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イタリア映画『シチリア・サマー』が最高傑作だった

 Amazonプライムで、本日2本目のイタリア映画『シチリア・サマー』を見た。去年映画館で観たかったけど、お金がなくて、Amazonプライムに500円払って観た。ここ最近で、史上最高の傑作。金払ってでも観て良かった。これを観ずに死んだら、俺は絶対に後悔した

 舞台は1982年のイタリア、シチリア島。バイクの整備工場で働くジャンニはゲイで、周囲もそれを知っている。ジャンニへの扱いは酷いなんてものじゃない。母親は矯正施設に入れていたし、ゴロツキは無理矢理口紅を塗ってかわいがってくる。そんなゴロツキを止めた、一見優しいゴロツキのボスも優しさで止めたんじゃなくて、ジャンニの身体が目当て。ジャンニにはどこにも救いも逃げ場もない

 一方、自宅の花火工場で働くニーノは、ハイスクールの卒業を叔父や両親に祝ってもらい、欲しかったバイクを買ってもらう。バイクは中古でボロいけど、ニーノはうれしくて試し乗りする。その矢先、修理したバイクを客先に届けようとしたジャンニとバイク同士が衝突し、事故を起こしてしまう。ニーノは無事だったが、ジャンニは酷いケガを負った上、気絶して息ができなくなっていた。ジャンニを助けるために人工呼吸するニーノ。気が付いたジャンニ。二人はそこから親しくなり、友情を育み、そしていつしか熱い恋愛に変わる。二人で打ち上げたお祭の花火、二人で泳ぐ毎日、二人だけの秘密。しかし、シチリアの黄色い太陽に照らされた二人の輝く時間は、ある日突然終わりを告げてしまう。引き裂かれる二人。引き裂かれた果てに、ニーノが、そしてジャンニが選ぶ生きる道とは、という話。

 全てのゲイはこの映画を観るべき。そして、ゲイ関係なく、本当に映画が好きだとあなたが言うのなら、この映画を観ていないとだめだ

 観れば分かるが、全編、徹底的に構図、色彩、照明、音楽、編集にこだわり抜かれている。この一本で「映画に必要なものは何か」が全部分かる。観てもそんなの分からなかった? だとしたらあなたの目は節穴だ。ここまで徹底された映画も久しぶり。特に水へのこだわりは極まっている。こんな美しい水の撮り方、観たことがない

 美しいシチリア島の自然。海や川の、青でもない、緑でもない、めまいがするほど美しい水。地元の神聖なお祭。打ち上がる花火。ジャンニが直したニーノ一家の一輪車、ベスパなんかの古いバイクたち、採石場の労働現場。ただただ全てが美しく、その中で育まれる二人の恋は、まるで神の雫のように虹色の輝きをまとう。そしてそれが壊される瞬間、悲しいとか、辛いとか、そんな言語化できない感情を観る人間は味わう。そして、最後に思い知ることになる。これが、実話をモデルにした物語だということに。

 本当にちゃんと自分で観て欲しい。

 でも、感想も書きたい。

 書かずにおられようか。

 なので、この先は【重大なネタバレ】を含みます。

 観る予定がある人はここでUターン。

 観たことがあるっていう人は、お付き合いいただけるとうれしい。

 大丈夫かな?

 映画のラストシーンですが。

「秘め事にすれば、100年だって続けられる」と選んだニーノと、「僕はもう恐れない」と決意したジャンニ。二人が、イタリアのワールドカップ優勝でお祭騒ぎの喧騒の中を、バイクで走り去っていく。もうここで終わるやろ、って思ったんですよ。

 そのあと二人が泳いで、昼寝して、キスをして手をつないで、ああもうハッピーエンドって思ったんですよ。信じてたのに!

 その後、二人のバイクをゆっくりヒキながら、銃声が2発。あれ、叔父が撃ったんですよね。やっと決心したのに、やっと手をつないだのに、二人とも殺されてしまうなんてあんまりです。そしてこれが当時のイタリアで【実際に】あった話で、昔の話って思うけどたった42年前なんですよね。

 十年ほど前に、エジプト(だったと思う。イスラム圏のどこか)で12歳の男の子同士が広場で手をつないだ罪で、公開銃殺刑になったことを知ったときも胸がつぶれる思いがしました。ムスリムでは公然で手をつないだだけで同性愛扱いになるから。

 本当に怒りを覚えます。男と男が愛し合って何が悪いんですか? 誰かに迷惑かけますか? 好きになる相手選べますか? 世の中の人間は男性か女性かどっちかで(ノンバイナリー除く)、男性と女性が結ばれるのが一般的だとして、それに例外があっちゃいけないんですか? 仮にダメだとして、それは命を奪われないといけないことですか? 何の権利があってそんなこと決めてるんです。日本なんて江戸時代まで衆道大ブームでしたけども?

 実際、僕が高校生の時、WHOは同性愛を「精神疾患」と規定していました。同性を愛することが病気だって世界でまかり通っていました。今だってそう、日本の議員にいますね、「同性愛者を見るとかわいそうな人たちだと思う」「同性婚を認めると出生率が下がる」と公言する方。いいよもう、そんな種族なら滅べよ、っていう気持ちになります。

 台湾では何年も前に同性婚が認められて、前のフランスの首相ガブリエル・アタルさんは35歳(至上最年少)にして同性愛者であることを公表されていたし、良い話もあるんですが。

 ともかく、同性愛者を取り巻く環境について、全ての人に分かってもらうことは無理だし、その必要もないし、それは分かってるんだけど、命が奪われることが僕は許せない。あるいは、命を自ら絶つまで追いつめていく仕組みも許せない。だから、この結末は本当に悲しかった。この物語が実話に根差していることも。

 ホンマ観て良かった。制作スタッフの方々、素晴らしい映画をありがとうございます。Blu-rayが真剣に欲しいぞ、これは。何回も見直したい。ゲイ云々抜きに、マジでカメラワークと色彩が最高やから。音楽、これサントラ探す。挿入歌の歌詞が切なすぎて泣ける

 そういや、エンディングのスタッフロールのフォントがDIN Altanative(DINというのはドイツの工業規格のこと)だったな。DINは視認性が高いからよく使われるんだけど、せっかくのシチリア島が舞台なんだから、イタリアを感じるフォントが良かったなあ、と思ったり。そんなトコ気にするのは僕くらいだろうけど(笑)。

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