
「うまくなった」のは転職なのか/『転職ばっかりうまくなる』の感想
転職がうまくなる、っていったいどういうことなんだろう。
誰も知らない中小企業から大手企業へ転職が決まること?給与が大幅アップすること?それとも、好きなことを仕事にできること?
私は、「転職がうまくなる」にあまり良いイメージを持たない。「転職がうまくなる」ことは、すなわち「転職活動がうまくなる」ことを指すと思うからだ。あなたの周りにも一人くらい思い浮かぶかもしれない。なぜこの人が入社できたのだろうと疑問を持つ人が。履歴書に書かれた経歴が輝いて見えて、面接でも前向きな好ましい人物で、けれど入社してみると別人のようになる。こういう人が私の思い浮かぶ「転職がうまい」人。
『転職ばっかりうまくなる』は、そんな「転職がうまい」人が数多の会社を渡り歩くドタバタコメディ小説かと思っていた。しかし、読み進めていくとなにやらおかしい。履歴書にTOEIC900点取得と書いた「転職がうまい」人が、英語の会議でなにも分からず困る様子などまったく出てこない。主人公は新卒で就職活動をせずにフリーターになり、お金に困って正社員になったものの、休職期間を挟みまたフリーターになっている。この主人公は、私の想像する「転職がうまい」人ではない。よくよく見てみると、筆者の転職エッセイであった。
本書から、筆者はおそらくかなり得意・不得意のグラフが極端な人物だろうと推測する。学生時代のエピソードや、在籍していた企業の同僚・上司と退職後に連絡を取っていたりすることから、コミュニケーション能力とバイタリティにあふれた人物だろうと思うが、その能力は営業成績に直結するものではない。
同じ部署に筆者がいたら大変だろうと想像できる。もし部下になったら…?育成する難しさに頭を抱え、上司や同僚に相談する自分の姿が思い浮かぶ。なので、途中途中に登場するパワハラ気質の上司たちの苦労は正直分からないでもない。もちろん、その言動は決して許されないものであるけれど。
筆者は最終的に、フリーランスのライター・文筆家として活動する道を選ぶ。そのきっかけとして、noteでの記事執筆をしていたことや6社目でオウンドメディアを立ち上げた話が出てくる。しかし、それらの描写が端折られているため、なんとなくライターになったように見えてしまい非常に残念だと感じた。けれど、仕事なんてそんなものかもしれない。自分ではたいしたことないと思っていることが誰かに評価されて、仕事になっていく。その過程に強い思いがあるかどうかはあまり関係ないのかもしれない。
筆者は本当に「転職がうまくなった」のだろうか。
そんなことを考えてしまうあたり、私はレールの上を歩くのを好む、つまらない大人になってしまったのかもしれない。