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押し寄せるスポーツテクノロジーをどう楽しむか ~使って当たり前の時代がきた!?~/Insight #14 イベントレポート

割引あり

どんどん新製品が発表されるスポーツテクノロジー。みなさんは楽しめていますか?

今やテレビの解説でも、データを使った指標値や分析は当たり前になりました。一昔前は、ビデオカメラを片手に撮影していた試合も、現在ではカメラを置くだけで簡単に撮れる時代です。

今回は「株式会社Cloud9」代表取締役 北村良平氏をお招きし、話題のAIカメラ「Veo(べオ)」などを中心に、フットボールを取り巻くスポーツテクノロジーの現状と、付き合い方を深掘りしていきます。


<登壇者紹介>
ゲスト 北村 良平氏
株式会社 Cloud 9 代表取締役

ゲストコメンテーター 續木智彦氏
西南学院大学サッカー部監督

司会進行 和田タスク
前FC町田ゼルビアスタジアムDJ

タスク:第14回のインサイトは、「押し寄せるスポーツテクノロジーをどう楽しむか」というテーマで、「株式会社Cloud 9」 代表取締役 北村良平さんをゲストにお迎えしています。よろしくお願いします。

北村:株式会社cloud9の代表取締役をやっています。「Veo(べオ)」というAIカメラのレンタルをメインにやっていて、実はこのインサイトの運営にも加わっています。

タスク:北村さんはスペインサッカー協会の指導者ライセンスもお持ちです。コメンテーターの續木先生もよろしくお願いします。

今まで見えなかったところが具体的・客観的に見えるようになる
8:02

タスク:早速ですが、話題のVARなんかも一つのテクノロジーかと思いますが、どう捉えてますか。ゴールラインテクノロジーもありますね。

北村:競技としての正確性と客観性が高いところはいいと思うんです。フットボールとして、流れを止めちゃうとかっていうところでは、ちょっとなぁって、古い人間から見ると思っちゃう。

タスク:エンタメ感というところではどうかなという。ビジネスになっているので無視できないでしょうし。Veo(べオ)という機械をレンタルしているそうですが、教えていただけますか?

北村:デンマークで開発されたAIカメラです。簡便に撮影できて映像がすばらしいっていうのが特徴です。ピッチサイドに三脚でカメラを立てて、録画ボタンをポンと押すと試合を全部撮ってくれる。で編集されて後で見ると、Jリーグの中継とか代表の中継のような画像が上がってくるっていう。

タスク:僕ら個人レベルでも扱えるんですね。テクノロジーってそもそも何だというか、あくまで見えないものが見えるようになった・便利になったという認識でいいんですか?

北村:そう思っています。例えばGPSだったり、走行距離だったり、スピードだったり、今まで見えなかったところが具体的・客観的に見えるようになる。数字で出てくるとか、DAZN(ダゾーン)とかのハーフタイムで見れるようなヒートマップとか。視覚的・客観的に見れるところが進歩しているのかなと思っています。

Veoは二個の定点カメラで90度ずつ撮って、180度の平面をずっと撮り続けます。撮った動画をくっつけて、その映像をAIがボールベースで追っていく。要は動画の中から切り取ります。

Jリーグの試合を見てると、スタジアムにいない限り、得点が入ったときに自チームのゴールキーパーがどこにいるかって見えないじゃないですか。Veoだと見れるんです。「3ラインが全部取れるっていうのは有利」っていう話は分析の人からよくされますね。

タスク:こういったものを使うことによって、どんなメリットがあるんですか?

北村:まずは質が一定であるっていうとこですよね。お父さんカメラマンが撮ってるとゴールシーンが写っていないとかありますが、誰が撮っても同じ質のものが撮れるっていうのは価値があるんじゃないかなと思います。

その次に、プレイヤーの目線からいくと、指導者も含めて、後で見返したときに映像があるのは同じ場面を見れるということ。最近いろんな機能が追加されてて、「クイック」というのは撮ったらすぐその場で見れる。ハーフタイムでもできてしまうところがいいかな。

タスク:スプリント回数もテクノロジーとして出てきましたが、何が恩恵になるんですか?

北村:チームによって大きく変わるのかなとは思ってます。何をどう使いたいかで、かなり分かれてくるんじゃないかな。多くの指導者と話をすると、スプリントとか走行距離がわかると怪我の防止になるよねと。もうこれだけ走ってるから、これ以上させないという指標になるよねっていう言い方してたのが新しい視点かな。数値として出るので選手も納得できるし、コミュニケーションの中でも客観的なエビデンスがある

タスク:續木先生はVeoを使ってどんな効果を感じましたか?

續木:うちは資源がそんなにないので、ボタン1個で質の高い映像が撮れるっていうのは本当に恩恵を受けてると思っている。あとは7メーターくらい高い位置から撮影できるので、自分の視野から見えてる状況と僕がコーチングしたところの不一致がその場では起きてるんだけど、俯瞰した視点からだと理解が深まっていくっていうか。毎回練習した後、動画を共有するんですけど、共通認識が高まっていくなっていう気がしています。

タスク:振り返りとして、そのまんま動画を見せていくんですか。

續木:切り取りもいいと思うんですけど、うちは毎回全試合そのまま送ります。紅白戦も何もかも。選手たちは自分の中で引っかかったプレーを選べる。URLで共有できるので、すぐLINEにアップロードして、編集された動画を選手と共有します。

タスク:他のチームもテクノロジーを使い始めたら、アベレージがどんどん上がってミスが減っていくような気がするんですけど。

續木:それもそうだけれど、スカウティングのところですよね。同じVeoのカメラ持ってる指導者は同じ質のものが撮れてるから、お互い交換しようってなってる。そうなると質の高いゲームになりますよね。九州リーグアマチュアのレベルでも、もう1個高いレベルでやろうよっていう雰囲気にはなってます。最近はアマチュアでも通信機器使ったり、GPS使ったりしてるチームがほとんどなので、九州一部リーグだと。情報戦もあるし面白い。


ぶれないサッカー観・指導哲学がなければ、テクノロジーの利点を生かせない
42:00

タスク:逆にテクノロジーを使っていくことで、デメリットはありますか?

北村:現状は資源があるところ、要はお金があって、分析して動画を作れる人がいるところからVeoを入れ始めています。何百万で手が出ないというレベルでもないので、単価で言うと、1000ユーロぐらいで買えるので、入れられない訳でもなくなってきます。

タスク:ただ、決して安くはないじゃないですか。そうなると、まず自分たちのリソースがあるところから入れますよね。ないところと差っていうのは出てくる?

北村:すぐには変わらないかもしれないけど、継続していけば当然ステップアップしていく度合いが変わっていくのでは。モバイルタイプのAIカメラが出始めて3・4年なので、ここから5年とか10年の間に、「隣の小学校のスポーツチームもそれ持ってるんだね」って世界がやってくるんじゃないかな。

タスク:分析してエラーを修正していくことで、アベレージが上がっていく現象が日本全国で起こってくると思うんですが。

北村:そこが逆に穴かなと思ってまして。強豪校とかだとちゃんとした哲学というか、信念を持ってやっているところには生きてくるんですよね。ベースがあって、テクノロジーを使うのは。

でも、お父さんコーチとかがYouTubeのトレーニング動画を見て、プレーをやる意味を考えずに、チームの哲学がないままに選択させると、それが小学生とかに広がっていくと、僕はフットボールがだめになってしまうのではと思ってしまう。正解を選んでしまおうとする癖がつくんじゃないかな。

續木:確率が6割と4割あっても、4割選んでもいいわけですよね。それこそスポーツの本質かもしれないんですけど、楽しさっていうのは確率論ももちろん大事なんだけど、駆け引きの中でより高い確率にしていくところはもしかしたら減っていくのかもしれない。

タスク:せっかくテクノロジーを使っても、対応力のない機械的な選手にしかならないだろうっていう懸念もあるんじゃないかと。

續木:例えば90分の試合を、イベントごとにAIが勝手に切り出してくる可能性だってある。でも僕は、全体の中の部分だと思うから。僕たちはテクノロジーの進歩とともに、今歩んでるからいいけど、テクノロジーが当たり前の子どもたちにそういう駆け引きとか、流れの大事なところに気づけなくなる可能性はあるかもしれない

タスク:テクノロジーの恩恵の裏に、「使う側の問題」っていうのがあるんですね。

北村:純粋に子どもの試合を見て面白いねっていうのはいいと思うんです。ただ、どう使うかどうかは、動画とかテクノロジーを含めた指導者のレベルが必要になってくる。テクノロジーの進化とともに進んでいかないとと思います。

續木:選手が何考えてたのかっていうところを大事にした方がいいと思う。「そこシュートじゃねえよ」って思ったけど、シュート入ったら正解になっちゃうんで。その人は何を考えたのかと、僕はこう思ってるっていうすり合わせっていうか。相手がいて、味方がいてスペースがあってボールがあってその状況とシチュエーションを含めてディスカッションしていくっていうのが大事なのかな。

タスク:「テクノロジーを使う側のぶれないサッカー観・指導哲学がなければ、テクノロジーの利点を生かせないと思う」と、コメントいただきました。このとおりですね。

續木:何を変数にして、どういう哲学を持つかが重要だと思います。人間がテクノロジーをどう使うかが大事だという気がします。

北村:私はVeoを広げていく立ち位置にいるので、良いと思って広げたものが結果的に悪くなってしまうのは本意ではない。映像がこうだったからこのプレーが正しいだろうという発想になってしまうのが恐ろしいなと思ってるんです。

失うものをいかに最小限にして恩恵を最大限受けるか
56:17

タスク:チャットをいただきましたが、「テクノロジーが欧米と比べて広まっていかないのは、日本の国民性やアナリスト不足が主因なのでしょうか」。

北村:まず、スポーツのあり方に違いがあるのかな。部活の延長や遊びでやるっていう、余暇の捉え方の違いが強くあるので。テクノロジーを使うってことはお金がかかる、当然人間もかかるので、資本を投資する価値があるかという判断が日本のほうが低いのかな。

タスク:スポーツの地位が欧米と比べて低いのが大きな要因なのかな。アナリスト不足はまちがいないですよね。

北村:収入を含めてどこまでアナリストがカバーするのか、心拍取って疲労してるからどう回復させるかも、チームとして考えるようになると、付随する栄養士やコックが必要になってくる。アナリストも含めて全部チームになってくるので。トップレベルを目指そうと思うと、僕らが見えてない・足りてないことがいっぱいあるんだろうと思います。

續木:スポーツの捉え方が影響してるのかな。稽古とか経験とか、身体知みたいに感覚で学ぶことを美徳としているのが国民性としてあるのかな。

北村:新しいものが入ってくることで、いろんなものが飛躍的に伸びるのは面白いと思います。ただ、その裏で失うものをいかに最小限にして恩恵を最大限受けるかってところは、導入していく際に考えていく必要があるんじゃないかなと思ってます。

タスク:「うまく付き合っていきましょう」ということですね。

北村:「うまく」が時代とともに変わっていってしまうので、アップデートということですね。


次回の案内と「The Blue Print」のお知らせ

次回は6月7日(金)、時間はいつも通り20時から1時間ほどやっていきたいと思います。内容は未定となっておりますが、ご期待ください。

そして、我々は「The Blue Print(ブループリント)」というオンラインコミュニティを持っています。Facebookグループで展開しているものです。ご参加いただきますと、テーマについてオンラインでディスカッションしていただけます。活発な意見交換と気づきを得ていただきたいなと思います。

The BluePrint コミュニティページ(Facebook グループ)
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