嶽本野ばらとの出会い
いつものように書店内をふらっと見ていた時だった。
平置きされた『ユリイカ/2024年5月号』の表紙が目に入り、衝撃を受けた。
なんだ、この美しい画は……!
まず男か女かわからない。
年は、取っていそうだけど、
何歳なのかわからない。
この人が誰なのかもわからない。
ただただその謎めいた美しさに心奪われた。
すぐさま手に取り雑誌の中に飛び込んでいく。
ゴージャスなお洋服を着て、
こちらを睨みつけるこの人は
一体何者なんだろう。
よくよく読んでみると、
彼は「下妻物語」の作者だということがわかった。
下妻は映画を観たことがあったから知っていた。
原作、この人が書いたんだ!
てかこの人作家なんだ!!
※映画「下妻物語」は茨城県下妻市が舞台のコメディ映画。深田恭子演じるロリータファッションが大好きな少女と、土屋アンナ演じる特攻服を着た不良少女の友情を描いた物語。
その雑誌には、彼の今日までの生い立ちが掲載されていて(彼が自分で書いている)
かわいいお洋服が大好きなこと、
お洋服を買いすぎて借金まみれになったこと、
エッセイストになるために小説を書いたこと、
大麻で過去二回逮捕されたことなどを知った。
面白すぎだろ、人生。なんでもアリなのかよ。
絶対に私じゃ生きられない人生を歩んでいる。
もっと知りたい、この人のこと。
ふと、雑誌が置かれていた棚の横に目をやると、
彼の最新エッセイ「ロリータファッション」が堂々と鎮座していた。
表紙がレース模様になっている。
表面に指を這わせると、
ぽこぽこと柔らかい凹凸を感じた。
手に取ると、わりと分厚い。
そして小口のところに蛍光ピンクのストライプ模様とリボンがあしらわれていた。
なにこれめちゃくちゃ可愛い!
こんな本見たことない!
小口にきゅんとするなんて初めて。
この真っ白なレースを泥で汚されようものなら、
私は深キョンばりに絶叫してしまうかもしれない。
「ロリータファッション」には
DiorからSHEINまで、
服にまつわる彼の思いが熱く語られている。
私の知らないブランド(彼は必ずメゾンと言う)がこの世にはたくさんあって、
たくさんの人を魅了しているのだなと思った。
下妻物語を映画化する時に彼が出した条件は、
衣装としてBABY, THE STARS SHINE BRIGHTの服を必ず使用すること、ただそれだけだったという。
この本の重みは、彼が借金してまで手に入れてきた素敵なお洋服や布たちの重みなのだ。
買う本が決まっていなくても本屋さんをウロウロしてしまうのは、こういう出会いがあるからだ。これだから本屋パトロールはやめられない。
1週間後、また本屋パトロールをしていると、
「ロリータファッション」のサイン本が置かれていた。
え……先週はなかったじゃん。
そっち買いたかったんですけど。
この本は装丁がとっても可愛い分、お値段が可愛くないのでサイン本は泣く泣く諦めた。
本屋パトロールにはこういうリスクもある。
くそう。