巨大市場の本丸に切り込むデスクレスSaaSの可能性とは
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冬の時代に躍進するデスクレスSaaS企業
「これまで"現場"で働く人にはSlackやZoomは縁遠いものでしたが、その波は工場でヘルメットを被った作業員にも届き始めています。」
遠隔支援コミュニケーションツール「SynQ Remote」を提供する北九州発の注目スタートアップ、クアンド代表の下岡氏は、工場や建設現場、店舗などで働くあらゆる労働者がSaaSの価値を享受できるようになると確信を強めている。
都市部で働くオフィスワーカーにとっては、SaaSはもはや業務に欠かせないツールだが、日本全体の環境を見ればそのようなツールにアクセスできる労働者の方が少ない。
就業者の割合では「現場仕事」に携わる人こそが国内におけるマジョリティを形成しており、ITの恩恵に与れない労働者も数多く存在する。
近年、そのような「武器を持たざる者」に価値を届けようとするスタートアップが増えている。
昨年、企業データが使えるノートでも独占取材を行ったLINE WORKSは国内SaaS最速ペースのT2D3を超える水準でARR100億円到達し、スタートアップ界隈に衝撃が走った。
SynQ Remoteを提供するクアンドはICCやB Dash Campといったスタートアップピッチイベントで3冠を達成。国内製造業における労働力不足解消に加え、現場のプロフェッショナルが持つ知識を共有するという事業可能性に大きな期待が寄せられた。
積極的な広報活動を通じ「デスクレスSaaS」のコンセプトを広めてきたカミナシは、今年3月、第三者割当増資及び融資によりシリーズBラウンドで30億円の資金調達を公表するなどスタートアップ冬の時代において順調な推移を見せている。
同社は、セブン‐イレブン・ジャパンの弁当・惣菜を製造するメーカー139工場でカミナシのプロダクトが採用されたことを公表するなど、エンタープライズ向けにも価値提供が可能であることを証明した。
本稿の執筆を進めている4月19日にもフィットネスクラブなどにCRMを提供するhacomonoが総額38.5億円の資金調達を実施したリリースが飛び込むなどデスクレスSaaS分野の勢いを感じさせるニュースが相次いでいる。
なぜ、いま、デスクレスSaaS分野は盛り上がりを見せているのか —―― 。
本記事では「デスクレスSaaSの解像度を上げる」をテーマに、LINE WORKS、カミナシ、クアンドといった当該領域で最も勢いのある3社代表に個別取材を行った。
デスクレスSaaSの課題、可能性、そして勝ち筋をトップランナーの景色から探っていく。
デスクレス分野はSaaS市場の本丸か
今やオフィスワーカーにとってSaaSを使わず仕事をする日はない。
メタップスの調査によれば、2020年時点で国内1社あたりのSaaS利用は、8.7プロダクトとなっており、コロナ禍を経てその数は拡大傾向にある。
都市圏オフィスワーカーからすると「主要なSaaSは出揃った」感覚すらある一方、実は、職場でITの恩恵を受けることができていない労働者も数多く存在する。
上図は、国勢調査を基にリクルートワークス研究所がまとめた労働者における就業形態の比率だ。
「ノンデスクワーカー」に加え、店舗責任者のような「どちらの業務もこなす」を足し合わせると実に日本の労働者の7割は日々、現場仕事を行っていることが分かる。
リクルートワークスの調査から概算される約4,000万人のノンデスクワーカーの内訳を見ていくと、多様な業種の集合体であることが見えてくる。
サービス業や販売、介護、病院、教育現場といったBtoC領域から、製造業や食品加工工場、プラントなどBtoBビジネスまで全国、津々浦々にノンデスクワーカーは存在する。
これらのさまざまな業種に対し、スタートアップを中心にソリューションの提供が加速している。
急成長バーティカルSaaSとして注目を浴びるANDPADやカケハシなどもデスクレスSaaSに該当し、リクルートが提供するAirレジなどを含めれば、既に数百億円を超える市場が存在する。
デロイトトーマツミック経済研究所の調査によれば、デスクレスSaaS市場は2022年度、2023年度ともに40%程度の市場拡大を見せるなど成長が著しい。
デスクレスSaaS市場が拡大の背景には、オフィスワーカーにおけるSaaSの普及、生産年齢人口の減少への対応、高齢層におけるスマートフォン利用の浸透などの変化が挙げられる。
「現場の職人さんなどでも当然のようにスマートフォンを使っていることがサービス普及の足掛かりとなっている(スパイダープラス 代表取締役社長伊藤氏)」との声も聞こえるなど、時代と共にIT環境が整ってきたことがデスクレスSaaS普及の呼び水となっている。
企業データが使えるノートが集計するSaaSスタートアップデータでは、この3年程で数十社にのぼる資金調達が確認できており、先行するスタートアップはIPOやレイターステージに推移し、数百億円規模の企業価値をつける企業も出始めている。
拡大を見せるデスクレスSaaSだが、その潮流は始まったばかりであり、課題も多く残されている。
例えば、医療・介護、飲食など、BtoCの業種であれば、エンドユーザーへの利便性提供の観点などからシステム導入が進みやすい一方で、製造業や重工業など日本の基幹産業を担う現場においては、業務の固有性の高さ、IT環境の未整備などからDX化がされづらい領域も存在する。
続くインタビューでは、デスクレスSaaSでは随一の規模を持つLINE WORKS、スタートアップとしての先行者であるカミナシ、そして、製造業や建設業など日本の基幹産業のDX化に挑むクアンド、特色の異なる3社に市場攻略のポイント、課題、展望を深掘りした。
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