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甘いだけじゃない、乙女の前髪
2025年も、仕事初めを迎えました。仕事初めということで、いろんな方々に会うわけで、そんな中で年末年始にメガネを新調し前髪をつくったわたしのことを誰にも知られたくないと願う。このまま元の(細い縁のメガネで、鼻下まであった前髪をセンターパートしていた)記憶を消し去ってもらい、ずっと前からこの容姿だったという事実がほしい。
容姿が変わることに対してわたし自身は何の抵抗もなく、むしろ、気分転換になり、手軽に生まれ変わった気分を味わえて何度でもやり直しが効く気がしています。使い捨てじゃない、サステナブルな生まれ変わり。
しかし、周りから「お!イメチェンしたね」と言われることについては、億劫で仕方がありません。自分だけの生まれ変わりでいたいのに。大切なことはおおっぴらにするな、と誰かが言っていたことを思い出す。じゃあ、わたしにとって大きな意味を持つ"生まれ変わりの儀式”は大切ではないってことなのか。いやいやそれは飛躍か。
そもそも大切なことを伝えるための言葉なんだから、自分だけに閉まってしまうのは、世界に失礼だ。その世界を懸命に生きる、自分にも失礼だ。
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結局、半分くらいの方に「前髪切ったね」「メガネ変えたんだね」と言ってもらえました。わたしは、あくまで消極的な判断なんですと言わんばかりに、聞かれてもいない言い訳で応えて、堂々とできない自分にさらに恥ずかしさが募る。このような振る舞いは改善したいなあ。
一方で、明らかな容姿の変化に対して見て見ぬふりをされるのは、少しばかり心が寂しがってしまいます。わたしを変えるチャンスが減ってしまうからでしょうか。こういう思考が、人間の世界を複雑に、おもしろくする。
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馴染んできた前髪に、もう一度ハサミをかける。
ぱっつんと整列された前髪は 甘い夜風に吹かれて惑う
誰かに見てほしい、誰にも見られたくない。あの人に見られたい、あの人に見られたくない。ずっと惑って、伸びても伸びても居場所を探し続ける前髪。なんだか恋みたいだ。長らく恋をしていないけれど、前髪にはいつだって乙女の魂を潜ませているのかもしれません。
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お風呂から上がり、切り揃えられた前髪を整えるためにドライヤーでブローをします。センターパートの生え癖を矯正するように、右へ左へとなびかせて根本から思いっきり熱をあてます。こうして、わたしが指定した場所に髪が並んで、前髪が完成する。
それでも、次の日に起きると元通り。居場所を守るためなら、と知らぬ間にしぶといなあ、わたしの髪。鏡を見てため息をつきたくなるけれど、こんなしぶとい前髪を持つ自分も誇らしいものですね。甘いだけじゃない、乙女の前髪。