化学基礎演習:④ モル計算 その弐 ~文章から創る比例式~ (無料記事) by 茶茶 サティ
モルは化学で必須の知識… というより「常識」です。理系に挑戦する方々を応援するために、今回も無料で提供させていただきます。
本文をお読みいただいたあとは、本稿の例題を解いてみてください。
そして次にはお手元の問題集で成果を確認してみてください。サティと解き方が違っても構いません。
要は答えがちゃんと出れば良いのです。
なお途中でなんじゃこりゃ? という部分があったら、
「③モル計算 その壱」を参照してください。
では… 美しき挑戦者(チャレンジャー)たちよ、健闘を祈りますぞ!
Ⅰ、【単位の換算… 式作りのコツ】
では… 二酸化炭素1.5モルは何gでしょうか。もし分子量を暗記していれば、1モル分+0.5モル分ですから、44g+22g=66g と計算できますが、ケースバイケースで処理できなければなんの意味もありませんね。
では、どうしたらよいか。特に掛け算と割り算の関係を間違える方は要注目です。
例題9
「二酸化炭素 1.5モル は 何g か」
ただし二酸化炭素の分子量は44である。
…求める答を仮にXgとしておきましょう。
要は二酸化炭素の「問:1.5モルは… 答:何gか」ですね。物質1モルの質量g = モル質量g = 分子量にgを付けた質量g ですので、二酸化炭素1モルは44gであり、この関係は絶対的に正しいのです。
面倒ですが、はじめのうちは書いてみてください。
「二酸化炭素1モルは44gだから、1.5モル は Xgのはずだ」
これは論理的に正しい文章です。構成として「単位が同じ順で並ぶように」書くのがコツです。上の文章では、二酸化炭素1モルの定義のモルとg、そして出題のモルとgの順序が同じになるように書くのです。
そして、この文章ができたら… もう解けたも同然です。計算ミス以外は…
「1モル は 44g」 だから 1.5モル は Xg のはずだ。
↑ 定義に相当
まず… 出題文の単位の関係を見つけましょう。今の場合、モルとgという2つの単位の関係を問われています。それがわかったら、左の「定義」に相当する正しい文を書き、右側には未知数を混ぜて単位の順番が同じになるように文を書けば良いのです。
つまりこの作業は… 文を書きながら比例の式を作っているのです。
はい、もう式はできました。やり方は簡単すぎるくらい簡単、このまま数字と単位を下ろして「:」と「=」を加えるだけで、比例の式ができるのです。項目4つに対して3つは既知なので、未知数Xは計算によって導くことができるはずですね。
再度書きます。次に数字と単位を下ろすと比例式ができています。
1モル は 44g だから 1.5モル は Xg のはずだ
外項 内項 内側の項目 外側の項目
1モル : 44g = 1.5モル : Xg ←比例式
論理的に正しい文章ならば外項の積(掛け算)は内項の積に等しいので、
1モル × Xg = 44g × 1.5モル
Xg = 44g × 1.5モル /1モル = 66 ですね。
さて… 計算が苦手だったあなたはここで思うのではないでしょうか。
「はて、計算したものの、この66っていったい何? 単位はどれどれ?」
まことにマヌケな話ですが、実はこれは大昔の筆者の姿そのものです。
そして、さまざま試行錯誤した結果、こうならないようにあらかじめ単位を付けて式を作る習慣を身に着けました。
この場合、求めたい未知数Xの単位は(g)ですから、 答は66(g) ということになりますね。
ついでに式をよく御覧いただくと、(モル)/(モル) で単位(モル)を約分しているのに気付くでしょう。
単位って約分できるんですよ。
単位は邪魔者ではありません。むしろ使い方によっては「黙って計算方法を教えてくれる」有難さを秘めたものなのです。
Ⅱ、【単位は計算方法を示す律義者】
(りちぎもの)
余談ですが… 筆者に言わせれば…距離(ミちのり)と速度(ハやさ)と時間の関係を「ミハジ」で考えるなんてナンセンスです。テスト等で一瞬は役に立っても、丸暗記では応用が利かず、言ってみればあまり意味がないように見えてしまうからです。
以下、サティが「ミハジ」をどう解くかという思考です。
速度の単位を(m/秒)とすると、
・距離(m)を時間(秒)で割れば速度(m/秒)が計算できます
↑ 割り算の方法が単位に明記してあります!
・速度(m/秒)に時間(秒)を掛ければ距離(m)が計算できます
↑ (秒)を約分すると(m)が残ります
・速度(m/秒)を距離(m)で割れば時間(秒)が計算できます
↑ (m)を約分すると(秒)が残ります
単位にはこれだけの情報が詰まっているのです。
分数表記(例えば4m/秒)の「/(割り算)」がイヤだというヒトは、「1秒で4m」と読み替えればウソみたいにわかりやすくなるはずです。
この場合、単位時間は1秒ですよ!
ついでに言うなら、速度(m/秒)をさらに時間(秒)で割ると加速度(m/秒^2)を計算することができます。おっとこれは物理と数学(微分)の知識でしたね… テヘ(可愛く)…
話を元に戻します。
計算が苦手な方には幾つかのパターンがあります。その第一が「考え、計算しているうちに、今何をやってるのかあやふやになる」型です。
解決法はあります。
ⅰ (特に未知数には)単位を書く
ⅱ 単位を見て計算方法を考える
ⅲ 計算過程を残しておく
どれも解き方を考えたり検算や見直しをするときに役に立つので、頭のなかで道筋が立っているヒトは別として、是非習慣にしておきましょう。
ここまでのポイントをまとめます。
★単位に注目し、その順序を同じにして、1モルの定義と比べた文を書く。
★左辺は1モルの定義 = 右辺には出題された項目や未知数を書く
上の例の「1モルの定義」gは、1モル=44gである。
★数字を下ろして比例式を作る。
★途中は式の形で放置し、具体的計算は最後の最後に約分を期待して行う。
いかがでしょう、ぜひ実践してみてください。
Ⅲ、【質量(g)→モルへの換算】
例題10 「二酸化炭素13.2gは何モルか」
ただし炭素の原子量は12、酸素は16とします。
要は二酸化炭素「問:13.2g →答:Aモル」です。
まず「要は…」と書くための単位の確認です。
二酸化炭素1モルの質量(モル質量)は12×1+16×2=44(g)ですね。それならば二酸化炭素Aモルは13.2gに相当するはずです。答に相当するところは未知数AモルでもBモルでもXモルでも、かまわずどんどん決めちゃいましょう。
二酸化炭素について、
左辺は1モルの定義 右辺は出題の問と答
1モル : 44g = Aモル : 13.2g
外項の積は内項の積に等しいので、
Aモル × 44g = 1モル × 13.2g
Aモル = 1モル × 13.2g / 44g = 0.3モル
答 0.3(モル)
これは二酸化炭素(g)を二酸化炭素(モル)に換算するには「二酸化炭素のモル質量(g)」で割れば良いことを示す式ですね。
たったこれだけのステップですので、計算ミス以外、間違えようがないでしょう。
そう言いながらタイプミスをしている自分が居そうでちょっと怖い…
ではもう一問。
今度は逆のタイプで、モル→gへの換算です。やり方はほぼ同じです。敢えて同じ数字を使って検証してみよう。
例題11 「二酸化炭素0.3モルは何gか」
要は二酸化炭素「問:0.3モル → 答:Bg」ですね。
「二酸化炭素0.3モルはBgである」
まず1モルの定義を思い出し、単位の順を同じにした文章を作ります。左に1モルの定義を書く習慣にすれば良いと思いますが、そうでなくても大丈夫です。
二酸化炭素1モルは44g だから 0.3モルはBgである。
数字を下ろせば比例式ができています。
1モル : 44g = 0.3モル : Bg
外項の積は内項の積に等しいので、
1 × Bg = 44 × 0.3モル
Bg = 0.3 × 44 = 13.2g 答 13.2(g)
ただ、「1モルの定義を左に」書くことに抵抗を感じる人もいます。単位の順序さえ守ってくれれば過程は違っても結果に影響はないので、自分の型を決めてくれればそれで良いのです。
念のため「1モルの定義を右に」書くパターンを下に書きます。
二酸化炭素Bgは0.3モルです。定義では二酸化炭素44gは1モルです
Bgは0.3モルです = 44gは1モルです
Bg : 0.3モル = 44g : 1モル
Bg × 1 = 44 × 0.3
Bg = 44 × 0.3 / 1 = 13.2g 答 13.2(g)
結果は見ての通り、結局どちらでも正解は出るので心配無用です。
ただし式の立て方は「いつも同じ方法で」作ることを強くお勧めします。少なくとも「単位の順番」だけは左辺と右辺で同じにしてください。場合に応じていろいろ変えると「間違いのモト」になってしまうからです。「間違いのモト」というのは、掛け算か割り算かを決める、式の立て方のことですよ。
大切だからくどく、くどく書いておきますね。
正しい式の立て方例(モルとgで例示)
例1 (左辺は1モルの定義)= (右辺は問題の数字と未知数)
モル:g = モル:g
例2 (左辺は問題の数字と未知数) = (右辺は1モルの定義)
モル:g = モル:g
例3 上2つのモルとgを逆にした型
例4 よくある問題集の解答例の解き方
たぶん数学がデキる方が作ってたせいか、サティには難しかったです。
きっとこんな感じでしょう
定義(モル):問題(モル) = 定義(g):問題(g)
これを例題11に当てはめると…
1(モル): 0.3(モル) = 44(g) : Bg
Bg = 44 × 0.3 / 1 = 13.2g 答 13.2(g)
こうして確かに答は出るのですが、せっかく定義を知っているのだから、敢えて文章をバラバラにするより、まとめて使うべきだと思うのですが…
サティは、1モルの定義(左辺)と論理的な文章(右辺)で比べるやり方の方が優れていると思っています。
例5 そして… 問題集ではこんな解答例も多いですよね。
44 × 0.3 = 13.2g
↑ なぜ44と0.3を掛けるのかが不明確なので、
割り算してしまうヒトが続出!
アカン代表例 ↓ 論理的に正しくない文章
「二酸化炭素1モルは44gだから、二酸化炭素66gはWモルである」
(左辺は1モルの定義)= (右辺は問題の数字と未知数)
モル:g = g:モル ← 単位の順序が不統一
計算が苦手なヒトのパターン2がこれです。式だけ見ると、掛けるべきところで割り、割るべきところで掛けているだけに見えますが、その誤りの根本は他にあります。
その根本は、「理解があやふやで式の立て方が統一されていない」ことであす。
だからミスも犯すこともあり、時に正解することもあります。いつも全部間違えていれば誤りに気付くし、対策も取れますよね。しかし「時に正解する」ために、却って原因がわからなくなるのです。
つまり「どこで間違えたかがいつになっても特定できない」ため、結果として成績は伸びていかないのです。
解決策は「いつも同じ正しいやり方を習慣付ける」こと。それだけでこのパターンのミスは激減します。
Ⅳ、【モル→気体の体積Lへの換算】
(リットル)
ここでは他の気体の混じらない「純物質の気体」の話として進めます。実際のところ「気体の種類に関わらず…」なので、空気のような混合気体でも成り立ちますが、そうすると「分圧」などという用語が出てきて事態を一層悪化させそうなので、今は措(お)いておきましょう。
ところで…
気体の分子にもいろいろあるのは御存知でしょう。酸素、窒素、水素から塩素、硫化水素などの毒ガスに到るまで、化学の教科書にはさまざまな気体が登場します。いずれも「分子」ですが、その分子の構成には気を遣う必要があります(後述)。
また温度や圧力も重要で、0℃で1.013×10^5Pa(=1気圧)で気体の物質が「22.4L」をそのまま用いる対象になります。温度が上がれば比例的に体積が大きくなり(シャルルの法則)、圧力が上がれば反比例的に体積は小さくなります(ボイルの法則)。
いつも思いますが、「ボイル」って「茹(ゆ)でる」、つまり温度上昇の意味ですので、「人名が逆になってくれれば都合が良いのになぁ」なんて…
そんなこと考えるといつの間にか覚えてますよ。
また、燃焼の化学反応式で出て来るH2Oは0℃では基本液体であることにも注意してください。【どうしても体積を答える必要があるときには、密度1(g/cm^3)として、質量のgをmLかcm^3に替えて答えれば良いのです。0℃での水蒸気の体積はほぼ無視できますから】
上で(後述)と書いた部分を説明します。ひとくちに「気体分子」と言っても、原子1個のもの、2個のもの、3個以上のものがあり、また1種類の元素からなるもの、2種類もしくは3種類以上のものなど様々な気体分子があります。
≪単体:1種類の元素記号で表記できる物質≫
1つの原子で安定した状態の「単原子分子」
…貴ガス18族のHe(ヘリウム)、Ne(ネオン)、Ar(アルゴン)、
Kr(クリプトン)など
2つの原子が「共有結合」して安定している「2原子分子」
…水素H2、酸素O2、窒素N2、塩素Cl2など
3つの原子が「共有結合」している「3原子分子」
…オゾンO3など(オゾンは不安定で分解しやすく、この系統の問題
はまず出題されません)
≪化合物:2種以上の元素記号で表記、ろ過や蒸留では分別できない物質≫
塩化水素HCl、硫化水素H2S、アンモニアNH3、CO2、など
どれもこれも表記した「分子」が0℃、1.013×10^5Pa(1気圧)で1モルつまり6.0×10^23個ある場合は22.4Lの体積を占めるのです。
くどいようですが、
・単原子分子(18族元素)のガスの分子量は原子量と等しい
・二原子分子(単体)のガスの分子量は原子量×2
・化合物のガスの分子量は、表記してある原子量の合計
ですので、良く注意して区別してください。
例題12:0.25モルの二酸化炭素は標準状態で何Lを占めるか。
答えをZ Lとします。
要は二酸化炭素「問:0.25モル → 答 Z L」ですね。
単位に注目して、まずは1モルの定義から考えましょう。答の単位はLですから、「1モルの基準量は22.4Lである」という関係を使います。
左辺には1モルの気体の体積Lの関係を、右辺には問いと答えの単位を順に並べて書いていきましょう。
1モルは22.4Lですから、0.25モルはZLになるはずです。
このまま数字を下ろせば、比例の式ができています。
1モル : 22.4L = 0.25モル : ZL
外項の積は内項の積に等しいので
1 × ZL = 22.4L × 0.25
モチロン掛け算をしても良いのですが、0.25は1/4と同じであり、半分の半分でもあるので、
「22.4の半分は11.2、さらにその半分だから5.6」
と考えてもよいでしょう。
ZL = 5.6L 答 5.6(L)
しかし… 残念ながら式の立て方を間違えて、22.4Lを0.25で割ってしまったヒトもきっと居るのではないでしょうか。
あなたは計算が苦手なのではなく、式を作る作業で手順を誤ったから正しい式が導けなかっただけなのです。
今までは式の作り方を間違えていたから計算問題が苦手だったヒト…
そういう方にこの解き方をおススメしたいのです。そしてそういう方はたくさん存在しています。
式を間違えている以上、このあとの計算をどんなに頑張っても時間のムダにしかなりません。部分点ももらえないので、まさに意味がない頑張りになってしまうだけです。
ちょっと最初に定義に戻った文を書くだけで論理的に正しい式ができて、しかも計算問題が解けるようになるとしたら…
それがこのテキストの狙いなのです。
手間を惜しみ、さっさと計算して結果0点というよりも、はじめに手間をかけて「基本に戻って」じっくり式を立て、ゆっくり計算して「正解する」ことに意味があると思いませんか?
そう… 式さえ合っていれば、部分点を期待することができます!
もう一度言います。式の立て方の方針はひとつ、それは「単位を見て基本に戻る」ことです。
たとえば… モルと気体の体積(L)の関係を問われたら、「1モルは22.4L」という基本に一度戻って式を立てる習慣を付けていきましょう。
やがてふと気付けば自然に「正しく手を抜く方法」を会得している… そういうものなんです。
Ⅴ、【ここまでのまとめ】
ここまでを軽くまとめます。単位は( )で括ってあります。
① 各種の単位(g、L、個)→物質(モル)に換算する方法。
全て「1モルの基本量による割り算」として処理することができます。
物質W(g) = 《W(g)/モル質量(g)》(モル)に相当する
物質X(L) = 《X(L)/22.4(L)》(モル)に相当する
物質Y(個) = 《Y(個)/6.0×10^23個》(モル)に相当する
共通点は「単位を揃(そろ)えて割り算」することです。もちろん単位は約分され、(モル)だけが残ります。
② 物質Z(モル)を各種単位(g、L、個)に換算する方法。
全て1モルの基本量の「掛け算」として処理することができる。
物質Z(モル) = Z(モル)×モル質量(g)に相当する=W(g)
物質Z(モル) = Z(モル)×22.4(L)に相当する =X(L)
物質Z(モル) = Z(モル)×6.0×10^23(個)に相当する=Y
(個)
共通点は「単位を揃(そろ)えて掛け算」することです。もちろん(モル)は約分され、求める単位だけが残ります。
Ⅵ、【総合まとめ】
さらにまとめます。要するに…
単位の基本量で割る 単位の基本量を掛ける
物質W(g) → 物質Z(モル) → 物質W(g)
物質X(L) → 物質Z(モル) → 物質X(L)
物質Y(個) → 物質Z(モル) → 物質Y(個)
こういうことなんです。
(g、L、個) 割って → (モル) 掛ける →(g、L、個)なんて、
まるでTKGのタマゴ(割って掛ける)みたいですね。
良いですか、コツはただ一つ、単位と順番を揃え、基本に戻って式を作ることですよ!
今回はここまで… では成功を祈ります!