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中国のトイレでの美しい話(後篇)
中国で、
発展途上の地域にあるトイレに、
大切なモノを落としてしまった…。
夜だった。
電気はない。
足元は、真っ暗闇。
落し物など見えるはずがない。
あんぐりと口を開けた暗闇(トイレ)に
手を伸ばし、
M子が落しモノを手探りする。
いいよ
‥‥‥「あきらめよう」私は言った。
落としたモノは
インスタントカメラだった。
それは、私たちにとって、
とても大切なカメラだった。
なぜなら、現地の人たちとの
思い出が収められていたからだった。
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アモイにある発展途上の集落で、
私たちは、温かい歓迎を受けた。
見知らぬ国から来た私たちに
現地の人たちは、カメラを指さし、
「この箱はなにか?」と不思議そうに尋ねた。
「これはカメラです。
“写るんです”といいます。
日本に帰ったら、御礼に写真を送りますね」
現地に住む友人Kくんに通訳をしてもらって、
M子と私は、約束していたのだった。
日本という国がどこにあるのか、
どこの誰かも分からない私たちに、
現地の、澄んだ眼をした人たちは、
友好的に、親しげに声をかけてきてくれた。
高齢のある女性は、葉っぱのお皿に
赤い木の実を入れて、ふるまってくれた。
赤い実を、口に入れると
女性の皺皺の顔が、さらに、ほころんだ。
赤い実は、甘酸っぱくてオイシカッタ。
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いくつかの出会いと
澄んだ瞳の現地の人たちを収めたカメラを
トイレに落としてしまった私たち。
その後、がっくりとうなだれ、宴のテーブルに戻った。
それから、どれくらい
時間が経ったのだろう?
30分?1時間?
気がつけば、ウルルン滞在記の
最後の別れのシーンのように、
十数人の現地の人がM子と私を取り囲んでいた。
ここは正直に、告げるしかない。
友人Kくんが、彼らに事情を説明してくれた。
「ふたりは、思い出を
トイレに落として悲しんでいる。
写真を送りたかった。
思い出を送りたかった。と言っている」
現地の人たち
(一同)シーーン。
やがて
長老のおじさんが、穏やかに口を開いた。
「悲しまないでください。
私たちはトモダチになったのですから。
想い出は、ココにあります。(胸に手を当て)
私たちトモダチ」
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あれ。
文章が稚拙なゆえ、オチが…
オチが、胡散臭くなってしまいましたが(涙)。
たしかに。
30年経った今も、
その光景をはっきりと覚えている。
ー 想い出はココにある。