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【連載】 アニマルバー 『メモリーグラス』 ⑥

廻り、廻って、時代は廻り。
呑んで、呑まれて、呑まれて、呑んで。

随分長居をしたような、いやはやあっという間のような。
いつもの『浮世ワスレ』を呑みながら、まあ、そんなことはこの際どっちゃでもええか、ってな域に達して来た。
どうせ家へ帰っても、お小言の騒さいかか様と、黙って煙草ばかり燻らしているとと様に挟まれて、海辺へさんぽに出ちゃあ、小銭で饅頭食ったり、甘酒舐めてみたりしているような毎日だ。

「海は広いな、大きいな〜。」

なんて言いながら地平線を眺めていた日に懐かしさを感じる程だ。

慣れとはいささかキケンなモノで、見ているうちに、だんだんこの竜宮城の風変わりなショーも、ほぅ。これはイケてると半ば感心、次は何が出てくるのかと半ば心待ちにするようにもなってきた。
今まで平凡な特に何も起こらない日常を過ごしてきたことを考えたら、次々と趣向を凝らした楽しませ方に、ママの人柄を重ねるようで、それがまた何とも心地良く、ずーっとこうしていたい、ずーっとこのままでいたい、ずーっとママを見ていたい、出来ることならママのあの長い髪に触れてみたい、出来ることならママのつるっとした二の腕に触れてみたい、出来ることならあの柔らかそうな太腿のあたりを枕にしてみたい、出来ることならあのふわっとした肩掛けを剥ぎ取ってしまいたい、出来ることならちょっとだけ押し倒してみたい、出来ることならいやん♥ダメです、困らせないで。なんて言わせてみたい、出来ることなら、いや、でももう見ているだけでは我慢できなくて。なんて言ってみたい、出来ることならキラキラと妖しく輝くライトに包まれるこのバーのカウンターに押し倒して、あはん♥なんて言わせてみたい、出来ることならこんな時をお待ち致しておりましたん、もうどうにでもーーー。なんて言わせてみたい、出来ることなら、やはりそうであったか、ガマンしていたなんてきゃわゆいヤツよ、今宵は思いっきり楽しませてやろうぞ。(←いや一体、誰やねん、アンタ) なんて言ってみたい、出来ることなら、ついでに、音姫サン、『キメてやる今夜』なんて言ってみたいーーー🤯

「お客サン、『浮世ワスレ』も一杯イク?」

い、いかん。ついいつもの妄想亀関車暴走中。
ところで、お前、喋れるのか?
洗い続けることしか脳がないと思っていたバーテン、ラスカルのヤツに妄想大爆破されてしまった。
しかもバレたかな、この妄想が。いやそんなはずはないだろ。
しかもママには、『ラスカルちゃん』なんてちゃん付けだなんて羨ましい。ママは気に入ったヤツにはちゃん付けだからな。
「あ、あぁ。貰っておこうか。」

そんなところへママの音姫がやって来て囁く。
この囁きがちょっぴり色っぽくて、耳の奥のオレのカタツムリをくすぐる。
「常連さんがやってきたから、ちょっと待っててん♥ ふーっ💋」
って、ゾクッ。今の最後のふーっ💋がいがった😍
カタツムリだけじゃなくって、その奥のほうまでビンビンきちゃったじゃないか。ついでにもっと下のほうまで。
ごくりっ。『浮世ワスレ』でも流し込んでゴマかしとくか。

だけどママは、その甘い囁きとは裏腹に、さっと仕事顔になり、従業員たちを促す。そんな顔もまた良い。
「そろそろマダムのお出ましよ。さ、みんな、4649ぅ!」

それを聞き、それぞれ定位置に付く動物たち。

DJのサバンナモンキーは、顔まで真っ青になりながら、一枚のレコードを探している。
「ご到着はコレじゃないとダメなんだよな。あのマダム。似たようなのでも怒られるんだから。えーっと。コレだコレだ...」





軽快にマラカスでリズムを刻みながら、その鼻面を何か美味いものの匂いでも感じるように小さくヒクヒク動かし、うっとりした目を半開きのまま小さな足でちょこちょこ前進。

まず最初に入って来るのは、中でも一番真面目なむーちょ
形良く整えたヘアーが真面目さを一層増している。

その次にやってくるのは、ワイルドさが売りのまっちょ
口髭を蓄えているのもダンディズムの現れか。

最後は、いつでも寝歩きねむねむMAXのぱんちょ
この顔を見ていれば誰でもつられて眠さ増し増しのお気楽体質。

人呼んで、この3匹のサムライその名も!
『トリオ・ロス・ワンコデス』🐶🐶🐶
むーちょ、まっちょ、ぱんちょ、
よろぴく、ワンワン🐶🐶🐶

そしてその後に到着した黒塗りのリムジン。
そして中から現れるのはっ!?

立ち寝が得意な、セキュリティでドア付近に控える、厚めの胸板にぴったりとしたタートルネックを着たタートルが、ニンジャのように静かに近寄りぼそぼそと呟く。

「ひと昔前にあっただろ、『バスルームから愛をこめて』っていう人気の深夜番組が。あれでブームを起こした元ラジオのシナリオライターなんだってさ、あのマダム。
それがその後、「とらば〜ゆ」して弁当ビジネスで財を成し、そこから更にオリジナルなサンドイッチを販売、日本三都市展開(東京、大阪、川越)で大成功を納め、遂にパリ進出。アジアンランチブームに乗り、第一号店はシャンゼリゼ通りを中心としたビジネスマンに爆発的人気。続いてオペラ座近くの日本料理屋の多い通りにも第二号店を出店。近年はロンドン、ブタペスト、飛んでイスタンブールへの出店も計画中。」

お、おぅ。さすがセキュリティ、情報通。お客様個人情報詳しいな。

ちょこちょこむーちょが素早くリムジンのドアを開ける。
ドア越しに待つバニーちゃんからお声がかかる。

「むーちょ! きゃわゆいん♥」

「えへへ🐶 むーちょ、きゃわゆいん、げっちん🐶」

「いや〜ん♥きゃわゆいん♥むーちょ!」

「えへへ🐶 むーちょ、今日もげっちん🐶うれぴー🐶 バニーちゃん、お仕事終わったらボクちんと一緒にスタバ行ってくれる?」

「スタバ、明日タバ! タバスコパスタ!」

「🐶 ??? お仕事、お仕事。」


「どっこいしょ。」

と言いながら出てきたこの人が、マダム・たゆ。
意外にも神秘的で縁起の良い鶴がモチーフの和服姿。白地に黒で流水と梅。モノトーンのシンプルな配色の中にもインパクトを忘れない、まるで自らがジャパニーズソウルフードのおにぎり🍙を体現したかのような着こなしだ。そこには朝3時に起きて弁当を手作りしてきた女性としての芯の強さ、まるで沢庵を齧るような小気味良さを表現しているような、ピリッと辛い紅生姜を思わせる高貴な印象さえ与えてくれる。
そんなシンプルな着物に合わせ、帯にはさすが、トリオ・ロス・ワンコデスのメンバーの色々なはしゃぎっぷりの姿が並ぶ。
髪をゆるゆるに結い上げた後れ毛の多いうなじもオトナの香り。これぞお色気大正モダン。

「サバンナモンキーちゃん、いつもありがと。この『べサメ・ムーチョ』がないとここに来た、って気がしないのよね。
今日はサービスにモンキーちゃんのお尻の色と同じ色の帯上げ、締めてみたの。ど〜お?」

「あ、めっちゃステキっす。なんか、照れちゃいそうっす。」
「えー、ホントに照れてんの? 顔まで真っ青だけど。そうだ、バナナ1ダース、差し入れしといたから、後で食べて。」
「あ、ザッす。アザッス!」



「さてっと。今夜もフリオ様、お元気かしらん。ささ、今度は『キエレメ・ムーチョ』お願い。『いっぱい、欲しがって』って歌よ。タイトルだけでよじれるわ〜。
👏👏👏この "C" を発音するときの、舌を噛む感がたまらん〜。色っぽくてよじれるの〜♥」

そこへママがご挨拶にやって来る。

「あ〜ら、マダム・たゆ、ようこそいらっしゃいませ。今日のお弁当はもう準備万端で?」
「ママもお元気そう。うん、お父さん弁当は一番好きな焼きそばパンで何とかごまかしといた。だって毎日たらこマヨサンド頼まれたって、無理だっちゅーの。」
「そうそう、こないだマダム・たゆに教えてもらったロールサンド、ここでも作ってお出ししたら大好評! それをご飯と海苔でアレンジして出してみたんだけど、それもまた大好評!」
「え、ママ。それって単なる巻き寿司!?」
「食べてみる? ちょっと待って。カッパちゃ〜ん、こないだのロールサンドアレンジメニュー、巻き巻きしてくれる?」
「ヘイ、毎度。オトナの鮨のカッパですっ。」
「へ〜、はじめまして。ところでカッパちゃん、出身地はどこ?」
「へイ、マダム。カッパドキアですっ。カッパだけに。」
「なんか、どっかで聞いたことのある切り返し。」
「いやん♥カッパちゃん、オトナの鮨、ヨロシクッ。」

「ヘイ、お待ちっ!

に刺され
メで剥ぎ取る
ンティ何処へ  

カッパ巻きですっ。カッパだけに。」

「お見事っ♥
カッパちゃ〜ん、カッパ巻きにはやっぱりチューブの前田クン、おねが〜い!」

「ヘイ、そりゃあ、カッピーさんのネタですけどね。お出ししましょ。」

「いや〜ん🐰🐰🐰、きゃわゆいん♥恋してむーちょ♥」





そして今夜もショーは終わりなく。

あはん♥









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