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【白血病闘病記】#07 もう頑張れない

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2週間が経ったころ、腕にぽつぽつと赤い発疹が出始めた。
看護師さんに伝えたら、血小板が低いからかな?と言われた。
痛くも痒くもなかったのであまり気にしなかった。

その夜、身体中が痒くて目が覚めた。
見ると発疹は全身に広がっていて、昼間とは比べ物にならないくらい腫れていた。

2日ほど我慢して耐えられなくなった頃、ベテランの看護師さんにこれは酷い薬疹だと言われた。

その日は運悪くGWの1日目で、皮膚科の先生にすぐに診てもらうことはできなかった。
毎日何種類もの点滴をして、内服薬も数えられないくらい飲んでいたので、どの薬でアレルギーが出ているのかもすぐにはわからなかった。

その時にはもう元の皮膚の色が見えないくらい、頭から足の先まで、火傷のように真っ赤にただれていた。
そのせいで40度を超える熱が続いていた。

ステロイド治療を始めたけれど、すぐに良くなるものではなかった。


そしてこの日、初めて髪の毛がごっそり抜けた。

もう限界だった。

病気になるまで、人一倍、美容に気を遣ってきた。

毎日丁寧なスキンケアと美顔器をして、
月に1回は美容院に通った。
ジェルネイルも必ず3週間以内に付け替えた。

それが一瞬にして、
頭皮から足先まで真っ赤にただれ、髪がごっそり抜けて、爪がボロボロで黒くなった。

肌も髪もネイルも、いつも綺麗だと褒めてくれる彼が好きだった。
こんな姿を絶対に見せたくなかった。

どんな姿でも気持ちは変わらないと言われても、
そのときの私にはそんな言葉は信じられなかった。

その次の日は、初めて2人で受精卵凍結のためのクリニックを受診する予定だった。
そのために大阪に向かう彼に、行かない、と連絡した。どうしても行けないと思った。

もう何も頑張れなくなっていた。

SNSには友人のキラキラした日常と出産報告が並んでいた。友人の幸せを喜べない自分への嫌悪感に押しつぶされた。
綺麗にメイクをして元気に働いている同世代の看護師さんに身の回りのお世話をされるのも惨めだった。

もうこのまま死ねた方がラクだと思った。

看護助手さんにハサミを借りた。
高熱で意識が朦朧とする中で、一気に抜けたせいで絡まった髪の毛を、泣きながら雑に切った。

鎮静剤を投与されて、久しぶりにひと眠りして起きたとき、担当医が会いに来てくれた。

頑張らなくていいと言ってくれた。
耐えるだけでいい、もし耐えるのが辛かったら鎮静を使ってもいい。
治療は勝手に進めるからただ寝てくれているだけでいいと言ってくれた。

姉が服を買って病院に持って来てくれた。
私が大好きなブランドの服だった。
ハイネックのトップスと緩いロングパンツ、深めのバケットハット。
全身が上手く隠れる服だった。
これを着てクリニックに行ってほしい、本当に後悔してほしくないと言われた。

彼は、もし自分に姿を見せたくないなら別々に行こうと提案してくれた。
私の元の髪型にそっくりなウィッグも買ってきてくれた。

この日クリニックに行かなかったら、一生後悔していたと思う。
この先どうなるかわからないけど、受精卵凍結できただけで生きるモチベーションにもなった。

闘病は1人では頑張れない。
家族とパートナーはもちろん、
血液内科の先生方と看護師さんとリハビリの先生、
応援し続けてくれた友達。

私はこのときに声をかけてくれた全員を一生忘れない。
死ねた方がましなんてもう思わないし、
この人たちのために生き続けたい。

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