墓前のシルバニアちゃん

欠かさずつけてる秘密のダイアリー

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記事一覧

あおい

祖母の家を出たとき、月がぼうっと光っていて(というより当たり前にそこにあるというような在り方)、風は冷たく、隣の家の柿は立派で、すっかり夜だった。それは存外よい夜…

魚影

スイスイ泳いでる魚も、ゆらゆらピカピカしている水面も、いまはすべてを裏側から見ることしか出来ない。ただただ、沈んでゆく。背中で、どんどん濃くなっていく海の青を感…

8月30日 本日クリスマス

綺麗とはいえないキッチンに、年季の入った脚立を椅子にして、刺身と酒瓶を目の前に広げる。 お酒を飲んで、酔っ払ったら、いつもより世界が早くまわって、目も回る。仕舞…

堕ちた先に、孤独は

わたしは、暗闇の中を上に、下に、横に、ものすごい速さで堕ちていた。わたしは堕ちながら、夢であることに気が付いて、落胆した。落胆している間も、わたしはすごい速さで…

うたた寝

小田急線内、現実と夢を行き来する人が居る。ゆっくりと開いてゆく口には唾液の膜。それが完全に虹色になったとき、すべてを思い出したみたいに割れた。さっきまで、虹色に…

窓辺にて

わたしは自室にいるとき、ほとんどの時間を窓辺で過ごす。濃紺の夜も、赤黒い夜も、決まって朝の白んだ光に食べられてゆく。わたしは、それをただ見守る。 夜が朝に食べ尽…

追焚き2回

シャワーがしゅうしゅうと音を立てて、わたしのだらしない腹にあたる。鏡に全裸のわたしが写っている。しばらくすると鏡が曇って、わたしは私を見失う。最近、自分は誰なの…

1番好きな曲を教えて

夢の中で「サカナクション好きなんだ、僕も好き」って言われた。わたしとその子は、しばらく笑いあってた。顔はどんなだった?声は?名前はなんて言うの?どんな服を着てた…

死なないもん

小さい頃から、絵を描くのが好きだった。絵を描けば、お母さんやお父さんに褒めてもらえるから。 お兄ちゃんが反抗期になったとき、お父さんはずっと怒鳴ってた。お姉ちゃ…

バナナフィッシュ

夢のなかで、あの子が死んでしまった。わたしは過呼吸になりながら布団を剥いで、垂れたヨダレを拭いもせずに、スマホで彼女の安否を確認した。夢だとわかっていたけれど、…

各駅停車、地獄ゆき

「おやすみ」という声を思い出した。それは、当時付き合っていた人のお父さんの声だった。 当時の恋人は、わたしを家族に会わせたがった。恋人の家族も、わたしのことをい…

全てあい色にかえる

今日、一時間ほど海を見続けた。見続けたら、海がこんなにも広いことをはじめて知った。 こんなにも海が広いということを、あいつはきっと知らないだろうと思ってすこしう…

エンドロール

ぐっすり眠れなくなったのは、いつからだろう。夜がさみしくてたまらなくなったのは、いつからだろう。どうせ眠れないから、どうしようもないことをたくさん考えよう。この…

海岸線を飛ばす、死に向かって。

おばあちゃん家は、海岸線をずっと行ったところにある。梅の木があって、鼻の潰れた猫がいて、いつも美味しいご飯が出てくるところ。 おばあちゃんは、ここのところ具合が…

さらさら黒髪、逃避行

空が泣いている。静かに誰にも見つからないように、涙を流している。 カラオケボックス。歌うのを放棄されたあのガールズバンドの曲は、すこし気まずそう。 大好きな女の…

燦々

明け方、散歩に出た。いつまでも続くと思っていたさみしい夜は、呆気なく朝のまっさらな光に食べられて消えていく。消えかかる月に「またね」と言って、歩き出す。 雨が降…

あおい

あおい

祖母の家を出たとき、月がぼうっと光っていて(というより当たり前にそこにあるというような在り方)、風は冷たく、隣の家の柿は立派で、すっかり夜だった。それは存外よい夜で、車に乗ったら本の続きを読もうと思った。
海岸線に出たあたりで、鞄を探り、手が本に触れた瞬間「こうも暗いと本は読めないな」ということに気が付いた。そして、同時に「わたしは、本当に1人では何も出来ないんだな、わたしのからだは本当に頼りない

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魚影

魚影

スイスイ泳いでる魚も、ゆらゆらピカピカしている水面も、いまはすべてを裏側から見ることしか出来ない。ただただ、沈んでゆく。背中で、どんどん濃くなっていく海の青を感じている。ぐんぐん沈んで、どんどん苦しくなって、次第に海とカラダの境目がわからなくなって、なくなる。魚も水面も小さくなってゆく。
あの水面を、見失わないようにわたしはなるべく静かに沈んでいく。沈んでいくわたしに気がつく魚はいない。
あの水面

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8月30日 本日クリスマス

8月30日 本日クリスマス

綺麗とはいえないキッチンに、年季の入った脚立を椅子にして、刺身と酒瓶を目の前に広げる。
お酒を飲んで、酔っ払ったら、いつもより世界が早くまわって、目も回る。仕舞っておいた記憶が、ぐるぐるまわる。

彼のお家にあった、すこし高級な、瓶に入ったお醤油とか、桜貝を閉じ込めたみたいなちいさな岩塩のこととかを思い出した。わたしの知らない生活の豊かさが、いつもそこにはあって、いつもそこは暖かかった。

換気扇

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堕ちた先に、孤独は

堕ちた先に、孤独は

わたしは、暗闇の中を上に、下に、横に、ものすごい速さで堕ちていた。わたしは堕ちながら、夢であることに気が付いて、落胆した。落胆している間も、わたしはすごい速さで堕ちていた。
どうせ夢ならジェットコースターに乗ろう、と思った。暗闇はすぐに真っ白い光になって、すぐに真っ白い鉄骨になった。わたしは臓器が、上に、下に、横に移動しているのを感じた。うしろでは、誰かの破裂した笑い声が、叫びになって聞こえた。知

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うたた寝

うたた寝

小田急線内、現実と夢を行き来する人が居る。ゆっくりと開いてゆく口には唾液の膜。それが完全に虹色になったとき、すべてを思い出したみたいに割れた。さっきまで、虹色に光っていたそれは、すぐにただの口になって、すぐに間抜けな寝顔になった。
快速急行は、はやすぎて、カラダの一部を落としてしまったような気分になる。電車に乗るたび、わたしは何かを落としていて、そのうち全てがなくなってしまうんじゃないかと思う。

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窓辺にて

窓辺にて

わたしは自室にいるとき、ほとんどの時間を窓辺で過ごす。濃紺の夜も、赤黒い夜も、決まって朝の白んだ光に食べられてゆく。わたしは、それをただ見守る。
夜が朝に食べ尽くされたとき、窓辺の植物に水をやる。こぽこぽ土が水を飲む。霧吹きで葉っぱに水をかけてやる。新しい葉っぱは、光を求めて、すぐに窓ガラスにぶつかるから、毎日位置をかえてやる。ついでに撫でてやる。ああ、新しい葉っぱは、こんなにもやわらかい。

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追焚き2回

追焚き2回

シャワーがしゅうしゅうと音を立てて、わたしのだらしない腹にあたる。鏡に全裸のわたしが写っている。しばらくすると鏡が曇って、わたしは私を見失う。最近、自分は誰なのかが分からなくなる。
わたしの中には、無数の私が居る。わたしは、私を使い分ける。外の世界で傷付いても大丈夫。わたしでは無い私が傷付いただけだから。そういう生活をずっと続けていたら、自分がいま誰なのか分からなくなってしまった。

善良で、慈悲

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1番好きな曲を教えて

1番好きな曲を教えて

夢の中で「サカナクション好きなんだ、僕も好き」って言われた。わたしとその子は、しばらく笑いあってた。顔はどんなだった?声は?名前はなんて言うの?どんな服を着てた?どんな匂いだった?
思い出せない。
あなたは、誰?
存在しないはずの男の子。夢の中で出会ってしまった。出会ってしまったから、目が覚めた時、失ったみたいで悲しかった。夢の中でしか、会えない子。また、眠ったら会えるかな。たくさん眠ったら会える

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死なないもん

死なないもん

小さい頃から、絵を描くのが好きだった。絵を描けば、お母さんやお父さんに褒めてもらえるから。
お兄ちゃんが反抗期になったとき、お父さんはずっと怒鳴ってた。お姉ちゃんが学校に行けなくなった時、お母さんはものを投げた。
絵を描いても、お父さんとお母さんは褒めてくれなくなった。わたしのことを見てくれなくなった。絵を描くだけじゃ、駄目なんだと思った。それから、わたしは兄妹のなかで一番いい子でいることに務めた

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バナナフィッシュ

バナナフィッシュ

夢のなかで、あの子が死んでしまった。わたしは過呼吸になりながら布団を剥いで、垂れたヨダレを拭いもせずに、スマホで彼女の安否を確認した。夢だとわかっていたけれど、確認しないと今にも泣き出してしまいそうだった。あの子はちゃんと、生きていた。
好きな人がもし死んでしまったとき、きっとわたしはそのひとが骨になってしまう瞬間に、立ち会えないんだろうなと思う。それくらいの距離感でしか、人を好きになれなくなって

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各駅停車、地獄ゆき

各駅停車、地獄ゆき

「おやすみ」という声を思い出した。それは、当時付き合っていた人のお父さんの声だった。

当時の恋人は、わたしを家族に会わせたがった。恋人の家族も、わたしのことをいつも歓迎してくれた。一緒に食卓を囲んで、テレビを見たり、ボードゲームをした。週末にはショッピングモールにも行ったし、春には花見もしたし、冬にはクリスマスパーティーもした。
そしていつも、一日が終わる頃、彼のお父さんの「おやすみ」を聞いた。

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全てあい色にかえる

全てあい色にかえる

今日、一時間ほど海を見続けた。見続けたら、海がこんなにも広いことをはじめて知った。
こんなにも海が広いということを、あいつはきっと知らないだろうと思ってすこしうれしかった、かなしかった。
今この瞬間、わたしの目の前で消えていった波が、泡が、何処へ行ってしまったのかわからなくて、叫び出したかった。
みんな、すぐに何処かへ行ってしまう。
みんな、わたしを置いて、藍にかえってしまう。
わたしは、行かない

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エンドロール

エンドロール

ぐっすり眠れなくなったのは、いつからだろう。夜がさみしくてたまらなくなったのは、いつからだろう。どうせ眠れないから、どうしようもないことをたくさん考えよう。このさみしい夜は、わたしだけのものだから。
喧嘩をして縁を切った友だちの名前とか、むかし付き合っていたひとが連れていってくれたレイトショーのこととか、そんなどうしようもないこと。
どうしようもないことは、昼間はひっそり隠れているくせに、夜になっ

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海岸線を飛ばす、死に向かって。

海岸線を飛ばす、死に向かって。

おばあちゃん家は、海岸線をずっと行ったところにある。梅の木があって、鼻の潰れた猫がいて、いつも美味しいご飯が出てくるところ。
おばあちゃんは、ここのところ具合が悪い。少し前まで、悪戯に笑いながら、水だと言い張って飲んでいた焼酎や、チャッカマンでつけて吸う煙草も、いつの間にかしなくなった。
おばあちゃん家に着いた。おばあちゃんがいつも寝転がっているベットは空っぽだった。おばあちゃんは、数日前から入院

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さらさら黒髪、逃避行

さらさら黒髪、逃避行

空が泣いている。静かに誰にも見つからないように、涙を流している。
カラオケボックス。歌うのを放棄されたあのガールズバンドの曲は、すこし気まずそう。

大好きな女の子が泣いている。涙を拭ってみたけど、悲しみまでは拭ってあげられなかった。この子が泣かなければならないことも、悲しみを拭ってあげられない自分にも、腹が立って、虚しくて、信じていない神様に、馬鹿野郎と言ってみた。

わたしの大好きな、女の子。

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燦々

燦々

明け方、散歩に出た。いつまでも続くと思っていたさみしい夜は、呆気なく朝のまっさらな光に食べられて消えていく。消えかかる月に「またね」と言って、歩き出す。

雨が降った夜の、次の朝。何もかもが輝いている。わたし以外のすべてが洗われてしまったみたい。踏みしめる地面も、団地の窓も、誰かが捨てた菓子パンの袋も、きらきらしている。空が明るくなればなるほど、わたしの影が濃くなる。ここには居場所なんて無いんだと

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