猫のいない庭③
第六話『カステラ』
私は、すかさず家に帰りみぃちゃんを呼ぶ。
呼んだって来ないのだけれど、そんなことより心配した。
あんな音がずっと毎日聞こえていたのかと思うと。
本当に申し訳なくて辛かった。
カレンダーを見た。みぃちゃんを受け入れたのは4月20日で今日が24日なので5日目だ。
流石におかしくなってしまうのではないかとみぃちゃんをゲージに入れて訳もわからず抱きしめた。
猫の知識どころか、引っ越した土地の知識もない自分が情けなくて申し訳なくて、もっと調べないといけないと思った。
すぐにみぃちゃんをゲージに入れ、持って家を出て自転車で出かけようときたがゲージを持ったままでは無理だ。やむを得ず歩いて近所のカフェに行った。
そうだ。読者はわかるであろう。
前回でもお話ししたマダム達の井戸端会議のされているカフェ。
私はいつも通りカステラを頼んで、ゲージから出さないので中に入れていいか聞いた。
店主も高齢の方で『百猫市だよ。もちろん大歓迎。おい!この中にアレルギーの方いるか?』声を張り上げ問うと少ない客はみんなして首を横に振った。
『ありがとうございます。』 私は軽く頭を下げてコーヒーとカステラを交互に少しずつ口にした。
『最近越してきた姉ちゃんだろ?どうした。元気ないね。』サバサバと身を案じてくれた店主に甘え、私は一連の悩みを話した。
先ず。
・百猫市はなんで百猫市というのか
・元からあの付近は家賃が安いのは超音波が盛んだからなのか
・あのあたりに癖者の住人はいるのか。
店主は『うーん。』とタオルを肩にかけ、腕を組み、考えていた。
すると井戸端会議をしていたマダムたちが私の方を向いて教えてくれた。
『百猫市は昔の話になるのだけれど妖怪の猫又様って言うのがいてね、猫の尻尾が別れている?一本多い妖怪なのだけれど....』
楽しそうに話してくれたのはここの常連の金子さんだ。
『一般的に伝誦とされている猫又とは違ってね、あるお寺に大切にされていた猫がいてね、大層そこの和尚が可愛がったそうなの。でも和尚が亡くなってしまってね。跡を継ぐものも少なくて次第に大切にされなくなったみたいなんだ、お寺も猫も。』
『そのお寺ってどこなんですか?』
『昔の話だからわからないわよー実際にあったのかもわからない。それでね、そこのお寺の茂みで猫は亡くなったそうなんだけど、ある日からお寺にその猫が化けて出るようになったんだって。そこに勤めてる者が次々と怪我をしたり、病に侵されたそうよ〜、亡くなった方は居ないようなんだけどそこから猫を大切にしなければとなって、その教えをこの街の人たちに伝えたそうなの。そこから猫を地域猫化よね、おそらく。そうしてみんなで育ててみんなで可愛がっていたら、どんどん増えてね〜
一軒の庭に猫百匹。と迄で言われたそうよ。』
『愛されてるんですね。確かにこの街の猫は驚くほど人懐っこいイメージです。』
『だからなのか、みんなゴミも外に捨てたりしないし庭を手入れしている人が多い気がするわ〜』
金子さんは、話すのが上手いと思った。ライターの私が聞き入ってしまうほどだ。
『じゃあ、次の超音波についてですがそれはご存知でしょうか?』
『そんなの初めて聞いたわよ。そもそもそんなものがあるの?ごめんなさいね生まれてこの方この辺りにずっといるもんだから、全くもってわからないけれど、家賃は築年数じゃないかしら?事故物件でもないのよ。なんなら前の住人さんは隣町のデイケアサービスにいらして、今も元気らしいわよ!』
『そうだったんですね、その頃そんな話聞かなかったですか?』
『ええ、全くなかったわよ。猫が好きなおばあちゃんだったわね〜旦那さんは早くに他界したそうで、私も知らないのよ〜』
『そうですか、問題はないってことですね。』
『ええ、ここは至って平和な田舎よ。』
マスターが話す間も無く金子さんが全部教えてくれた。
『最後にですけれど、そんな話を聞いてからこんなこと聞くの申し訳ないのですが、この辺りに変な人っていうか、、、癖者っていうか、、そんな方は、、』
『一人いるのよね、、ねぇ?』
『ああ、そうね、、、』
井戸端マダムたちが口を揃えて言った注意人物がいた。
『花岡さんね、、気がおかしくなってしまったのか心の病なのか、、すごく神経質な方でね、市の集まりにも参加しないし、回覧板は遅いし、外に出たかと思って挨拶しても挨拶してくれないのよ〜まぁ害はないのだけれどねぇ、、、』
『ねぇ〜、、、』口を揃える井戸端マダム
『その花岡さん、ご紹介ってしていただけたり、、、』私が恐る恐る聞いてみる。
『いいけれど、多分無理よ?』
金子さんは嫌々聞いてくれた。
私は明日、花岡さんに会いに行こうと思った。
このカステラを用意して。
(続)