【スポーツ心理学】ゴルフの自己効力感と帰属スタイルについて考える
ゴルフは、肉体的な能力だけでなく、精神的な能力も必要とするスポーツです。スイングの技術は重要ですが、それだけではなく、プレーヤーのメンタルな状態がプレーに大きな影響を与えます。
この記事では、スポーツ心理学の【帰属スタイル】に基づいた、日米アスリートの失敗や成功についての考え方の違いと、その次のパフォーマンスへ向けての対処方法の違いについて解説します。
今回の記事で参考にした書籍:
スポーツ心理学ハンドブック、Sports Psychology - A Complete Introduction
肌で感じた日米の考え方の違い
筆者は過去に2年間アメリカのゴルフ大学でゴルフについて勉強した経験があります。そこで衝撃を受けた圧倒的な日米アスリートの考え方の違いは、今でも、こうしてわたしがブログを書き、多くの人に伝える原動力になっています
「成功したら自分の才能・手柄、失敗したら取り組みが悪かったか周りのせい」
アメリカでゴルフを学ぶ中で、このような考え方のアスリート達に多く出会いました。このような自己中とも言える(おい)考え方が、実はアメリカ特有の帰属スタイルから来るものと考えることができます。
一体どういうことなのか今から順を追って見ていきましょう!
帰属スタイルとは何か?
帰属スタイルは「認知構造的観点の1つ」です。
人間は何かが成功したり失敗したとき、なぜそのような結果になったのかを考えます。そして、この考え方は、次に挑戦するミッションの成功または失敗にも影響を与えます。
このような原因に関する認知プロセスの中で、与えられた情報をどのように処理し、その原因を何に帰属するか(原因の帰属)は、個人によって異なり、主観や慣習によって決まります。
このような流れを帰属スタイルと呼びます。
つまり、このプロセスでは、何かのせいでその結果になったのか、それとも誰かのせいでその結果になったのかを考えることになります。
自己効力感とは何か?
そして、帰属スタイルを考える上で重要なのが、自己効力感です。
「自己効力感(self-efficacy)」とは、心理学用語の1つで、何らかの課題に取り組む際、困難な状況であっても、「自分は対処できる」という確信や自信を持つことを指します。
スポーツ競技において、自己効力感を重視した帰属スタイルを選択することは、自分の潜在能力を最大限に発揮し、試合での高いパフォーマンスにつながると言われています。
認知的な情報処理、帰属理論とは何か?
スポーツをする際に、私たちはどのようにパフォーマンスの結果に対して認知的な情報処理を行っているのか、ということについて考えてみましょう。
ここで、心理学者のベルナルド・ワイナー氏が提唱した心理学的モデル「帰属理論(Attribution Theory)」に、ゴルフを当てはめて考えます。
下の「原因帰属過程」の図と一緒にご覧ください。
私たちは、何か行動を起こした結果、成功した場合は気持ちが良くなり、失敗した場合は気持ちが悪くなります。
ゴルフに例えるなら、ティーショットの結果として「フェアウェイの真ん中に真芯を喰った球を打った」または「バナナスライスでOBを打ってしまった」と考えることができます。この結果に対して「気持ちが良い」または「気持ちが悪い」という【感情的反応】を示します。
そして、「何が良かったのか」「何が悪かったのか」という原因を探ろうとします。これが【原因帰属】です。
さらに、原因帰属から、「ドライバーが得意だから」「練習しなかったから」と自分のスキルによる原因(内的要因)によるものであるのか、コースや環境による原因(外的要因)によるものであるのか、という【原因の位置】を考えます。
この結果(良いショット/OB)がどの程度の頻度で起こるのかを考えます。それが常に起こるか、それともたまに起こるか、という【安定性】を考えます。
安定性は、結果が良かった場合(フェアウェイ)と悪かった場合(OB)の両方で期待や感情反応にも影響を与えます。最後に、原因からこの結果が、クラブ選択やスイングフォームの問題などの【内的要因】で自分がコントロールできたもの、何とかできたはずだったのか、それとも天候や環境などの【外的要因】による「単なる不可抗力だった」のかを考えます。これが【制御性】です。
このように、ゴルフを例に挙げてみると、私たちはパフォーマンスの結果に対して感情反応を抱き、それに対して原因帰属を試み、原因の位置、安定性、制御性を考慮して次の行動につなげていくという流れで認知的な情報処理を行っています。
これはスポーツに限らず、人間の行動においても共通する認知的なプロセスであり、心理学的にも重要な概念の一つです。
これは日米で異なるのか?
日米間でのゴルフの帰属スタイルの違いについて紹介します。
以下は、スポーツ心理学ハンドブックの帰属理論に関する一部抜粋と意訳を含みます。
実はこのような差が、知らず知らずのうちに次の行動に大きな影響を与えていて、すなわち、プレッシャーを感じる場面でどれだけ自分の力を信じられるのか(自己効力感)に繋がっていると考えることもできます。
これは、どちらの国の教育が優れているか?という話ではありません。客観的な事実として、わたしは納得しました。
世代によって少し違う解釈があるかもしれませんが、根性論の昭和と実利主義の令和では、また違う物語になかもしれませんね。
自己効力を高める帰属スタイルとは?
スポーツにおいて、自己効力感が高いほど(自信があるほど)成功の確率が高まることは明らかですが、「自分を信じる力」を高められる情報処理の方法はどのようなものでしょうか?
自己効力を高める帰属スタイル
成功した場合に、それは自分の才能や努力によるものである【位置】、自分は常に成功するだろう【安定性】、自分自身がこの勝利を掴み取ることができた【制御性】と考えることです。
このような帰属スタイルを持つことにより、成功は誇りに繋がり、自己効力感が高まります。また、失敗したとしても、他人のせいであったり、たまたま失敗しただけで、自分ではどうにもできなかったと考える帰属スタイルが自己効力を高めるために役立ちます。さらには、選手の自信も守られることになります。
アスリートとして、スキルが高いのか、勝負に強いのか、また人格者かどうかは全く関係ありません。
結果を重視するプロアスリートであれば、競技中は周りの目など気にする必要はありません。このような考え方や捉え方は非常に重要であると思われます。
根が優しすぎる方は、プライベートとアスリートの自分との間にオンオフのスイッチを使って切り替えることで、両側面を保つことができます。
自己効力を低下させる帰属スタイル
一方で、成功した場合に、それは自分の功績ではなく、誰かのおかげである【位置】、結果はたまたま良かっただけで、不安定だ【安定性】、自分だけの力で成功を掴み取ることは困難であろう【制御性】と考える帰属スタイルは、自己効力を低下させます。
失敗した場合には、自分の責任であると考え、どうにかできたはずなのに…と考えることもあります。
このような帰属スタイルは、失敗を恥と感じさせ、自己効力感を高めることはできず、成功の確率自体も下がってしまいます。自分で自分にショックを与え、自信を低下させるだけです。
この方はとても謙虚そうに聞こえますが、プロアスリートとしてこの考え方は相応しくないかもしれません。表に出さずとも自分の中で自己効力感を高めるように考えたり、切り替えることができるとよいでしょう。
プロゴルファーが「優しすぎると勝てない」と言われるのは、ここに通づるものがあるのでしょうか?いい人だと勝てないだなんて報われない世界です。
コーチ・プレーヤー共に自己効力を高める方法
心理学的観点からプレッシャーに強くなるためにできることはた〜っくさんありますが、今回のテーマに沿ってだと以下の通り。
理論に基づき、簡単なことから徐々に成功体験を積み重ねる
効果的な目標設定をする
短期・長期の目標を設定しその過程で成功体験を積み重ねていく
実践での成功体験はより効果が高い
他者の成功体験を観察し自分にもできる実感を持たせる
生理学的反応を安定させるため呼吸法など自己制御方法を学ぶ
成功した時・失敗した時の考え方を自己効力が高まるスタイルに切り替える
日々の練習やトレーニング・試合などを通して、効果的に自己効力を高めていけるといいですね。
意識的に何度も繰り返しプロセスを反復することで、やがて無意識に近い状態で認知処理ができるようになります。
おわりに
ゴルフをプレーする上でミスは避けられません。失敗した後、自分自身をどのようにフォローアップするかが重要なのです。
ゲームに集中し、最高のパフォーマンスを発揮するためにも参考にしてみてください。
どんな競技でもプロアスリートとは、本当に尊い職業ですね。
今回の記事で参考にした書籍は以下の2冊です。
スポーツ心理学ハンドブック
Sports Psychology
その他関連するオススメ記事
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?