ep.81 “はじめて”を軽快に選りたい 大人とて
鼻先に金木犀の香りをキャッチ。今年はじめてじゃない?と浮き立つ。「あれっもう咲いてるのかな?」「朝はまだでしたよねえ」いっしょに歩く先輩と平和な会話を広げながら、ゆっくり深呼吸する。
こんばんは。たまです。連休明けでばたばた目が回りそうだったけど、なだらかな気持ち。金木犀のおかげです。
生活の日記
「ごゆっくりどうぞ、って言い終わったあとは、一旦止まって、この角度でお辞儀してね」
夜、いつものファミレス。よく見かけるベテランの店員さんが、さっきわたしたちのメニューを取ってくれた店員さんに忠告する声が聞こえてきた。
そういえば、「いらっしゃいませ」とメニューを置いてくれたとき、カチンコチンに緊張されていた。10月から出勤しはじめたのかな。新しいことって緊張するよねえ、と密やかに彼女へ思いを馳せる。
♯
学生時代、ぼんやりと接客を不得手に感じるまま、どのバイトも卒業した。大人になってからあんまり開けてこなかった記憶の引き出しから、ふっとほろ苦く思い出される。
あのころのわたしは、一発で200gの煮物を美しくパックに入れられないような、己の不器用さにはじめて直面し困惑していた。クレカでの決済が終わったあとから「やっぱり全国百貨店共通商品券を使いたいんだけど」と申告されたときのパニック。だれかのイラつきの矛先が自分であることを薄々自覚してしまうと、余計に焦った。
向いてないことへの諦めと、それを認めることの小さな悔しさ、のせめぎあい。野心の薄いアルバイターだったけど、帰り道は一丁前に毎度落ち込んだ。そんな経験も、向き不向きを気にせず飛び込んだ無鉄砲さゆえだ。
だから、若きわたしのことは讃えてあげたい。はじめての知や行なんて、なんぼあってもいい。あれこれ考え込んで、新人になるのをつい億劫になってしまう今となっては、見習いたいくらい。
未知の経験がもたらす発見は、自分への解像度もあげる。わたしはこんなことがすきで嫌い、あんなことが起きたらうれしくて悲しいみたい、って。
♯
ファミレスのあなたも、今日のお仕事明け、どうか自分を労ってあげてね。わたしたち、意味のないことなんてないはず、たぶん。
ドリアもパフェも美味しかったです。ごちそうさまでした。
今夜の1曲
Sam Smith の Stay With Me を。
このころのサムスミスを聴くと、6年前に旅したロンドンの石畳を思い出す。はじめてのヨーロッパ。どぎまぎしながら異国の土地を歩いていたら、交差点前の小さな広場に人だかり。真ん中にいたのは、彼の歌をサックスで吹く青年だった。
知らない土地で聴く、だいすきな歌が与えてくれる安心感ったら忘れられない。今でも、新しいことへの不安や心細さを溶かしてくれる音楽。いつだってまた新世界を選んでいけるように。
今日はなんだかまわりに優しくできてなかったんじゃないかと、ぶくぶく落ち込む夜です。あしたは優しい自分でいれますように、また歩いていこう。
今日もおつかれさまでした。あなたも、わたしも。