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近代美術館に行ってみた【現代アートを楽しみたい】 #01

このシリーズのタイトル、「現代アートを楽しみたい」は本当は仮のつもりで、なにかユーモアの利いたシリーズ名が思いついたら変えようと思っていたのですが、まだ思いつきません。はぁ。

さて、現代アートに興味が沸いてから初めて、美術館に行って参りました。本を読んでも動画を観ても、「直接鑑賞するのが一番」っていうコンセンサスが芸術界があるみたいなので、とりあえず行ってみました。

国立近代美術館で開催中の『フェミニズムと映像表現』がまもなく終了するという情報をたまたま見かけたので、滑り込みで鑑賞。

なぜこの企画展に行く気になったかというと、マーサ・ロスラーの『キッチンの記号論』を大学の授業で触れたことがあってハードルが低く感じられたからですね。個人的にもフェミニズムには関心があって、特に第2波以降フェミニズムの文脈については最低限の知識はあるので、これは自分でもわかる良い機会だと。

おそらく比較的こぢんまりとした展で、全作品じっくり鑑賞できましたが、中でも印象的だった3つの作品に触れてみたいと思います。

まずは先に触れた『キッチンの記号論』。私が作品の解説をしても意味がないのでそこは省略しますが、これはかなりわかり易い作品だと思いました。もちろん、女性の身体の「モノ化」(記号化)と、本当の意味でのモノ(物質)である調理器具の並列は小学生には理解しづらいでしょうけど、『料理とは女性が「お淑やかに」「ニコニコしながら」するもの』というイメージに対するアンチテーゼは子供でも感じ取れると思います。

個人的に気になっているのは、最後のアルファベットのU?以降に急に大胆になる身体表現ですね。アルファベット後半から始まる調理器具がない(探せばありそうですけど)のは前提として、何かしらの意図をもって演出してることはたしかですよね。ナイフを振り回す独特の腕の動きを見て私がパッと思いついたのは、呪術的な行為というか、何かスピリチュアルな儀式の振りみたいだなと思いましたね。それが、女性をキッチンから解放する呪術なのかな、なんて思ったりしました。

二つ目は、ダラ・バーンバウムの『テクノロジー/トランスフォーメーション:ワンダーウーマン』です。これは館内の解説文を読まなければちんぷんかんぷんな作品でした。書いてあったのは、フェミニズムアイコンでもあるワンダーウーマンの変身シーンおよびそのシーン前後の映像を切り取って反復させることで、元来の作品の文脈から切り離して、改めてワンダーウーマンに対する視線に疑問を投げかけるというものでした。

音楽で言えばまさにサンプリングの手法。トラックのチョップです。芸術ってこれが面白いですね。元の作品がもつ背景や文脈を踏まえて上で、別の作品に昇華する。あるいは元の作品を再定義すらしてしまう。この作品で言えば、アイコンとしてのワンダーウーマンの功罪みたいなものを問い続けているようでした。

最後、今回の展示で一番感動したのがキム・スージャの『針の女』でした。世界各地のストリートの群衆の中で、一人の女性がこちらに背を向けてただ立っているだけの、数分にわたる映像のインスタレーション作品(で合ってますかね?)。

「見る」暴力をひしひしと感じました。個人的に「見る」ことが何かしらの暴力性を孕んでいることに自覚的になったのは2020年末くらい。19歳くらいのときですね。若っ。私にとって初めての同い年スターであるビリー・アイリッシュへの世の中のメールゲイズ的な様相に絶望していたのと、セリーヌ・シアマ監督『燃ゆる女の肖像』が公開されたのがキッカケでした。

女性で韓国人であるキム・スージャは、国境を越えるとそのアイデンティティはより一層強調され、視線を受けることになります。その様子を作品として捉え、鑑賞者(私)までもその構図の一部に取り込んでしまうパワーに私自身やられそうで、悩みながら観てました。音楽も映画もそうですけど、最終判断をオーディエンスに任せたり、半ば強制的に能動性を掻き立たせたりする作品は素晴らしいですよね。

あとこの作品は、一人の女性を針に見立てた点も鋭いと思いました(針だけに)。小さくて代替のきく安いものだと思われがちですが、何かを傷つけるのには十分な鋭さをもっている。家庭内で女性が使う(女性だけが使うべきとされている)道具が、実は暴力性をもっているという点で『キッチンの記号論』にも通づると思います。風刺と反抗としての針のメタファーということですね。

加えて、これは自分の中で100%納得している解釈ではないですけど、行き交う群像を布、キム・スージャを一本の針と捉えると、群像という社会を一人の女性が繋ぎ止めて、社会を社会たらしめているようにも見えます。ビヨンセの「Run the World」みたいな話です。男性同士の繋がりであっても、そこには可視化されにくい女性の介入が不可欠な事実が、なんとなく炙り出される気がします。

以上、お気に入りの3作品でした。

次回の記事は何になるんでしょうかね。

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Masaaki Ito
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