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眞砂以田子
2018年5月9日 21:30
気がつくと寂れた小さな駅の待合所に立っていた。駅舎は海を背にしているのか、遠くからかすかに波のとどろきが聞こえる。高い山に囲まれた窮屈な盆地で生まれ育ったわたしにとって、海のある風景は縁遠い。そんなわけでこの場所にはとんと見覚えもなく、街のほうもこのようなわたしの事情を察してか、幾分よそよそしい表情を浮かべていた。時おり渦を巻くようにして溜まる風が、かすかな潮の匂いを運んでは静まった待合所を満