ひとり旅 in 金沢 〜day1〜
はじまり
金沢への旅は、出発の前日に寄った古本屋からはじまっていた。
9月の3連休でひとり旅をしようと決めた2022年初夏。
28年間生きてきて、ひとりで旅をした経験がないことが、なんだかもったいない気がして。
美術館や兼六園など視覚的に楽しめる観光地が多いこと、
ご飯が美味しいで有名なことから、
行き先は金沢にした。
旅のエッセイを書くときは、
ディテールを書きすぎず、なにかひとつ大きな事件を取り上げるのがコツ、
と尊敬するひきた よしあき先生の講座で学んだ。
その講座内容を大いに無視して、
思い出の手触りを忘れたくない一心で、
旅の記録を綴りたいと思う。
ひきた先生、学ぶ姿勢は人一倍あります。
9月23日、5:00のアラームより20分も早く目が覚めた。
こんなこと、年に数回あるかないかだろう。
外はあいにくの雨だった。
8時の新幹線に乗る前に、
東京駅のTHE STANDARD BAKERS TOKYOで朝食用のパンを買う。
新幹線に乗るのは何年ぶりかな、
たどれない記憶は、ウイルスが猛威を振るっている年数と比例する。
窓側の指定席に座り、
出発してすぐに明太子フォカッチャとクリームパンを頬張った。
グルメな後輩がおすすめしてくれたお店のパン、
美味しくないわけなんてない。
益田ミリの小説『一度だけ』を選んだのは、
たまたま手にした小説の、たまたま開いたページに、
金沢について書いてあったからである。
読んでみたい作者だったし、金沢について書いてあるし、
新幹線のお供にぴったりだと、古本屋でひとり運命を感じてしまった。
『まだ見ぬ自分に出会うための物語』というコピーどおり、いまの自分にぴったりの本。
つい夢中になり、あっという間に読み終えてしまった。
空腹との戦い
3時間後に金沢へ降り立つと、
いよいよマスクの下では表情筋が管理できなくなる。
着いたらまずは海鮮と決めていたので、
おすすめしてもらった、もりもり寿し 金沢駅前店へ直行。
11時開店で10分後に整理券を取ったにも関わらず、77番という数字に驚愕する。
待ちたい、待つ時間がもったいない、でもお腹はぐうぐう鳴っているという葛藤をしばらくし、諦めてホテルへ荷物を預けに行く。
今回宿泊したホテルは、ホテル・トリフィート金沢さん。
ホテルについては別で記事を書くので、詳細はまた。
気を取り直して、海鮮といえばやっぱり近江町市場!ということで、早速金沢周遊バスで向かう。
お昼どきということもあり、どこも大行列、大賑わい。
楽しさで空腹なんて忘れちゃいそうっ☆
なんてことはなく、急いで入れるところはないかきょろきょろ。
「魚屋さんのお寿司だよー!すぐに食べられるよー!」
ひときわ際立って聞こえる威勢のいい男性の声。
イートインができるお土産屋さんでお寿司が販売されていた。
空腹×時間がない女にはもってこいではないか、
ということで大トロ5貫をお買い上げ。
金沢初の食事が大トロって、贅沢すぎる。
そして美味しすぎる。
5貫をぺろりと平げ、21世紀美術館に向かうためバス停を探す。
しかし自他共に認める方向音痴のため、出口が全然わからない。
市場では海鮮以外にもジューシーな果物が並んでおり、
出口を探したいのか、食べたい果物を探しているのか、目的を見失う。
結局あきづきを買った青果店の心優しい少年にバス停を教えてもらった。
2つの目的を果たさせてくれてありがとう。
必殺技 〜封印編〜
近江町市場から美術館までのバスがわからない。
時刻表前には人だかりができていて、前に行くこともできない。
こうなったら、『周りの観光客の会話をしれっと盗み聞き作戦』に出るしかない。
ひとりとはいえ旅行中はイヤホンをしないため、全神経を鼓膜に集中させる。
「美術館行きって書いてあるから緑色のバス?」
「適当に乗ったら辿り着きそうだけど(笑)」
「んーたぶんもうすぐ来るよ!」
えぇい!正解が見当たらない!
乗るバスわかってますよ風な顔をしながら内心少し動揺していると、
バスが3台立て続けに到着。
『21世紀美術館行き』
堂々と書いてあるじゃん、そりゃそうだよね。
観光地なのに書いてないわけないんだもん。
必殺にすらできなかった技を封印し、颯爽とバスへ乗り込んだ。
うさぎに翻弄される
旅の一番の目的であった、21世紀美術館に到着。
雨足が強くなっていたが、たくさんの人が来場していた。
チケット購入前に検温していると
「いま受付すごい混んでるから!向こうにうさぎがいるから先にそっち楽しんで!」
と半強制的に、そして“うさぎがいる”という美術館で聞き慣れない言葉に疑問を持ちながら、例のうさぎの元へ。
「た・・たしかにうさぎだ!」
人気の映えスポットなど下調べをしていなかったため、こんな空間があるなんて知らなかった!
※写真は可愛いギャルが連写してくれた中の1枚です。
※みんながしていたカメラに向かってうさぎポーズはさすがにできませんでした。
うさぎを堪能し受付に戻ると、先ほどより列が長くなっていた。
「うさぎ挟まなくてもよかったんじゃ・・?」なんて思ったら負け。
案内人のおじさまは正しかったのよ、と言い聞かせようやくチケットを購入。
先進的で、困惑させる複雑性があり、考える美しさを与えてくれる作品の数々。
作品を活かすための館内の余白、雨に濡れてより神秘的に見える館外の草木。
すべてがここだけにしかない空間で、インスピレーションを受けた。
もちろん、うさぎからも。
必殺技 〜披露編〜
お次は21世紀美術館の向かいにある兼六園へ足を運んだ。
非日常を味わえる趣が入り口から味わえる。
周りにひとがいなかったから、一瞬だけマスクを外して、
雨と土が交じり合うペトリコールの匂いを肺から大きく吸い込んだ。
園内を歩いていると、
ツアーコンダクターらしき男性が向かってくる。
「え〜こちらの噴水は高さ3.5mほど水があがり、日本最古のものとなります」
・・兼六園の情報を入手できる?!必殺技を使用するチャンス到来?!
さすがに観光列の後ろにつくことはできなかったため、
『一定のほどよい距離感を取りつつ歩く速度を合わせ別で行動している観光客』を見事に演じ切った。
おめでとう。
自然と一体になれたし、
食べられるけど食べない方がいい木の実があったことも知れたし、
必殺技が披露できて良かった。
情報はたった2つしか手に入れられなかったけれど。
おひとり様の免疫
15時前、兼六園近くのル ミュゼ ドゥ アッシュさんへ向かう。
先輩が猛烈におすすめしてくれた百名店で、時間を作ってでも絶対に行きたかった。
受付用紙に【名前】【1名】とはっきり記入し、
30分ほど待ったのちスキップする気持ちを抑えながらショーケースへ。
ケーキを選ぶ瞬間の高揚感を、うきうき以外で表現したい。
迷いに迷い、
抹茶のオペラといちじくのタルトをチョイス。
店員さんが「お連れさまもご一緒に伺います」と横のお客さんに聞いてくれた。
「あ、別です・・(か細い声で)」と言うと、走って受付表を確認しに行った店員さん。
「失礼しました!!お先にお会計へどうぞ!!」
はっきり記入した受付用紙が虚しさを増す。
いよいよ登場したキラキラな幸せちゃんたち。
ひとりで2個?みたいな視線を隣からひしひしと感じたが、
もうそんなこと気にしていられない。
だってこんなにも幸せな瞬間を自分だけのものにできるんだから。
しっとり味わいつつも10分でたいらげ次の目的地へ。
相変わらず時間はないのだ。
傘袋紛失大事件
ひがし茶屋街に向かう間、また迷子になった。
駐車場のおじさまに、向こう側のバス停から行けると言われた場所にバス停がなかったからである。
それでも道は続いているので、歩くしかない。
ようやくバス停が見つかったが、やっぱりどのバスに乗っていいかわからなかったので、
近くのお店のお姉さんに助けてもらった。
地元のひとの優しさのおかげでようやく乗車、ひがし茶屋街に無事到着。
風情ある茶屋町に、着物を着た観光客。
旅に来ているということを明確にする瞬間だった。
雨もあがり、散策にはちょうどいい気候になったのも嬉しい。
街をふわふわ歩いていると、折り畳み傘の袋がないことに気付く。
正直、失くしたものは仕方ないよね〜くらいのテンションだったが、
ひきた先生が旅先の大事件を書くといい、と教えてくれたので、小見出しに付けてみた。
なんとも引きの弱いタイトルである。
最後まで食べ盛る
おでん、天ぷら、鉄板焼き。
金沢に来る前にたくさんおすすめしてもらったが、
食べログTOP5000に入っている333(SASAMI)さんで夕食をいただくことに。
カウンター席にカップルが並ぶ中、
ど真ん中の席を用意してくださっていた。
大丈夫、もうおひとり様免疫ついてきてるから。
どれも本当に美味しかったけれど、
やっぱりご飯は、誰かと共有した方が美味しいね。
もっといろいろな種類を食べられるし。
それにしても最高の夜を、ありがとうございました。
ごちそうさまでした。
さて、ホテルに帰ってゆっくり温泉に入り、金澤プリンときんつばをお夜食でいただいた。
お夜食というと上品だし、少量しか食べていない気にもなる。
そんなことなくともそういうことにしておいてほしい。
寝る直前までたらふく食べて、金沢旅行、無事1日目が終了。
6:00にアラームをかけ、とろけるように眠りについた。
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