社長のために
70〜80代のおじいさん。
とある男性職員のことを『田中くん』と呼び、隣に座っている別の利用者のことを『社長』と呼んでいました。
これ、ふざけているわけではなく、見当識障害により誰が誰だかも今いる場所もわからなくなっているのです。
田中くんと呼ばれていた職員は見た目は田中くんかも知れませんが、実際は1文字もあっていません。
このおじいさんはよく田中くんに外に車を回しておいてくれと頼んでいました。
社長をどこかに連れて行くと言うのです。
社長と呼ばれる利用者さんは、別に社長だったわけでもなく、無口な人で、社長と呼ばれても否定も肯定も返事もせずにいました。
しかし、認知症のおじいさんはそんなのおかまいなし。
田中くんは田中くん。社長は社長。自分は社長の部下で田中くんの上司か先輩となっていました。
認知症のおじいさんは田中くんに車を回すように伝えても田中くんは動いてくれません。
怒ったおじいさんは足の筋力が弱っているため車いすを使用していますが、車いすから立ち上がり歩こうとしました。
転ばれては困る。
どうせ転ぶなら頭から派手にいってくれ。
そんな思いが交錯する中で事故を防ぎつつ、おじいさんが不穏とならないように対応していました。
気分転換に散歩に連れて行っても効果はなく、話題を変えようにも効果はありませんでした。
対応が難しいため内服により落ち着かせようとしました。
薬の血中濃度が安定するまでは落ち着かない日が続きましたが、しばらく内服させていたらどこかに行こうとしたり、立ち上がったりすることはなく、落ち着くようになりました。
しかし、田中くんと社長と呼ぶのは変わりありませんでした。
今は他の施設に行ってしまいましたが、今でもたまに田中くんと呼んで思い出しています。
社長?
社長も他の施設に行ってしまいました。
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