マガジンのカバー画像

短篇集

4
ショートショート、短篇小説。
運営しているクリエイター

#海

カノキシ

気がつくと寂れた小さな駅の待合所に立っていた。駅舎は海を背にしているのか、遠くからかすかに波のとどろきが聞こえる。
高い山に囲まれた窮屈な盆地で生まれ育ったわたしにとって、海のある風景は縁遠い。そんなわけでこの場所にはとんと見覚えもなく、街のほうもこのようなわたしの事情を察してか、幾分よそよそしい表情を浮かべていた。
時おり渦を巻くようにして溜まる風が、かすかな潮の匂いを運んでは静まった待合所を満

もっとみる