町工場の事業承継──株式会社タシロの代表になるまで
2023年9月20日 私は31歳の誕生日を迎えると共に家業の株式会社タシロの代表取締役に就任しました。 自身が代表を務める新体制では「共創」を軸にコラボレーションを歓迎する文化を醸成したいと考えています。
さて、本記事から3回に分け、代表交代に至るまで、新体制で目指すもの・経営方針、その考えに至った理由についてお伝えしていきたいと思います。
入社から代表交代まで
まずは簡単な自己紹介から。
私は今からちょうど5年前の2019年1月に家業の株式会社タシロに入社しました。大学を卒業後は人材紹介業に新卒入社し、並行して多国籍なメンバーと世界各国でボランティア活動を企画・運営・斡旋するNGOの理事を務めていました。家業は精密板金加工業であり、全くの異業種でした。
課題も強みも「人」
業界のことは全く分からなかったのですが、毎日顔を合わせるうちに、家族や父を支えてくれた社員、関係者がより豊かになってほしいという想いが芽生えてきました。業界経験のない自分がこれからどんな力をつければよいか分からなかったため、長年勤務する管理職に課題は何か、困っていることは何かを聞く、というところからはじめました。
そのヒアリングの結果、多くの人が課題を抱えている内容はズバリ「人」でした。
離職者も多く、社内人員の配置転換も行き詰っている。日本人の採用も難しく、毎年3名ずつ技能実習生を採用して何とか人員補填できている状態で、非常に逼迫している状況であることがわかりました。
また次にとりかかったのは、「自社の強みは何か」ということを知ることです。これは取引先の企業様にも聞いて回りました。
嬉しいことに「人を含めた品質」と言っていただけました。
窓口になっている人の柔軟な対応力(応対の愛想も含め)、他社では2~3週間かかるものを当社では1週間以内に納品できる短納期対応力が自社の強みです。
スピーディに受注から納品まで対応し、且つ快いコミュニケーションができることがお客様から見た当社の強みであり、それは「人」が土台となっているとのことでした。
上記のヒアリングからわかったこと。それは自社の抱えている課題も、そして強みも共通する「人」ということでした。
入社後の私のミッションは、この課題も強みも「人」というすこしねじれたこの状況を解消するべきだと考えました。
課題解決のために「採用強化」に取り組み、そして強みを伸ばすために社員の「教育研修」に力をいれることにしました。
ミッションは最短で採用ブランディングすること
元々人材業界にいたため、求人票の作成には慣れていました。
しかし、小手先のテクニックで応募者が急激に増えるということはありません。
戦略を立てて、自社のブランディングを改めてしていく必要がありました。
以下、取り組んだことの一例です。
・ビジョン、ミッション、バリューの策定、キャッチコピーの策定
・組織体制の変更(責任者を細分化しリーダー職を増員、役割の明確化)
・就業規則の見直し、社員の理解度の増進(完全土日休み、半日休暇制度、時短正社員制度、表彰制度、資格手当制度の導入 等)
・人事評価制度の導入(どう頑張れば評価されるのか明確化し、評価表はクラウドに保管、そして誰でも閲覧可能に変更)
・教育体制(週に1度の勉強会)、メンター制度、中途・新人研修、目標管理(図面の理解、ビジネスマナー研修、SDGs等時事について、社員同士の理解を深めるため自己紹介や褒め合いを行ったり勉強会の内容は多種)
・認証、表彰の受賞可能性の最大化(可能な限り申請する)
・社会貢献を見える化する
・自社製品の企画・製造・販売事業の開始
・展示会、物販イベントに積極参加(年10回以上)
・採用PR動画作成
このようなことを2~3年かけて行ってきた中で、採用ブランディングを加速させることのできた、ある出来事がありました。
2022年2月 ギフトショーグランプリ受賞
初出展ながら、日本で最大規模の商品の展示会 ギフトショー
(第93回東京インターナショナル・ギフト・ショー春2022「 LIFE×DESIGNアワード」)において、自社製品のキャンプギア「3WAYピザ窯」が国内外2172社の中からグランプリ(最高賞)を受賞することができました。
その効果は採用活動では非常に大きく、「ギフトショーで入賞するのが夢だ」と言って応募をしてくれる人も現れました。
※3WAYピザ窯の開発からグランプリ受賞についてのストーリーはこちらをご覧ください
大卒新卒の方も2週間で10名もの方が応募してくださり、内定者を出すことができました。
内定者時代から「自分のアイディアで商品化したい」と言って開発をした社員もいます。
※詳細はぜひ下記の記事をご覧ください
毎年表彰される会社になった
自身が入社した2019年から最短で「採用できる会社」にするため認証、表彰を受けたいと思い、可能な限り申請を行ってきました。
落選してしまったものの方が圧倒的に多いですが、おかげさまで毎年表彰や認証を受けられるようになりました。
2019年 神奈川がんばる企業エース 認定
2020年 かながわSDGsパートナー登録
2021年 かながわ健康優良企業 認定
2022年 ギフト・ショー春「LIFE×DESIGN」アワード グランプリ受賞
平塚市みんなのまちづくり事例年間大賞受賞
2023年 中小企業ミライ絵日記アワード 入選(全国10作品)
年間応募者200名以上に
このような地道な取り組みに加えて、ギフトショーのような大きな表彰もいただいた結果、2019年の入社時には年間応募者10名ほどに対して、2022年は120名以上、2023年は200名以上の応募をいただくようになりました。
代表交代の経緯
契機となった展示会出展
自社製品を製作するようになって、毎月のように展示会・物販イベントに出展(店)するようになった株式会社タシロ。
基本的には私一人でブース対応をしてきましたが、当時社長で現会長である父も一緒にブース対応をした県内の展示会が2023年2月頭にありました。
そこで、私と同じように家業持ちの知り合いが次々にブースを訪れて私と話す姿を見た父は「このタイミングで事業承継をしよう」と思ったそうです。
実際に2023年、2024年に事業承継をする家業持ち仲間はとても多く、肌感覚でも次世代への転換期を感じたのかもしれません。
次の日の朝礼で社内に伝達し、事業承継が決まりました。
「いつ事業承継してもよい」という話は入社して1~2年してから出ていたものの、具体的にどのタイミングでという話は明確に行っていませんでした。
入社して以来経営の実務の多くは私が担っていたこともあり、3代目としての覚悟はできていました。
父は代表権のない会長就任後も注力できることをやってくれるということで、安心し事業承継ができました。
では、実際に世代交代をして何から着手したのか。
すこし上記でもお話しましたが、まず力をいれたのはビジョン・ミッション・バリューになります。
次回は、このビジョン・ミッション・バリューの策定にあたり何から着手したのか。そして策定によって何が変わったのか。詳しくご紹介していければと思います!