2024/7/14 演劇 範宙遊泳 心の声など聞こえるか
劇団:範宙遊泳
タイトル:心の声など聞こえるかhttps://www.hanchuyuei2017.com/kokoronokoe2024
暗闇の中
鳴り響く音楽に、煌めくステージに
胸の高鳴りは抑えきれず
開幕で涙が視界を覆う
範宙遊泳の世界に引き込まれる時間が、
幕をあけた
【舞台】
舞台中央には、欠けた円盤型回転セットが鎮座する
前後で高低差がある円盤は、隣人の繋がり、家(内)と外を連想させる
青のレーザー照明、蛍光灯型の縦長照明が、縦ラインというアクセントを出していた
好みである
ホール中に重い低音が響く、曽我部さんの音楽が鳴り響く
音楽については、冒頭とラストは特によかった
よかったという言葉で収めたことに甚だ疑問を感じるが、いまだ言語化できていないじんわりとした余韻が尾を引く
なので、それでいいことにする
まるで全てを飲み込んでしまうような井神さんの衣装、これもよかった
優しさで包んで、外を跳ね除け、大切に守ってくれるような包容力をみた
【物語】
そして、物語は愛を描く
(本物語について感想を述べる上で、これはさして重要ではない
だが、前置きとして忘れてもならないので書き記しておきたいとと思う
昨年7月観劇したバナナの花があまりにも刺さりすぎたので、本作はそれを超えてくる程の感動はなかった ---備忘録)
フライヤーでわたしの心を惹いた言葉達は、井神さんの声に乗って解き放たれた
激情と共に発されると思っていた言葉達は、なんともか細く気高く、愛に溢れた声にのせられていた
衝撃である
思わず涙をこぼす
何故かはわからない
さらに、言葉は紡がれていく
所々挟まれるラップバトルや詩は、範宙遊泳の遊び心が詰まっていて愛おしい
また、若い夫婦は身体という器を、くねくねと動かしていく
身体表現に重きをおいた演出としてはよかった
しかしながら、NDT(現代において最も身体を自由に動かすコンテンポラリーダンスカンパニー)の観劇直後であることも重なり、ここは少し物足りない
それはつまり、演劇における身体表現というのは、これから豊かさを増していける成長幅分野なのではないかと思う
今後のクリエイションを楽しみにしている
合わせて、個性豊かな登場人物にも触れていきたい
心の声ばかりがあまりにも饒舌な、若い夫婦
時に透明で、時に実体を持つパフォーマ
(小劇場らしさをプラスしてくれる存在だと思う)
世間から刃を向けられた旦那
旦那を狙うパパラッチ
そして、そんな旦那を愛してやまない、心の声が聞こえら奥さん
各々が妄想に籠もる性質を持つため、どの世界線が現実なのか作中迷子にさせられる
夢か現か
何を相手に伝えることができていて、どんなことは伝わっていないのか
わたし達は立ち止まることができるのか
かつて愛した者・愛し合う者・これから愛すべき者と、素直に向き合う余裕があるのか
愛の形は一様ではない
ただし、それを口にしていいのは、愛の芽生えを尊び、共に向き合い、育んでいこうとする者だけである
世界と闘う覚悟が伴わないならば、絶対性を有する愛ではないのではないか
また、愛とは男女の間のみに成り立つものではない
(ここは、東京輪舞の世界とも通じているような気がする)
夫婦愛・隣人愛は言わずもがな、ひいては政治参画も現世を愛することである
ラストシーンは、愛を結晶化させた行く末の1つであるとわたしは考える
世界が愛する者を愛でてくれないならば、愛してくれない世界を愛するのを辞める
相対評価に基づく、愛の取捨選択と受け取った
【最後に】
ああ、幕は下りてしまった
これにて演出は引退される山本さん
最後の演目の千穐楽、大好きな池袋芸術劇場で出逢えてよかった
しかし、やはり山本さんの言葉が好きだ
たまらなく大好きである
下記HPより抜粋したコメントには、その理由が詰まっている
「なるたけやわらかく、やさしく、でもスパイシーで重層的なものに。(山本卓卓さん-出演者コメントより抜粋)」
さて、世界は急速に日常を引き戻す
素晴らしい観劇体験の後は、少しずつ日常に感動体験を溶かしていくことでその余韻を楽しむ
プカプカと浮かんでは消えていく、朧気な記憶が愛おしい
ああ、これも愛である