![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/150388826/rectangle_large_type_2_694bb529df7658ddb2189699ae537e5e.png?width=1200)
結婚も妊娠もしたことないけれど。朱音さん目線で観る『海のはじまり』
「子ども産んだことないでしょ。」
「大変なの。産むのも育てるのも。大変だろうなって覚悟して挑むんだけど、その何倍も。・・・別に尊敬しろなんて思ってないけど、産みたくて産んだんだし当然のことなんだけど。水季もそう。産みたくて産んだし。育てたかったの。悔しいの。水季がいたはずなのに。血のつながりが絶対なんて思わないけど、でもこっちは繋がろうと必死になって、やっ繋がれたの。だから悔しい。」
朱音さんが面と向かって弥生さんにこう言ったとき。
「ああ、はっきり言葉にしてくれて。直接弥生さんに言ってくれてよかった。」と、救われたような気になったのは、私だけだろうか。
朱音さんの心が死ぬ前に、夏くんと弥生さんの前で潔く明言してくれてよかった。
悲しい冷戦を見ずに済んでよかった。
若くして誰の手も借りずにひとりで子どもを産み育てる娘の水季は、なかなか子宝に恵まれない環境で、やっと身籠った子だった。
そんな我が子が、幼い娘と自分を残して天国に行ってしまった状況で、何も知らない父親が突如現れて……。
初対面の夏くんになぜか懐く孫。そして、物分かりが良すぎるあまりに、当たり前のように母親になろうとしている弥生さん———。
私なら、最愛の娘を亡くした直後、取り残された孫と向き合わなければならない状況で、(知ることができなかったとはいえ)何も知らない父親、さらにはその彼女までもが現れたら、取り乱してしまう。
もっと、理不尽に八つ当たりしたり、もっと冷たい対応をとってしまったりするだろうと思う。
娘が生きた証である孫。寂しさを紛らわせることができる孫との大切な時間。
そのすべてを、ふとやってきた父親と見ず知らずの人に奪われてしまうかもしれない。娘の死に追い討ちをかけるように押し寄せる恐怖に苛まれながらも、なんとか平静を装おう朱音さんを見ているのが、ものすごく辛かった。
今の朱音さんのすベてを受け止めてくれるのが、旦那さんだけだというのも、心強くて、心細い。
「あの子、『あたしお母さんやれます』って顔してた。」
このセリフも意地悪く受け取れるかもしれないけれど、自分が感じた悲しみを、ただ受け取った通りに述べているだけ。
嫌味のように取れる言葉を発していても、決して海ちゃんの選択肢を狭めるようなことはしないし、娘が大好きだった夏くんのことも悪く思ってはいない。
何なら、弥生さんと夏くんに嫌な態度をとっている自分に嫌気がさしているような描写さえある。
こんなに苦しい状況で、なんとか自分を保とうと必死な朱音さんを見れば見るほど苦しいし、心から尊敬する。私には弥生さんと海ちゃんが遊んでいる姿を直視するどころか、弥生さんと顔を合わせることさえできないと思う。
だから、どうか、ちょっとくらい朱音さんがきつい発言をしても、許してあげてほしいと思う。
物言いは確かにきつい。きついけど。
娘の死、夏くんと弥生さんのこと、海ちゃんの選択———。
朱音さんは朱音さんなりに1つ1つ受け入れようとしているから。
私の周りの同世代(20代前半)の友人たちは、弥生さんに感情移入している人が多いらしく、朱音さんにあまり良い印象を抱いていないようで……。
だから、どこかで朱音さんの味方をしておきたかった。
かといって、夏くんや弥生さんと敵対したいわけではない。
結婚も妊娠もしたことない自分が、朱音さんの心情をわかり切ったように語るのは調子が良すぎるけれど。
水季さんと海ちゃんの自由を尊重してきた彼女の寛容さが、もうちょっとだけ世間から気づいてもらえますように。
そう願いながら毎週月曜9時を待っています。