第八十話「LOOPさんにて、おでん×ワイン会」2025年1月25日日曜日 晴れ
さて、今日は『wine bar LOOP』さんでのワイン会である。ワイン会は月一程度の頻度で行われているらしい。おつまみとなる主菜は店主であるゆかさんの手作り。それに合わせたワインを参加者各自が持ち寄る。と言っても、優劣を競うものではない。『LOOP』さんの常連さん、ゆかさんのお知り合い、とそのまたお知り合い、ワイン会の存在をSNSで知った方などが参加する、和気藹々とした気軽な会とのことだ。
ゆかさんはソムリエである。したがって参加者の方には、ソムリエやエキスパートなどのワイン資格保持者も多いらしい。私の目的は、その方たちから知識を得ること、その方たちのワインへの関わり方、大袈裟に言えば仕事論を知ることでもあった。
時間通りに到着した。既に参加者の方が数名。会釈して入り、ゆかさんに挨拶。参加費を支払い、持参したワインを渡す。『wine shop bistrokawasemi』さんで購入したものだ。ゆかさんの隣には男性が。ゆかさんのお知り合いのシェフで、副菜を担当するそうだ。目元の涼しい男性だった。
私は少し緊張していた。ワイン会というものに参加するのは初めてだし、初対面の人ばかりだ。客商売に就いているが、ここはゆかさんのお店だし、私は参加者だ。おかしな振る舞いはゆかさんの迷惑にもなる。
参加者も揃った頃、ゆかさんが乾杯の音頭を取る。イタリアのスパークリングで乾杯だった。もちろん、参加者の方の持ち寄りワインである。
特に申し合わせたわけではないが、スパークリングからスタートし、白、オレンジ、赤へと進んだ。
一人一本なので、グラスに注がれる量はそれほど多くない。それでも赤ワインに入った頃には、緊張もやわらぎ、口が滑らかになってきた。まさにワインは会食のための酒なのである。
やはり、持ち寄ったワインの話題になる。
驚いたことに、ソムリエの先輩方は、生産者の方と直接会い、話す機会を多く持っていらっしゃった。中には収穫のお手伝いまでされていらっしゃる方もいた。そのワイナリーのワインを持参されていた。
ソムリエの教本にはこのような一節がある。
先輩方は、この文章を真に実践していたのだ。
よく、資格取得はゴールではなくスタートだと言われる。資格取得の勉強より、その資格の職責を全うする、その質をより高める勉強の方がはるかに辛く、険しい、と。
先輩方はその勉強を怠っていなかった。
飲食の仕事は休みが取りづらい。1日の拘束時間も長い。その中で生産者の元へ足を運ぶ時間をやりくりするのは並大抵のことではないのに。
自分が恥ずかしくなる。
冗談めいて「ペーパードライバーのソムリエです」と名乗っていた。努力を続けている先輩方から見れば、同じソムリエと名乗って欲しくはないだろう。「それならば返納しろ!」と怒られても仕方ない名乗りだ。
「おでんだからね、出汁割りもできるよー!」
とゆかさんが参加者に声をかけた。
カウンターにはワンカップが並んでいた。
赤羽の立ち飲みおでん屋の名物、『おでん出汁割り』である。飲み進めたワンカップにおでん出汁を入れて割る飲み方だ。つまみと酒を一緒に口に入れる、安く早く酔うための飲み方。戦後、高度成長期時代の赤羽の労働者たちの飲み方だ。
私は、ワンカップを手に取り、冷や酒を飲んだ。三分の一を残し、出汁割りにする。
温められた冷や酒はアルコールを揮発する。ワンカップに鼻面を近づけると、揮発したアルコールに咽せる。
今は、女性が一人飲みできるほど明るい街になった赤羽。
出汁割りが生まれた頃の赤羽は、労働者のための街だった。高度成長期とはいえ、汗の埃と油に塗れた作業着姿の男たちは、この出汁割りをどんな心待ちで飲んでいたのだろう。
戦後から立ちあがろうとする、明るい未来を心に描いていたのだろうか。
明るい未来を際立たせる暗い陰として、自分を見ていたのだろうか。
私はどんなふうに出汁割りを飲んだのか。
私が飲む姿を見て、ゆかさんとシェフは
「いいねぇー!」
と言った。
私は、きっと美味そうに飲んだのだろう。
※
Wine bar LOOPさん
とても素敵なお店です!
女性一人飲みにも最適ですね。
初めての赤羽飲みはここから!ってのもいいかもしれません。
ワイン会は月一程度のようです。
詳細は『LOOP』さんのInstagramでご確認ください。
今回、紙幅の都合と掲載許可を取り忘れたので副菜の情報を書くことを控えました。
シェフのお料理、とてもおいしかった!
あのクオリティと品数、量。
参加費に含まれてる思うと、参加費もうちょっと高くてもいいんじゃない?と思うくらいです!
もちろん、ゆかさんのおでんも美味しかった!
有意義なワイン会でした。
毎回とは行きませんが、できるだけ参加したいと思います。
ゆかさん、今後ともよろしくお願いいたします。