![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/152570465/rectangle_large_type_2_fa8476e3b6d9c044ce83ef15b7747851.jpeg?width=1200)
「2024年8月の珈琲 Tanzania:球場のサイレン」
Tanzania:球場のサイレン
グラウンドに巻かれた水が
球場をいっぱいにした熱を鎮める
白球を追いかけ
ホームを目指してスライディング
真夏の正午に鳴り響く
球場のサイレンに目をとじる
昔をおもうコクにゆっくりと沈んでいく
8月の中旬の気温はまだ真夏だというのに、こころのどこかに、8月31日という8月最後の日がちらつきはじめて、すこしさみしくなる。
ちょうどこの頃、夏の甲子園では開幕戦からいくつもの熱い戦いが繰り広げられている。
その熱い戦いを、小学生のわたしは、扇風機の風をあびながら、小さなテレビに向かって応援することもあれば、球場で応援団に混じりながら、かちわり片手に応援することもあった。
テレビの前で感じる熱気と球場で感じる熱気の違いは大きい。
例えば、最後のイニング。
投手の一投球に向けられる一塁側の期待。
地鳴りのようなうぅぅぅといううめき声がすっと消え、たった一つの白球にすべての視線が注がれる。
バッターは空振り、三塁から走り出していたランナーは塁に戻ることもできず、ホームを目指す。
ランナーのスライディングとピッチャーのタッチ。
どちらが先だったのか。
固唾をのみ、見守る。
「アウトーっ!」
響いた審判の声と大きな仕草に、いっせいに歓声が沸く。
球場の熱気は終了のサイレンが鳴ってもおさまることはない。
ただ、グラウンド整備のためにまかれる水を見つめているとその熱気がすこしずつおさまっていくのだった。
そんな試合をいくつも経て、8月15日はやってくる。
この日、どんなに熱い試合をしていようとも、正午のサイレンは鳴り響く。
あの地鳴りのようなうめき声が消えた瞬間のように、誰ものこころの中に静寂が生まれる。
60秒。
この時間だけはすべての時が止まり、サイレンだけが球場を支配する。
そして、誰もが昔を思い、黙祷を捧げる。
8月15日正午のサイレンは、こころの奥深くにゆっくりと沈んでいくサイレンだった。
8月の「Tanzania:球場のサイレン」は、そんな甲子園での思い出を表現した珈琲だ。
>>>>>>>>>>
生産国:タンザニア
品種:ケント、ブルボン
精選方法:ウォッシュド
風味:チョコレートのような苦味のある甘さとコク
煎り加減:深
>>>>>>>>>>