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郷に入って、見えたこと。その1

預かり保育に娘を迎えに行き
帰宅すると同時に、
幼稚園リュックの中に入っている
ランドセルのパンフレットを雑がみ用の
紙袋に投げ込む頻度が上がった。

我が家はもうランドセルを決定済みなので
無邪気にカラフルなパンフレットにより
6歳児のいっときの感情が左右されては困る。

20年前のわたしの時代から
遥かに選択肢が増えたランドセル選びに
心が躍ったのは去年の4月まで。

合同展示会への参戦を終えた昨年6月には
すっかり疲弊し、
6年間のうちに飽きがくるのはもう仕方ない
せめて再来年の入学時までは
今の気持ちのままでいてくれ、という
切実な願いを込めて、申し訳ないが
今のタイミングで配布してくる
パンフレットには瞬時に別れを告げている。


早いもので、
来年の4月には娘は小学生になる。


小学生になるにあたって
ランドセルの調達はあらゆる意味で
ビッグイベントだが、
もちろんそのほかに考えるべきことは
山ほどある。
山が高すぎて、できることならば
背を向けて海だけを見ていたい、と
思い実行してしまうのは、
ギリギリでいつも生きていたいから〜
を地で行くわたしの悪い癖。

長女であり、一人っ子である
我が家の娘にとっては
結構優先度高く考えなければならないのが
登下校どうする問題。

上の子がいれば、
問答無用で同行させる家庭が多いだろう。

うちは同行させる上の子がいない上に
一人っ子なので
ベビーカーで手が塞がるということもなく、
外を歩くときは未だ繋いだ手を
元気に振りながら常に歩道の内側を歩かせている。

下の子がいる家庭がみんな
上の子に目が行き届いていないとは思わないが、
やっぱり一人だとどうしたって
手を繋いでいない代わりにすることもないし
後ろからの自転車や
駐車場から出てくる車に、
自分だけで歩いているときの何倍も
無意識のうちに目を光らせてしまう。

そんなかんじで外界を生きているので、
わずか9ヶ月後に、娘が玄関を出て
一人で学校まで歩いて行くところを
まったくもって想像できない。

それでは困る。みんなどうしてるのだろう
と調べると、出てくる出てくる
「ご近所さん」や「お友達の兄姉」の文字。
詰んだ。
わたしが理屈っぽい偏屈な性格で
いわゆる「ママ友」なるものが苦手なゆえに
娘と一緒に登校してくれそうなアテがない。

登下校のことだけを考えれば、
一緒に行くお友達ができるまで
わたしが学校の近くまで送っていってもいいな
と思うのだけど、
学童事情や、GPS/携帯持たせてるのかなど
全国ネットでは拾えない
「実際みんなどうしてる?」系の問題が多い。

これは困った、と思ったわたしの大きな決断。

幼稚園最後の一年にして、
PTAに入ることにした。

正確には「入ることにした」というより、
カメラマンとして保護者参加不可の行事に
同行することができるし
元生徒会執行部だった身からすると魅惑的な
“卒園実行委員”という響きに釣られ立候補したら
卒園実行委員はPTAの一部だったらしく
うっかりPTAに「入ってしまった」と言うべきか。

まあとにかくここまで苦節1,228文字を経て
この4月からPTAになったのだ。


4月の下旬、
「立候補ありがとうございます!
子どもたちの園生活を近くで
サポートできるPTAは楽しいですよ♩
1年間よろしくお願いします!」
という趣旨の、お花のエフェクトでも
飛んできそうなお手紙と同封された
年間スケジュールを見て驚愕。

1週間後、顔合わせ 09:45~12:00
2週間後、第一回委員会 09:45~12:00
という文字。

初回の集まりが1週間後で直近だな
ってことに関しては、
募集用紙にも予め書いてあったので、まあいい。

それよりも目が釘付けになったのは
1週間後、顔合わせ 09:45~12:00
2週間後、第一回委員会 09:45~12:00
という2箇所。

何をどうやったら顔合わせに2時間15分かかるのか、
そもそも翌週に第一回目が決まっているなら
そこの冒頭15分を顔合わせとすればよくないか。

と思うものの、
一応わたしにも人の心はあるので、
このスケジュールを組んだ人たちが
持ち時間一人30分で自己紹介をし
顔合わせに2時間15分要すると思っている
わけではないことくらいはわかる。

だとすれば、考えられるのは
「雑談」をする前提で予定が組まれているか、
要する時間をもとに予定を組むのではなく
集まりといえば9:45~12:00という慣習があり
毎年毎回集まりの要件は問わず
時間の欄は9:45~12:00としているか、
そのどちらかだろう。
途方もなく絶望的に感じた、どのどちらも。

とはいえ、わたしは
郷に入ってはその郷で
求められているであろうことを笑顔でこなす
というスキルを持ち合わせているし、
思ってもいないことを喋ること
喋り続けることにだけは長けているし、
そもそも立候補した目的も
娘たちの卒園を実行することではなく
小学校に向けてのネットワーク作りなので
顔合わせ当日もそれなりに楽しく過ごした。


PCはある程度使えるので
DVDもお便りも議事録も作れるといえば
大変感謝と重宝をされてしまったので、
その代わり忘れ物をしないとか
集合時刻に遅れないとか社会生活の
基礎的なことが本当に苦手で、と
事実なのだが笑いを取れる自虐を忘れず、
夫の話題になり離婚していることを
言わなければならなくなったときには
その話題を振った人に気まずい思いを
させないよう、元夫話で一笑い取っておく。

そんなことを脳を経由せず
条件反射的に口先だけでこなしながら、
脳はずっと全然違うことを考えていた。


卒園実行委員の仕事に
DVD・お便り・議事録の作成があるのなら
募集のお便りに書くべきは間違いなく
「行事に同行できます」ではなく
「PCを所有し、使える人」という条件だろう。

一応わたしにも人の心はあるので
そんなことを書けばただでさえ集まらず
電話で嘆願、あるいはくじ引きになる
PTAなり手不足に拍車をかけるので
書いていないのであろうことはわかる。
けれど、仮に集まった4人が4人とも
PCができなかったらどうするのだろう。

と思ったら、
去年はみんなできなかったそうで
3月に4人目(!)の出産を控えている
もともとPTAをやっていた方が
10~2月にかけてDVDを制作したらしい。
なんとその方は、その3月に産まれた
生後2ヶ月の第4子を片手に今年もPTAをやり
「DVD担当は謝礼金が出ますよ!1万円!」
と屈託のない笑顔を向けてくれたので
だとしたら、1時間で作れるものにしないと
割りに合わないなと考えつつ、そうねんですね〜
とこちらも負けじとにこやかに返す。

そもそも、募集要項にあった
「カメラは持参していただきます」
という注意書きだっておかしい。
奇想天外な行動をする幼稚園児を撮影するのに
なぜ自腹で我が家用に買ったカメラを
稼働させなければならないのか、
ちなみにプール撮影もあるけれど
仮に故障でもしたらそれはこちらの負担なのか。

だいたい今この場にいる
卒園実行委員以外の担当も含め
今年度のPTA20人近くが
全員お母さんなのもいかがなものか。

ついでにわたしが小中学生だった頃、
PTAは全員女性なのにも関わらず
お便りに挨拶を寄せ顔写真が載る
PTA会長だけは男性で変なかんじがしたが
今期のPTAは会長もお母さんだったので
その点は安心(?)した。

なんかおかしい、なんか歪。
でもそんなわたしの指摘は
当然何年もPTAをやっている人たちは
わかっていて、それでも
誰かがやらないと回らないから
気にしないことにしているのだろう。

あるいは、一人目の3年間
二人目、三人目…と5年も6年も
我が園のPTAを務め、PTAとして
ベテランになることや
PTAをやることで仲間を得ること
PTAとして目的を成し遂げることで
家庭以外の場で得られる達成感や
やりがいがあるのかもしれない。

だとしたら、そういう人にとっては
PTA活動への参加はとても前向きなものだし、
前向きな理由で立候補したわけではない
わたしにとっても、やればやったで
雑談もしたらしたで楽しいのも事実。

でも、それでも、
今この場に見えない存在のことを思う。
同じく「幼稚園児の父親」であるはずの
男性たちのことを思う。
わたしもだけれど、PTAの中には
当然ながら仕事を持つ人もいた。
PTAの集まりで休みを取れる女性と
PTAの集まりで休みを取れない男性を、
子どものことで休みをとれる仕事
をしている女性と
子どものことで休みを取れない仕事
をしている男性のことを思う。

または、今日この場にいるけれど
担任の先生からの電話を断れなかったお母さん、
くじの運が悪かったお母さんのことを思う。

たしかに回っている。
たしかにやれば楽しい。

それでも拭えない、これでいいのか感。
この「ほかに誰もいないなら…」に頼るのは
出産で仕事を諦めないための企業の制度や
その制度を支援する政府の方針が進んでいる昨今
わりと近い将来の話で
持続可能性がおそろしく低くはないか。

そこまで思うと、これはPTAに限った話ではなく
家事・育児・介護などのケア労働を
「ほかに誰もいないなら私がやるしかない」に
無償で担わせてきたのも同じ話だと気づく。

これでいいのか。
持続可能性が低いことは薄々気づいているけれど
大きく改変するにはパワーがいるし
とりあえず今のところは回っているし
破綻するまではとりあえずこれでいくのか。
それでいいのか。


そんなことを考えながら、
DVDは作れるけど教習者しか運転したことないので
行事撮影乗り合わせで行けるの助かります〜と
へらへら笑っていたら、
2時間15分も何をするのだと思っていた
顔合わせは終わっていた。


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