見出し画像

やっと、親友。

5年前のある日、
いつものように2人で疲れるまで遊んだ帰りの車内で、いつものようにたわいもない話をしていた。
話題は、親友について。

“私は4人いるかなぁ。
まだ一度も地元を離れていないから、
小学校時代から知っている親友。
高校時代にある共通点がきっかけで仲良くなり、
以降今までずっと続いている2人。
そして、大学に入ってから知り合って、
半年くらい一緒に住んだり、
お酒で失敗したりして、
とにかく全てを曝け出した親友。

4人とも全然違う価値観を持っているし、
4人全員を集めても上手く纏まらないと思うけど、
みんな大事な私の親友なんだ。
この子はこんな人で、
こんなエピソードがあって、、”

たぶん、私はすごく楽しそうに話していたと思う。一通り聞いてから、彼は言った。
“俺、親が転勤族だったから
地元の友達もいないし、
大学入ってからもサーフィンばっかりで、
親友って言ったらお前くらいかも。”

運転する彼の横顔を見ながら、
すごく複雑な気持ちになったことを覚えてる。
嬉しいと悲しいを同時に感じて、
胸がぎゅっと鷲掴まれた。

その頃の私は、彼に恋をしていた。

彼と私はサーフィンという共通の趣味で
仲良くなり、よく一緒に過ごしていた。
お互い適当な性格で、
でも思いやりは適度にあった。
だから、一緒いる時にふざけて怒ることはあっても、本気で嫌な気持ちになることはなかった。

それどころか、彼と過ごす時間は
とてつもなく居心地が良すぎた。

いつか付き合うことになるのかな、
そうなったらいいような、このままが良いような。
そんなふうに考えていた矢先、
彼から”親友”というワードが飛び出したのだ。

その場では照れ隠しのような反応で喜んだけど、
そこから数週間は、
とにかく頭を抱えることになってしまった。

男女の友情は成り立つのか、
はたまた親友も成り立つのか。
お互い独身のうちにそうなっても、
いろいろ上手くいかないんじゃないか。

そして、彼の中で”親友”という
カテゴリー分けをされた以上、
もう発展することはないのだろうか。

考え抜いて、その時私が出した答えは2つ。
・彼の親友の定義は私にはわからないけど、初めての親友になれたことは嬉しい。
・私は彼を人として好きで、友達として好きで、男としても好き。そして今は、友達として一緒にいたい。

ただ、一度結論づけたとしても、
人の心は揺れ動く。

恋心を消したいと願ったり、
彼の”親友”でいなければ、と
勝手に言葉の重みを感じて自分を縛り、
うまく付き合えない苦しい時期もあった。

だけどやっぱり彼と会っている時は
とにかく楽しくて、離れようとは思えなかった。

彼は正直、女性に対して
褒められる態度を取っていない。
彼氏がいる子をセフレにしたり、
ある時は彼女のことを”暇つぶし”なんて
言ってしまうくらい、クズだ。

そして、彼はおそらく
私の気持ちに気付いていたので、
考え方によっては、いいカモだったと思う。
だけど彼は彼なりに、
”親友”を大切にしようとした。

決して私に期待させないように、
しっかりと線を引いてくれていたのだ。

時に宿泊を伴う趣味なので、
例えば同じ部屋に泊まることもあるし、
2人でトリップにも行った。
何が起きても彼は責められない状況。
そんな時には特に、
お互いが快適かつ楽しく過ごせるような
彼の配慮を感じた。

そんなこんなで
大学時代の多くを共に過ごした私たちは
なんとか単位を取り切って卒業。

そして、いつも近くにいた彼は、
初期配属で地方に飛ばされた。

月日は流れ、社会人3年目を迎えた今年の夏。
未だ地方勤務中の彼は、
長期休みを利用してこちらに帰ってきた。

親の車から彼自身の車になったこと以外は
学生の頃と何も変わらず、
海に行き、サーフィンでくたくたになって
近所にある行きつけの居酒屋でビールを頼む。

“あら、今日は2人?”
顔馴染みの店員さんから声を掛けられる。
“はい、彼が長期休みでこっちに帰ってきてて”
“遠距離なのか”
即座に私は否定する。
“彼って、そういう意味じゃないんです笑”
すると、隣から彼が笑顔で言った。
“親友です!”

5年前と同じ言葉。
でも、私は素直に嬉しいと感じた。
あの時のように複雑に感じることなんて
これっぽっちもなくて、
さっぱりとした晴れやかな嬉しさ。

私の中でもようやく
彼が親友になったのだと
自覚した瞬間だった。

私だけに言った5年前と店員さんに伝えた今回、
その差もまた、私にとっては大きかった。

私は、彼のクズなところを知っている。
普通なら引いていてもおかしくはないくらい。

それに、どれだけ私に女っぽさがなくても
男と女という性別の違いがあるのは事実。
(今の時代にジェンダー云々は語るのが難しいけど、彼も私もストレートで、一時期は恋愛対象として見ていたのだから、性差を無視はできない。)

私が男だったら良かったのに。
いや、もしそうだったら
こんなに仲良くなっただろうか。

何度も繰り返したこの問いは、
いつも同じ終着点に辿り着く。
結局、恋愛対象になり得る相手で、
そうならないことをお互いが望んだからこそ
ここまで仲良くなれたのだと。

この先、彼が本気で誰かを愛するか
私が本気で誰かを愛した時に、
私たちの関わり方は変わると思う。

だけどそれまでは、
どちらも無理をすることなく
誰かを悲しませることもない限り、
この関係でいたい。

関係性が変わる時を迎えたら、
きっと寂しさを感じるだろう。
それでも心からの”おめでとう”を言えたら、
それが私たちの正解。

これが26歳の私なりに出した、
クズで最高な親友に対する結論だ。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?