男も怖いけど、やっぱり女の方が怖いのかもしれない
夏頃から会社のおじさんに「お前、面白くなくなった」と言われるようになった。
別に前から「自分は面白い人間だ!」という自覚はなかったのだが、関西人として「面白くなくなった」というのは聞き捨てならない。私はお盆前くらいの時期にコロナに罹っていたので、2人で「この面白くなさは、もしかしたらコロナの後遺症なのかもしれない」と冗談で言っていたりもしたのだが、我ながら、最近自分のことを面白くなくなったなぁと思うようになった。こちらとしては今までと同じように話をしているつもりなのだが、確かに話を聞いてくれている人のウケは悪くなっている気がする。
私は素直になり、「自分が面白くなくなった」という事実を認めることにした。確かに私は面白くなくなってきている。
認めたはいいものの、なぜこうなってしまったのかという根本的な原因がわからない。コロナの後遺症は冗談として、なぜ今までと同じテンションで喋っていてもウケが悪くなってしまっているのか。関西人にとって「面白くない」と言われる、もしくは思われ続けることは、死活問題なのである。
ということを友人に相談した。
そもそも「面白くなくなった」なんて失礼な話だ! と憤慨してくれたのだが、確かに前よりは切れ味が悪くなってきている気がするとも言う。
そして友人が導き出した結論が「最近、異性と関わってないからじゃない?」であった。
確かに、私は約1年前に良い感じになっていた男性と自然消滅的に連絡を取らなくなってから、まったく出会いの場にも行かなくなっていた。元彼との再会を除き、家族と会社関係の人以外、すなわち恋愛対象外の異性と関わっていないし、出会おうともしていなかった。
友人曰く、私の面白いところの1つとして、恋愛が上手くいかないキャラがあるらしい。第一印象は良いからデートやご飯までは漕ぎつけられるのに、なぜかその先が上手くいかない。その失敗談がおもしろ要素の1つだったはずなのに、最近はそもそも出会ってもいないからそれが欠けてしまっているのでは? という解釈であった。
私としてはネタにしようと思って作ったキャラではないので反発したいところは少々あるが、上手く恋愛に発展させられないというのは紛れもない事実である。そして、最近は出会いを求めることにも疲れてしまい、彼氏が欲しいとか結婚願望がありつつも、まったく行動していなかったことも事実である。
よし、そうとなれば、面白さが回復するかどうかはわからないけど、久しぶりに出会いを求めに行ってみよう。
そしてその友人が付いてきてくれることになり、久しぶりに小規模な街コンのようなものに参加した。
婚活パーティーのように、異性と1人ずつ話すスタイルで、年齢は28~40歳くらいまでだった。基本的には楽しく話せた人が多かったのだが、こういう場に参加するのが久しぶりだったということもあり、我ながらぎこちなさを感じた。
3人目の男性と話した時だった。
事前に用意していたプロフィールをお互いに見せ合い、そこから話を広げるという、よくある街コンの形だ。その男性の苗字に使われていた漢字が珍しかったので、それについて触れた。と言っても「珍しい漢字なんですね~(ニコニコ)」という、面白くも何もない、当たり障りのない触れ方だ。
それに対して「うん、まぁね。そっちは普通やね」と返されたのである。
確かに私の苗字は「川端」と書いて「かわばた」と読む。至って普通の苗字である。鈴木さんや佐藤さんには劣るけれども、日本国内で珍しい苗字ではない。何の縁もないが、ノーベル文学賞を受賞した文豪・川端康成と同じ苗字で漢字も同じである。割と日本では馴染みのある苗字の1つだと思っている。異論はない。確かに「川端」は普通である。
ただ、このような出会いの場で相手に発する一言目に相応しくないのは、恋愛下手な私にでも、さすがにわかる。そして、これがもし私が大好きな向井理や東方神起チャンミンのような理想のイケメンに言われたのなら捉え方は違ったのかもしれない。この2人じゃなくとも、山﨑賢人や福士蒼汰みたいなイケメンに言われたり、私的弟にしたいナンバーワンの、なにわ男子・大橋くんみたいな子だったら、世間でよく言われる「※ただしイケメンに限る」が通用し、私も普通に受け流せたかもしれない。逆にムロツヨシみたいな人に「川端って普通な苗字だな~!」とか言われたら「いや、『ムロ』はメジャーでもマイナーでもなさすぎてそっちは微妙だな~!」とか返せたのかもしれない(読んでいる人にムロさんがいたらごめんなさい。全国のムロさんに対してまったく悪意はないし、他意もないです)。
しかし、奴はそのいずれにも当てはまらなかった。
イケメンでもないくせに(おい)、そこからもやたらと上から目線であった。自分の趣味は棚に上げて、私のプロフィールをやたらと「普通」とあざ笑いながら見下してきた。いや、確かに普通だけども、お前も大した趣味じゃないからな? 1人キャンプとか、今流行ってるからな? 「すごいですね~!」とか営業スマイルで相槌打ってやってるけど、別にすごくないからな? それこそ「普通」やからな???????
私は自分のこめかみがピクピクとするのを感じながら、さっきまでと同じはずの制限時間10分を非常に長く感じながら、一刻も早くその10分が過ぎ去るのを待っていた。こういう時の体感時間の長さ、えげつない。
そして10分が過ぎ去ろうとするタイミングで、珍しい苗字の上から目線野郎が言ってきた。
「俺、この街コンで喋った人の中で、何番目に良い?」
いや……、お前、この10分のどこに手応え感じてん!?!?!?
無論、脳内議論の必要もなく、最下位である。
奴がどこをどう捉えて自分が上位に位置付けられているのではないかと期待したのかは本当に謎であるが、問答無用で最下位である。残り数人、話をする異性は残っているが、それを待たずしても、お前は最下位だ。
「まだ3人しかお話していないので、トップ3には入ってますよ(ニコニコ)」と、上手いのかどうかわからない逃げ方をして、そいつとの悪夢の10分は終了した。そしてその後も残り数人と1対1で話をし、特にその後に繋がる出会いはなかったが、やはり苗字の漢字が珍しいことだけが取り柄の奴が、最下位なのに変わりはなかった。そしてこうして無事、記事にできるほどのネタも収穫できてしまった。やはり、私が面白く居続けるには、定期的に異性との出会いの場に出向き、本望ではないが、このようにネタを収集し続けないといけないのかもしれない。
その後、同じ街コンに参加していた同性(女性たち)と話す機会があった。
あの人どうだった? とか、良い人いた? とかそういう内容だったのだが、私は隣にいた女性に、苗字だけ男に「俺って何番目?」と聞かれた話をした。魚と同じくネタも鮮度が大事だと思った私は、そのネタが女性にウケるかどうか試してみたくなったというのもあるし、苗字だけ男に対して抱いたモヤモヤやイラっとした気持ちを誰かに共有したかったというのもある。
「えー、きもい~!」とかそういう反応が返ってくると思っていたのだが、女性の反応は違っていた。「え、私、そんなん聞かれてない」だった。
私は「え」と言うしかなかった。
そこから事の経緯を話し、少し気まずくなった私はトイレに席を立った。
戻ってくると、少し離れたところに座っていた友人を含め、女性陣全員にその話は伝わっていた。そして他の女性陣にも言われたのが「私もそんなん聞かれてない」だった。女の情報共有、コロナの感染スピードよりはるかに早い。
帰り道、友人に改めて事の経緯を話し、女って怖いという話をした。
友人なので、苗字だけ男の話は笑いながら聞いてくれ、私の想像通りの「きもっ」という反応をしてくれた。そして女性陣に関しては「まぁ、出会いの場に来てるからさ、他の人の方が好感触そうだったら敏感にはなるかもね……」と冷静に分析してくれた。
なるほど……そういう考え方もあるのか……。
私としては決して自慢をしているつもりはなかったのだが(だってめちゃくちゃ見下されていたから)、もしかしたら女性陣の中には苗字だけ男を良いなと思っていた人もいたかもしれないし(いや、それはないか)、そう考えると得体のしれない人、今回であれば特に女性に対してはひけらかすネタではなかったかもしれない。ネタも仕入れたが、女性の怖さ(?)も改めて感じた街コンであった。
ちなみに、本件は会社で私を「面白くなくなった」と言っているおじさんにも報告した。割とウケたので、面白さのリハビリとしては良いものになっていたのだと思う。
また出会いを求めがてら、面白さのリハビリに励んでいかなければと思うのだった。