#4 岐阜市の住環境と観光政策のこれから
はじめに
『J NOTE』第4回は、岐阜県岐阜市を取り上げます。来月6日に開催される「ぎふ信長まつり」に木村拓哉さんが来場されるということで、現在特に注目を集めている街の1つです。
岐阜市には約39万人が住んでおり、岐阜県の県庁所在地として多くの公共機関が集まっています。また、日本のほぼ中心に位置していることから、岐阜羽島インターに近い柳津地区を中心に多数の物流拠点が置かれています。
そして、市の南北には長良川が流れており、「鵜飼」や「長良川花火大会」は、岐阜の夏の風物詩として岐阜市民をはじめ東海地方の人々に広く親しまれています。
一方で、岐阜市は「何もない」ということもよく言われがちです。岐阜市内にショッピング施設や観光施設が全くないというわけではありませんが、「岐阜市にしかないもの」が少ないという印象が一般的に強いものと思われます。
また岐阜市の人口についても、昭和末期から緩やかに減少傾向となっています。これは少子高齢化による死亡者数の増加や、首都圏に人口が流出していることが大きな理由として考えられるものの、名古屋のベッドタウンとして名古屋市南東部や西三河地方のほうが岐阜よりも人気であることが、岐阜市の人口減少に対して少なからず影響しているものとみられます。
そこで今回は、岐阜市の住環境と産業、観光について詳しく見ていきたいと思います。
岐阜市の住環境と産業
まずは岐阜市の住環境と産業について見ていきます。
岐阜市は県庁所在地ではあるものの、名古屋駅まで電車で30分かからないという好立地から、かねてから「名古屋のベッドタウン」としての機能を持ち合わせています。
上のリンクは、岐阜市が2018年に市民に対して行った意識調査です。そのなかで、『あなたが、岐阜市に住んでいて「良い」と感じることは何ですか』という問いに対して、17項目中の5位に「名古屋へのアクセス」がランクインしています。
このように、岐阜市民も名古屋に行きやすい立地環境について「岐阜市の良い点」の1つであると高く評価しています。また1位や2位にランクインしているように、生活環境や自然環境にも恵まれていることから、岐阜市は理想的なベッドタウンとして市民から評価されているものと考えられます。
では、岐阜市のベッドタウンとして優れていない点はどこにあるのでしょうか。
まず先ほどの意識調査で行われた、『あなたが、岐阜市に住んでいて「住みにくい」と感じることは何ですか』という問いに対しての回答は以下のようになっています。
注目すべき点は、2位の就業の場が少ないという点です。アンケートから岐阜市は県庁所在地であるにも関わらず、市内に就業の場が少ないと感じている市民が多いことが分かります。
また、岐阜市は市町村内総生産額が県内1位であるものの、製造業の生産額は県内6位に留まっています。そのため、電子機器や化学製品の生産が盛んな大垣市(県内2位)、航空産業やロボット産業が盛んな各務原市(県内1位)などと比べると、岐阜市には基幹産業に挙げられるものがないというのが実情であるといえます。
以上のことから、岐阜市は確かに住むにはちょうどいい環境であるものの、働くには決して良い環境とはいえないというのが現状であるといえます。このことが、岐阜市から名古屋市内まで通勤する人が多く、また仕事を求めて他地域に人口が流出することに繋がっているものと考えられます。
そのため、岐阜市が今後住みやすい街を目指すにあたって、産業振興が重要なカギを握る政策になるものといえます。
岐阜市の観光
次に岐阜市の観光について取り上げます。
岐阜市には鵜飼や岐阜城などの観光資源がありますが、観光のイメージは一般的にそれほど強くないのではないかと私は考えています。
岐阜県内には高山や下呂温泉、郡上や白川郷など全国的にも有名な観光地が数多くありますが、その多くは北濃や飛騨地方の山間部に集中しています。
中濃や西濃地区の平野部にも観光地が点在していますが、岐阜かかみがはら航空宇宙博物館やアクア・トトぎふ(ともに各務原市)、千代保稲荷(海津市)など東海地方では知名度が高いものの、全国的にはあまり知られていない観光地が多いのではないかと思われます。
そのため、全国から岐阜市周辺を観光目的に訪れる人は少ないものと考えられます。しかし、岐阜市が今から観光都市を目指して街おこしをするのには無理があります。観光都市として街を整備するには莫大なお金が必要ですし、仮に巨額を投じて観光都市へと変貌したとしても、高山や下呂などには勝てません。
では、岐阜市に観光客が来るにはどうすれば良いのでしょうか。
私は観光客のターゲットを、思いきって「東海地方在住の人」に絞ってしまうことです。全国各地に住んでいる人よりも容易に岐阜市を来訪することができますし、頻繁に街を訪れるリピーターのようになる可能性が高いと思われます。
具体的な観光需要を生み出す政策として、音楽ライブの開催誘致による地元客の取り込みを例に挙げます。
現在名古屋では「音楽ホールの不足」が深刻な問題となっています。名古屋市内のホールは、老朽化による閉館や休館が近年相次いでおり、ライブや大規模イベントを開催するための場所が確保しにくくなっています。そのため、全国ツアーで名古屋公演が開催できなかったり、規模を縮小して近隣市町村のホールで開催する事例も多数出てきています。
そのため現在、名古屋からもアクセスの良い岐阜でライブを行うアーティストも徐々に増えつつあります。
そこで、行政とプロモーターとが協力して、積極的にライブの誘致を行うことも有力な観光政策の1つであると考えます。岐阜市内の公共交通機関の輸送力不足や交通渋滞などが懸案事項なるかと思いますが、ライブ開催による経済効果や観光客の取り込みは、岐阜経済に大きく貢献するものと思われます。
このように、地元に住む人達をターゲットにして観光客を増やす政策を行うことは、岐阜市がこれから行う観光政策として、とても有効なのではないかと私は考えます。
おわりに
ここまで、岐阜市の住環境と産業、および観光について見てきました。
岐阜市は住みやすい環境であるものの、地場産業や基幹産業については、周りの市の方が好調であることが分かりました。そのことがが、「名古屋のベッドタウン」という印象に繋がってしまっているものと推測されます。
岐阜市にしかないものをこれから作り上げるのは難しいですが、産業面・観光面ともに人を呼び込む余地はまだまだあることを今回調べて知ることができました。
関連文献
岐阜市に関する観光の論文は少なかったため、中濃西濃地域の観光について扱った論文を紹介します。
浅野弘光、吉水淑雄、山中マーガレット「観光における基礎理論と実習の融合による町づくりー笠松町の町づくりー」『岐阜女子大学紀要』第40号(岐阜女子大学、2011年)
林琢也「岐阜市長良地区にみるアグリ・ツーリズムの成立要件」『日本地理学会発表要旨集』(日本地理学会、2016年)
箕浦之治、岸本舞「インバウンドによる地域活性化による研究 ー岐阜県大垣市及び西美濃地域の観光振興を事例としてー」『地域経済』第31号(岐阜経済大学地域経済研究所、2018年)
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