見出し画像

ep.67 ごめんね、でもやっぱりグッバイサマー

まさかの5泊6日贅沢コースでいやんなっちゃう。あんまりのびのび滞在しないでおくれよ、と願うばかりな台風ですね。

こんばんは。たまです。あの街でもこの街でも、安全に週末までたどりつきましょうね、わたしたち。


ここは、小さなラジオブース、あるいは寝る前の談話室。水曜日は「生活の日記」と「今夜の1曲」をお送りします。


生活の日記

家族に会いに帰った夏だった。だった、と過去形にしたのは、もうわたしのなかで今年の夏はやりきったからである。グッバイサマー。暦ももう夏はおわりって言ってるわけだし、思い出はアーカイブしておこう、そうしよう。

▼ 実家にポチが来た
「ポチ聞いて〜、暑いねえ」母の声がする。この夏、実家にポチが来た。しかし、犬ではない。ポチこと扇風機に話しかけているのである。寂しさのあまりおかしくなったわけではない。そういう、音声認識型商品を、おもしろそうだと購入したらしい。

半年ぶりの実家は、娘がポチへ渋々でも話しかける様を見たい、父母のいじわるな期待で充満していた。齢三十超えとはいえ、未だ実家のアイドルを担っている自負があるゆえ、期待には応えてあげたいところ。意を決し「…ポ、ポチ〜……」と呼ぶ。待ってましたと言わんばかりの父母の表情。想像にもしなかった、ポチとわたしの共演というへんてこ親孝行が発生した帰省だった。


▼ リメンバーミーお盆ナイト
仏間の大きなテーブルを囲む。「あのときサンマを焼いてって言ったんよ、おじいちゃんは」「え?そんなことあった?」それぞれが故人との密な記憶を持ち寄る。みんなで飲んで食べて「なんかTHEお盆って感じやね」と笑いあう。あまりにも人肌の夜だった。


▼ わたしの運オールイン祭り
歌自慢たちのカラオケ、炭坑節による盆踊り。義実家の近所でおこなわれた小さな祭りには、こどもや地元の消防団員、町の重鎮たちがゆるやかに集う。土着のお祭り経験値が低いので、タイムスリップのように覚えて、新鮮にこの光景を眺めた。

抽選会がはじまっても、呑気に傍観していたのだが、珍事が起こる。なんと1等を引き当ててしまったのだ……!

無名の地区外生物がいただいちゃう、いささかの申し訳なさは芽生えつつも、当選はいつだってうれしい。大人なのについはしゃいでしまった。

栄えある賞品は、仕出し屋の8000円分のお料理引換券。A3用紙にぴっちりとラミネート加工されたもの。その、どこまでも隙のないスーパーローカルぶりが、この夏だけの風味をよけいに濃くした。

ローカルレトロポップなかき氷は50円なり

ロケット花火がダダダッと弾け、宴もたけなわ、祭りは結ぶ。夏も悪くないかもね、と密かに思ったのはここだけの話。


今夜の1曲

フジファブリック若者のすべて を。

いいかな、もう選曲してもいいよな、真夏のピークは去ったよね…!と、この数日、誰に確認するでもなくぶつぶつ呟いていたから、今とってもうれしいです。

まだ二十歳の頃だったと思う。

恋人がカラオケで歌っていて、この歌を知った。薄暗い部屋のなかではやたらモニターが明るく見えて、はじめて触れるこの詩を彼の声に沿いながら目で追った。

このまぶしさに湧く感情はさびしさか、愛しさか。こんな時間がいつか消えてしまったらどうしよう、と無性に泣きそうになっていた。大人になった今、取り出そうにも、もうぼんやりとした記憶。

センチメンタルな夜は、あなたと分け合いたい。夏が少しずつ終わっていく余韻も、淡い思い出も。



無邪気な言葉の棘にくじけそうになっちゃう日々も、思いもよらぬ場所で歩き出せなくなってしまう夜も、茹だるような暑い夏も、ちゃんと終わりはくるね。きっと、ぜんぶよくなる。

今日もおつかれさまでした。あなたも、わたしも。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集