繋星家 2
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母曰く、2年前に死んだ父親が実はこの星の人間では無かったらしい。
何の因果か、僕たち兄妹は宇宙人らしい。
と弟たちに伝える訳にもいかず、ただこの力は人前で決して使わないという誓いを立て、真実は伏せていた。
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「ふーーついた!」
階段の終わりに着き、雷莉を降ろすと、電気の消えたガラス張りのフロアが広がっていた。
この都市はまだ開発途中で、今は深夜なので人も全く居なかった。
ただ海を挟んだ遠くに見える、都心の夜景がとても美しかった。
「凄いなこの景色…」
駿扉と二人で感動していると、先程まで不機嫌そうだった雷莉と緑花の目が輝き、早速走っていってしまった。
「あんまりはしゃぎ過ぎるなよ〜」
軽く注意したけれど、きっと聞こえてはいなかった。
はしゃぐというのは、言葉通り盛り上がることではなく、羽目を外しすぎて力で遊ぶな、という意味なんだけどな。
そう心配する僕の予想が当たったかのように突然、64階のフロア全体の電気がついた。
けれどこの時ばかりは、雷莉の力って便利だな、と少しだけ思った。
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駿扉は、景色につられるようにガラス張りの床に踏み出した。
「ちょっとこえぇ…」
そう言いながら怯えていたが、段々慣れて楽しくなったのか、軽く跳んだりしていた。
僕はというと、未だ階段のコンクリートから一歩も踏み出せずにいた。
「...あれ、兄(にい)来ねーの?」
慣れない反抗期の口調で聞いてくれた駿扉に、僕は苦笑いで返した。
「うーん…」
「もしかして、高いとこ怖いのか?」
少しニヤっとしてそう聞く駿扉に、咄嗟に強がって、怖くないよ!と言った。
駿扉は怪しい、という顔で見てきたので、
僕はますます目を逸らした。
「怖い、のは高いとこじゃなくて…その、僕が乗ったら皆が危険になりそうで、怖いっていうか…さ」
僕自身、全ての力を出した事はなく、兄妹達を危険に晒してしまいそうで怖かった。
「大丈夫だよ、そんときは俺を使えばいい」
駿扉は頼もしい顔でそう笑っていた。
僕は不安な気持ちを押し殺して、少しだけ弟に甘える事にした。
「……頼りにしてるよ!可愛い弟!」
そう言って一歩踏み出し、駿扉の頭を雑に撫でた。
「ガキじゃねぇんだから…!」
と口では言っていたが、顔は嬉しそうな弟は、やはり可愛いと思った。
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なるべく脚に力を入れないように、そっと歩きながらガラス張りの中を進んだ。
ス○イツリーの中みたいに円形になっていて、立体的な景色に不思議な感覚がした。
「兄やっと来たー!!見て見て!」
しばらく歩いたところで、すっかり遊んでいる翔飛(しょうと)に出くわした。
いつの間にそんな使い方を覚えたのか、翔飛はガラスの天井に足をつけて逆さまになっていた。
「はしゃぎ過ぎ〜危ないから降りな」
僕が軽く注意するだけでは、翔飛はちっとも言うことを聞かなかった。
「もう〜…駿扉、頼んだよ」
仕方が無いので駿扉に頼むと、駿扉は小さなワームホールを開き、翔飛の足を掴んだ。
「わっ!ま、待って降りるから!!」
翔飛は、跳ぶために足でバランスを取っているので、足が1番の弱点だった。
グラグラと慌てている翔飛に、駿扉は容赦なく両足を掴んだ。
「翔、兄(にい)にごめんなさいは?」
そこまでは頼んでないのにな、と内心思いつつ、僕は腕を組んで待った。
「ごっごめんなさい!もう危ない事しない!家以外ではしないからー!」
せめてもの足掻きなのか、最後に取ってつけたように家以外、と付けるしたたかな翔飛に、思わず笑ってしまいそうになった。
「ふ…っまぁ、もうしないって約束するなら良し!」
僕がそう言うと、駿扉はワームホールを閉じ、翔飛も大人しく天井から降りてきた。
「なるべくガラスに優しく、ね」
そう諭すと、翔飛は今度はちゃんと床を走って行った。
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「そういえば、翔飛の相手は斬弥に頼んだはずなのに、どこいった?」
探しながら円形のガラスを歩いて半分くらいまで来たところで、コソコソと何かを作っている斬弥を見つけた。
「いた斬弥!」
僕が名前を呼ぶと、斬弥はびっくりして何かを外に向けて放った。
「わっ…っと今の何!」
当たりそうなスレスレを強い風のようなものが、ガラスを貫通して飛んで行ったので、これはまた斬弥がこっそり力を試していると気付いた。
「い、いや…!今のは何でもないよ!」
明らかに慌てている斬弥に、僕は段々と近寄って行った。
「はぁ…斬弥が自主的に兄妹たちの世話をしてくれるなんて変だとは思ったけど…」
「や、違う!ほんとにさっきまで翔飛の相手してたんだよ!ただ遊んでどっか行っちゃったから、僕も…って」
「誰かが遊んでたから自分も良いって、小学生じゃないんだからさ……」
いつもの如くお説教を始めようとしたところで、駿扉が僕の肩をトントンと叩いた。
「どうした駿扉――」
駿扉が指さした先を見ると、僕は思わず唖然とした。
正面の組み立て中のビルが、丁寧にバラバラになって崩れていた。
「…ウッソ」
斬弥自身も驚いていて、僕もただ立ち尽くして見てしまった。
それは波紋のようにどんどん広がって、
どんどん細かい模様のように広がって、
左右のビルからビルへと崩れて行った。
そのうちタワー内が揺れ始めて、怖がる雷莉と緑花が「兄〜!」と涙目で駆け寄ってきた。
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止まることなく崩れ続けるビルに、斬弥は腰を抜かしていた。
海の向こうまでは及ばないことが、せめてもの救いだった。
「下に降りようにも危険か…」
段々と迫ってくる倒壊したビルの波に、僕らは緊迫していた。
「斬弥、範囲はどれくらいにした?」
すっかり自分の力に怯えた斬弥は、細々とした声で、
「あの奥の1番デカいビルを、粉々にできるかなーってくらい…」
海ギリギリに見える、タワーとそう変わらない高さのビルを見て、このままではこのタワーまで空間断裂が及ぶのも時間の問題だと思った。
「寄りにもよって…」
「まあいい。駿扉、皆に危険が及びそうな時、僕が合図したら直ぐに家まで移動出来るようにしといて」
「……分かった、用意する」
駿扉は何か言いたげに、それを飲み込んで了承してくれた。
ひとまず非常階段まで避難して、僕以外の全員をガラスの床から離れさせた。
「に、兄、どうするの…?」
斬弥が怯えながら聞いてきたので、僕は準備を進めながら話した。
「…15年くらい前、斬弥が…4歳くらいの時にさ、…家族4人で、海に、行った時」
ドミノのように倒れてくるビルの瓦礫に気をつけながら、地面を感じ、小さな岩から大きく大きくしていく。
「あん時…木の枝かなんかで、力加減バグって海、空間ごと削ったんだよ…っ!」
「斬弥、4歳で海削ったのかよ…」
駿扉が驚きのあまりツッコミを入れ、思わず力が緩みそうになって、気を引き締めた。
「…そんな時もこうやって、こう、して…まあ、あれは…砂だったけど…」
昔砂で作った巨大なガーディアンを、固いアスファルトの下の、岩を、大地を、ガラス越しの足から直接感じ取り、生成する。
大地の衝撃を直接感じることは、かなりの振動やGが、体の負荷がかかる。
「あと…少し…間に合え…!」
「駿扉……準備っ!!!」
瓦礫の波がぶつかるタイミングで、ガーディアンをぶつけなければならない。
がそれは、凄まじい衝撃波となる為、体が耐えうるか分からなかった。
「4,3,2,…今!!!」
僕はガーディアンをぶつけると同時に駿扉の手を掴んだ。
酔いそうなあやふやな空間を一瞬だけ体感し、次にまばたきをすると家の中だった。
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