちは貧しい暮らしをしている。

結局、誕生日に材料として使っていた鶏肉は
父が他所から盗ってしまったものだったし
それをアライグマに食べさせたから
「これを機に自戒して生かねば」と
心を改めるきっかけとなる出来事になった。

それを知ってか幸福感は、
長く続かなかった。

(どうせわたしたちは、このくらいの石ころを
持っているほうが似合っているんだ)
と、アライグマに教えられた気がした。

そして、盗んだお肉で誕生日なんて
これからは絶対しないようにすると誓ったが
このことを家族になんと
言えばいいのか迷ってしまった。

受け取ったあと部屋に戻り、サンサンは
その石を肌身離さず持っていました。

その日から宝物になったのです。

「両親は妹のほうが大切ならば、
わたしはこの石を大切にすればいいんだ」
嫉妬心もありながら、そう心に決めた。


でも、その石が「風をつかさどる魔石」で
あるなんてこの時は誰も想像していなかった。

第三章 風のチカラをもつ宝物


石をもらってからしばらく経ちました。
それでも変わらず大切に持っています。

ある時、サンサンがその石を手にとったとき
強い風がすーっと手の中を抜けていきました。


不思議に思ったサンサンは、
アライグマから貰ったこの石について
調べてみようとしました。
でも、幾千年の歴史の中にデータと
なるものは少なかったのです。

サンサンは毎日毎日、その石に触り
手の中を抜ける強い風を感じながら、
考え迷う日が続いたのです。

「この風は一体...」

風が吹く時、体の中にある
潜在的なエネルギーが
湧いてくるように感じた。
そして、なんだか空も飛べそうな気がした。

サンサンは自分の誕生日やアライグマ、
そしてこの宝物との相関性をさらに
調べるために、まずはTikTokから
動画を漁っていた。

すると、ひとつの動画が目に止まった。

動画「8月22日、日本の南で
  台風10号が発生した。
  またの名を"サンサン"という。
  中心気圧はー・・・」

サンサンは言った。
「わたしと同じ名前だ!8月に発生して、
 しかも香港が名付け親だなんて嘘みたい」


8月や9月の台風は、
しばしば日本へ上陸することがある。

サンサンはこの先の動向を心配しながらも
「台風10号」の情報を見ていたとき
石が一瞬、ギラついたのが視界に入った。

「台風となにか関係があるの?」と石に
問いかけたが当然ながら喋るはずもない。

考えることがまた増えた。

自分と台風、石とアライグマ、
手段として使ったTikTokとコメント欄。
有益なものがないか隅々まで遡った。

すると、こんな記述がたくさんあった。

「夏休みが終わる。学校に行きたくない」
「台風来るの遅いよ」
「あー、仕事休みにならないかな」
「仕事(学校)休みになった!」
「電車止まった、始発まで引き返すって」

コメント欄は台風に一喜一憂している様子だ。

サンサンも我に返った。
「わたし、なにしているんだろう。
 こんな石の為に時間を費やして
 未来のこと何も決まっていないじゃない」

将来設計をどうするのか、
まったく考えていなかったことを思い出した。
それと同時にとてつもなく迷うようになり
思考が堂々巡りするようになった。
両親にも話し出せなかった。

サンサンは苛立ちに任せて
石をぎゅっと握った。
すると、いつもとは違う強い風が吹き抜けた。
身体がもっていかれそうなほどだった。

そうだ、この宝物は「魔石」で、
風のエネルギーをもっているんだ。
それに、力を加えたとき石は
より一層のチカラを発揮した。

サンサンは、この石に圧力をかけて
熱を発生させると強いエネルギーが
働くということを突き止めた。

つまり、この石の原理は台風と似ている...

台風は北緯5度より北側の海域で
海水が太平洋高気圧などによって温められ、
比較的、海水温や周辺の気温が高くなり
気流の乱れがあるところだと
渦を巻くようにして蒸発をはじめ
熱帯低気圧を形成する。
それから成長して
中心付近の最大風速が17.2m/s以上に
なったものをいう。

優しい父や母や妹に「台風10号」について
知っているかを聞いてみた。

皆、衛星画像を見るなり
口を揃えて「台風の眼がある」というのだ。

これでは、話にならないので
サンサンはもっと台風について調べてみた。
なんだか知的好奇心がわいてきた。

とりあえずアライグマのことは
一旦置いておき、台風のメカニズムや
これまでに発生したもの、どんなルートを
通ったのか、などの情報を資料から得た。

「わたしと似ている気がする」

そう、サンサンは第一章で
見た夢を思い出した。

「わたしと家族に壁があるように、
 台風にも壁があるんだ」

台風の「壁雲」を自分に当てはめてみた。

サンサンにとって壁になっていたのは
妹の存在

サンサンはすぐさま妹を呼び、
「この石を握ってみて!」と言った。
妹が握ると、微かな風が吹く。
でも突出した何かのエネルギーはない。

妹は「これ、ただの石だよ?」という。

サンサンは石を返してもらい妹にこう言った。

「これは、普通の石じゃない!
 あなたが握って、なにも
 起こらないということは、
 私がもらう前に何かあったかも
 しれないんだよ」

続けて、父と母に握らせると...

強さはそれぞれ異なるものの
何かのエネルギーをもった風が発生した。
でも強く吹き抜けるほどではない。
蒸し蒸しとした湿り気が出てきたり、
吹く風の強さの違いというそんな程度。

お父さんの名前は「ソンティン」
お母さんの名前は「マリア」
妹の名前は「ラン」

家族は皆、
台風につけられたことがある名前だ。

サンサンは閃いた。
「もしかして、この石にも名前があるのかも」


より詳しいことを知りたくて両親に黙って、
香港から日本へ向かった。
気象庁や気象機関の情報や資料を読み漁った。

「あっ!」サンサンは見つけた。

2006年9月10日の台風13号、
2013年2月22日の台風2号、
2018年8月3日の台風13号、

どれも「サンサン」だった。

他の人たちで反応がこうも違うなら、
この石はきっと「サンサン」なのだと
確信した。

ひとつ、考えていることが解けた。
でも、なぜ石に?

またひとつ疑問が浮かんだ。

サンサンはそれから第一章にあった
歴史上の出来事を学び直して、
夏休みが終わった。

時はいま、お盆も過ぎた8月末

第四章 導き

次にサンサンは学校に通いながら
石とアライグマとの関係性を調べていた。
成績停滞、進路には相変わらず迷っている。

あの2頭とはあの日以来、会っていない。

どうして、あのアライグマは
未熟なわたしに この魔石を渡してきたのか。
謎が深まるばかり。

これが台風の予報円なら70%の確率で
当てられるはずなのに。

サンサンは、なぜアライグマが
親子だとわかったのか。
きっとサンサンの生まれる前から
いただろうと思って、住んでいた街の
アライグマの生態について調べた。

その昔、コンレイという女性が
この2頭を保護、管理していたというのだ。

確かに思い返せばアライグマは
サンサンに対して攻撃的ではなかったし、
首輪についていた名札に名前が
はっきりと書かれていた。

それ以外に彼女のとてつもない愛情が
アライグマに行き届いていたことが
この街に知れ渡っているよと、書かれていた。


あの肉をあげてからお返しに「魔石」を
渡してくるなんて従順にも程がある。

でも、そのくらいコンレイと2頭の間では
良好な関係が築かれていたことがわかる。

このようなことから、住む街で
コンレイは「伝説の少女」とも呼ばれていたが
最近ではその姿を見た者はいないという。

コンレイの存在を初めて知ることができた。

アライグマにつけられていた名前は
親が「チャーミー」で子が「ダナス」


サンサンは台風の名称一覧を引っ張った。

その中にフィリピンが名付けた「ダナス」
意味には「経験すること」とあった。

サンサンは、はっとした。

「わたしには経験が足りないんだ!
それをあの伝説の少女は、この街に住む
アライグマが子育てをする中で
″もらったらお返しをする″という習慣を
教えていて、その一環にわたしが入った。
アライグマにとって、あの魔石は お金なんだ。
それに、わたしはコンレイの存在を全く
知らなかった。日本にいるかな?」

コンレイはチャーミーとダナスに
「取引」という経験を覚えさせていた。
サンサンから鶏肉をもらったから、
その対価として魔石を渡しにやってきたわけだ

「正しいことをしているから
 毛嫌いされることなく
 この街で生きていけるんだね」

魔石とアライグマの関係性は結びついた。

そして、サンサンは自分の経験不足が
浮き彫りになったことを気にした。
それが先に出た「壁になっている」のではと。

振り返ってみると、
わたしはなにもできていないのに
誰かに認められたいであるとか、
両親を含め誰かの注目を浴びたいという
現代特有の「承認欲求」が
サンサンには顕著で 妹のランにはそれがない。

あのときの夢は、
このことを教えてくれていたんだ。

サンサンはこの日から、石と向き合いながら
自分の進路について真剣に考えることにした。
勉強も一生懸命頑張った。

「わたしが認められないのはなぜ?」と
悩んでいたのが馬鹿みたいだった。
顔から火が出る思いをした。

いままで「貧しいこと」を理由に
やりたい放題やってきたけれど
それは逆効果で誰かの気をひけるはずもない。

サンサンは、自分のいままでのことを並べた

・貧しいことを盾にした
・承認欲求に溺れていた
・生き方を知らなかった
・あらゆる事の経験不足

チャーミーとダナスは「模範的な家族」で
生き方のお手本を示してくれていたんだね。

それに気づいて生き方の方向は変わった。

サンサンはみるみる停滞していた成績も
伸びはじめ、進路も定まってきた。
まるで台風の予報円のように。


貧しいことは恥ずかしいことではない
むしろこれからどうにでもできる。

承認欲求を埋めるためには、まず
自分のことを認めてあげればいい。

正しい生き方とは他者を尊重して、
罪を重ねず謙虚に生きること。

経験が足りないのならその分野に
飛び込んでしまえばいい。


貧しいことは恥ずかしいことではないけれど
何かのサポートに頼ったり、
できると思うことや場所で働けばいい

ネットやSNSだけが自分の居場所ではない。
目に見える情報が全てとは限らない。

迷惑をかける生き方は
誰からも尊敬されないし、尊重もされない。
「正しい」とはなにかを追求した。

それにサンサンは石をもらってから、
「台風」という気象の分野に飛び込んだ。
知りたいことのために日本に向かったのだから
これは立派な経験になった。

サンサンは魔石をギュッと、
ぎゅぅぅっと力強く握りしめた。

すると一気に辺りの様子が変わった
もはや知っている風ではない
そして、石がかなりの光を放った

第五章 進め、サンサン

一変した状況でもサンサンは冷静だった。
ずっと石を握り風を感じている。

そう、この石は台風の眼、
過去の「サンサン」なのである

歴代の進路図を見れば
過去の「サンサン」はそれぞれ
進路がきちんとしている。


2006年の「サンサン」は
進路をなるべく北にとり
2013年の「サンサン」は
日本のはるか南で進路を西に
2018年の「サンサン」は
くの字になるように進路を東へ


「風をつかさどる」というだけあって
本来、風は流れるものでなければならない。

サンサンはいま日本の西で路頭に迷っている。

いくら8月や9月に日本に上陸する台風でも
ノロノロ動いているようじゃ
他者に悪影響を与えてしまうだろうし
このままでは、これから出会う
遠い街の人にも迷惑をかけてしまう。

サンサンは決断した。

「わたし、風に乗りたい」

「なりたいものになりたいし、
 いまの状況から抜け出したい」

魔石の風は一層強く吹いた。
サンサンを包むように。

( あなたの行く方向はこの先だよ )

風によって形成された進路が見えた。
しかも、ひとつやふたつではない。

サンサンは急いで過去の進路図を読み返した。

魔石の中にいる歴代の「サンサン」のほか
父「ソンティン」、母「マリア」、妹「ラン」
親のアライグマ「チャーミー」
子のアライグマ「ダナス」
そして伝説の少女「コンレイ」

皆、思い思いの方向に進んでいたことがわかる

台風同士は一定の距離で近づくと
それらが干渉しあって通常とは
異なる進路になることがある。
これを 藤原の効果 という。
いまではあまり使われない現象の呼称である。

わたしたち家族は台風であるがゆえ
「近すぎた」のだ。
だから上手くいかないのかもしれない。

地球大気に存在するものたちは、
他所の雲や水蒸気、熱エネルギーを奪いあい
互いの成長を妨げるものは望んでいないはず
クリーンで、なおかつ平等で
適切な温度感であることが大切なんだ。


日ごろ、サンサンが嫉妬をするのは、
妹は両親と一定の距離を保っているから
上手くいっているということ。
それに気づけていなかったことが
原因だったんだとようやく理解した。

この話に出てきたアライグマの親子で
例えると親が台風で、子が熱帯低気圧
だから「経験」を教えていた。
ここにも適度な距離感があったことがわかる。


「風をつかさどる魔石」とは 台風の眼 で、
私が迷っていたのは 進路と生き方
いままで上手くいかなかったのは
これに悩まされていたのが理由だった。

理由が判然としてから風が弱くなった。
心の中の「暴風域」のようなものがなくなった

サンサンは、
いままで気づけなかったことが多くて、
悔しくて、さみしくて涙が出た。

涙は雨でいうところの滝のような、
バケツをひっくり返したかのような
そんな量だった。
それは風で靡いて帯状となる。

その涙は九州や太平洋側にもたらした大雨だ。

香港で育ったわたしは、
日本のことをよく知らない。

だから立ち止まってしまった。
路頭に迷って泣いてしまった。

台風のガイドとなる偏西風に乗り切れず
置いていかれてる気がしたからだ。
それでも蒸した空気が背中を押してくる。

サンサンは進むたび少しずつ衰弱している。
もう調べは尽くした。

サンサンは旅程を組み立て直した。
もう香港へ帰る術は見つからない。

このまま日本を離れなければならなかった。
石が指したその先は、紀伊半島の沖


このまま風に乗って「自立」するしかない
どんなに遅くても進むしかないんだ。

「さようなら、家族と香港」

時を重ねるごとに魔石から放たれる風は
日に日に弱く、散り散りになっていく。
でもまだ、時折強い。

サンサンはコンレイのように
経験を教えられるような伝説の少女ではないが
なんらかの影響は大きく与えただろう。
間接的に日本に住む人たちに試練を与え
経験させたことには違いない。

これはきっと地上、高層天気図や
それらに関するデータを見れば
どれだけサンサンが粘ったかがわかる。


8月30日に九州から瀬戸内海を渡った時、
サンサンは東西南北のたくさんの緑を包んだ。
この街に住む人たちは、泣きながら東へ進む
「わたしの眼」を見ていた。
涙は風に流されて線状になることもあった。

サンサンは、チャーミーとダナスの
存在を忘れられない。なぜなら、
台風に「アライグマ」の名前はないからだ。

今日までにサンサンが、
ランに感じていた嫉妬は、
「自分が消えることで解決する」と
思ったから両親にも黙って日本にいる。

それに自分が「台風の眼」だと
知られてしまっては、
また貧しい暮らしに引き戻されるかも
しれないと思ったから何も言わなかった。

香港を離れてもう、しばらく経った。

家族からの連絡は一切ない。

それに、自分が「サンサン」である以上
「この魔石になるかもしれない」と
薄々感じていた。

なおさら日本に来たことを言い出せない。

「将来のこと何も話したことなかったな...」

両親との会話は、石を握らせた日が最後。

「家族とまともに会話できていたら、
 ここに来なくてもよかったのかな。
 コンレイはどこにいるのかな。」

サンサンは九州を横断し、四国を抜け、
紀伊半島から東へ向かい東海道にいる。

石はこの先、北を指す。

風の流れに乗れない日が続くので
家族を想うことにした。


「ラン、ごめんね。
 わたしはあなたが憎かった。
 愛されている様子が、
 とてもうらやましかった。
 もうそちらには帰らないので、
 お父さんとお母さんをお願いします。
 幸せに暮らしてください」

魔石に込めるように静かに祈った。
辺りはざっと雨が降り、風が吹いた。
この雨は時折、帯状に連なることがある。

サンサンは日本に来てから、
家族のことが頭から離れなかった。

アライグマの親子に
生き方を変えられることになるとは
思いもしなかったが、コンレイの教えが
引き継がれていると思うと
その存在の偉大さは
計り知れないものだっただろう。
だから、あの街では
「伝説の少女」と呼ばれていたんだね。

「チャーミーとダナスへ、
 あなたたちを育てた
 伝説の少女コンレイの
 偉大さが今わかりました。
 素敵な教えを受けられたのですね。
 わたしはあなた達の名前の通り
 受けられる限りの経験をしてきます。
 生き方を教えてくれてありがとう」

もう一度、石を握って歩みを進めた。
雨は続き風は吹く。
同じようにサンサンは涙が止まらなかった。
長い帯状に連なる。遠い街にも涙が及んだ。

導かれた先に向かう途中で、
だんだん石から輝きが無くなってきた。
このまま消えてしまいそうな感覚だったから
サンサンは少し焦り、歩む速度を上げた。

最終章 消えゆく


8月31日 午後 東に流れ
紀伊半島の南に到達した。
サンサンはもう息絶え絶えだ。

辛さが勝って勝手に涙が出る。
その涙は風に流されところどころで
とても長い線状となっている。

何度も石を握っても風のエネルギーが弱くなり
明らかに「魔石」の効力が落ちている。
それでも多少の風は返ってくる。

綺麗だった石は輝きをほぼ失って、
見ているだけで自分のエネルギーが
吸われるような感覚が強くなった。

日本に来てからというもの、
立ち止まることを繰り返してきたから
「台風の眼」としての役割はほぼない。
でも、まだ進路を教えてくれている

別の流れで入ってきた湿った空気が体に纏う。
それは自分の街にはない独特なものだ。

何度も言うように、
サンサンは、生き方と進路に迷った。
そしてコンレイの正体を知りたくて、
その核に迫るため日本にやってきた。

生き方はアライグマの親子に教えられた。
進路はこの魔石が教えてくれた。

家族や地元を背に向けて
新しい分野で与えられた試練に耐え
泣きながらも経験を重ねてきた。

日本に来てからいつの間にか、
サンサンは「伝説の少女コンレイ」も
追うようになっていたが、
到底及ばずにこの旅は終わりそうだ。
もうほとんど石の力がないのだから。


じわりと魔石を握った。


石は、サンサンを吸い込もうとした。

「この旅もそろそろ終わりだね」

覚悟した。

太平洋高気圧の空気の在来線はくるのに
その先にあるわたしのガイドになる予定の
あの風の流れにはもう乗れない。
間に合わない。届かない。


サンサンは繰り返す。この旅をする理由は
「自立をするのに必要な経験を積むため」
「伝説の少女コンレイを知るため」だ。


香港での暮らしを思い返す。

毎朝聞いた近所のおばあさんの叫び声が
わたしにとってのアラームで、
背骨を鳴らして1日が始まる。

そして、部屋を出ると、
一緒に暮らしていた貧しい家族で
父が盗んだ食材で食卓を囲う毎日だった。

なにも感じなかった日でも
家族はいつも近くにいた。

妹に嫉妬していたけれど、
それは間違っていた。
離反すべきは妹ではなく父親だったのだから。

サンサンは、ふと気になることがあった。

 なんで、夢の中の父は盗みを働き、
 ヴィーガンだったんだろう?
 それに近所のおばあさんは
 どうして毎朝叫んでいたの?
 結局、アライグマの生態は
 なんだったのか。

今度は香港で調べることになりそうだ。

でも進路は北を指している。


サンサンは承認欲求が爆発して、
魔石を握りながら、Xに最期のポストをした。

「誰か綺麗な石を見つけたら拾ってね
 たぶんそれ、わたしだと思うから」


いいね がついたけれど、もう帰れない。


「わたしには、まだ経験が足りない...
 でも...もう...厳しいのかな... 」


最後の力で石を握る。吸い込まれる直前だ。
南からの風に自分の涙が湿った雑踏に紛れる。
そして涙は時々帯状に連なり雨となる。

ふらっと寄った紀伊半島の南の
太平洋の水を飲んで水分を補給したけれど
雑踏が邪魔をしたから、
たくさんは飲めなかった。
貧しい自分を悔やんだ。
石を握った。

9月1日、サンサンは姿を消した。


エネルギーを完全に吸われ石になったのだ。


湿った空気に紛れた涙だけが残った。
これからうまく風に乗っていけるといいね。


時を同じくして、9月1日の正午
2024年の台風10号「サンサン」は
東海道沖で熱帯低気圧に変わった。
これも、北へ向かうようだ。


最後に、いくら貧しい暮らしをしてようが
窃盗は立派な犯罪です。

おわり。


2024年8月 TikTokコメントストーリー
迷える台風の少女「サンサン」その理由とは。


✒️TikTokコメントエディター
Sona. (企画構成、全体編集、進行、
    第三、四、五、最終章)
すし太郎 さま (第一、二章)
美男子 さま  (第一章)
登竜門 さま (第一、二、五、最終章)
___teppppppp25 さま(第一、二章)
ケロリとカエル さま (第二、五章)

コメントをくださった皆様、
ご協力いただきありがとうございました。


📖文献引用・資料参照元
気象庁
WNI ウェザーニューズ
日本気象協会
ナツメ社 気象予報士試験テキスト第2版
yahoo!天気
NHK
TikTok


この度の台風被害、土砂災害により
被災された皆様には
お見舞いを申し上げます。

さまざまな災害は正しい知識と
正確な情報をもって恐れる事が大切です。
そしてしっかり備えること。

それが命を守るきっかけになります。
いざというとき、自分はなにをするべきか
少しでも防災に興味をもって
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